映画館のネット購入システムに求められるものとは? 新時代の映画館に向けて

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2019年07月15日 10:31  リアルサウンド

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立川シネマシティ

 東京は立川にある独立系シネコン、【極上爆音上映】等で知られる“シネマシティ”の企画担当遠山がシネコンの仕事を紹介したり、映画館の未来を提案するこのコラム、第38回は“映画館のネット購入システムってどうなの?”というテーマで。


●「チケット争奪戦」増加の背景


 舞台挨拶あり上映とか、応援上映なんかで、受付開始直後、映画館のネット購入ページに全然つながらなくなること、多いですよね? これには、単に人気があるから、ということだけでなく、下記のような原因があります。


・スマートフォンの普及による、インフラ構造の変化
・映画館のカルチャー的位置づけの向上
・イベント上映の増加


 スマートフォン普及によって、インターネットへの口は大きくモバイル端末が占めるようになり、例えばシネマシティの公式サイトへのアクセスは数年前から8割強がモバイル端末からです。


 常に手元にネット環境があるその気軽さと利便性から、多くの人が買い物するようになり、ネットで何かを買うことへのアレルギーは減少していき、必然的に映画のチケットもその対象になっていきました。


 そこそこ映画をご覧になられる方ならもはや、とりあえず映画館に行ってみてどこが空いてるか窓口で確認する、ということは減っているのではないでしょうか。


 次に大きな理由は、映画館のカルチャー的位置づけの向上が甚だしいことです。


 かつてはふらっといつ入ってもいつ出ていってもよかった暇つぶしの代表格だった映画館は、シネコンの台頭にあわせてゼロ年代に時間指定、入替制、座席指定が一般的になり「ちゃんと予定を組んで行く場所」になりました。映画はちゃんと頭から最後まできちんと鑑賞するものになりました(30代前半より下の世代にはこんなこと当たり前すぎて意味がわからないと思いますが)。


 つまり演劇やコンサートと同じレベルにまで地位が上がったのです。当然、演劇やコンサートのチケットのようにあらかじめ購入して座席を確保しておきたい、ということになります。


 そしていわゆる「チケット争奪戦」になるのは主に特別なイベント上映の場合がほとんどです。


 舞台挨拶のような基本的なものはもちろん、最近定番化してきた応援上映、リアルタイム中継のライブビューイング、映画祭、それにIMAXやDOLBY CINEMAなどの特殊スクリーンでの上映にやはり人気があります。


 このコラムでも何度も書いてますが、映画館は映画がこれだけ多くの手段で観られるようになってきた中で「それでもなお映画館で観る意味」を模索しています。そのために特別な上映が多く行われるようになってきたのです。


 この3つが重なって、重くてつながらない、という状況が発生しています。ここ数年でそれがぐっと多くなってきたので、映画館のサイトは何か目立つ上映があるときはつながらないもの、という認識が広まってしまいました。


●映画館最強クラスの予約システムとなった立川シネマシティ


 これについてまずは映画館スタッフ側の言い訳をさせてもらうと、多くの映画館で「争奪戦」と呼ばれるような、数分でチケットが完売するような状況が発生するのは、だいたい月に1度あるかどうかくらいでしょう。都市部でなければ、そんな状況など一度たりとも起こったことはない、というほうが一般的です。


 例えば10スクリーンのシネコンなら1日に1スクリーンで5回、計50回の上映があり、月だと1500回、年だと1万8千回にもなります。その内のたった10回ほどの「争奪戦」上映のために合わせてシステムを構築しますか、ということです。ITに関わっている方でなくても、そんなことはしないと考えるでしょう。


 演劇やライブによく行かれる方なら、大手チケット販売代行会社のサイトだって、大型イベントの販売がある土曜の朝10時なんかはつながりにくくなっていることがあるのをご存知でしょう。一大国家イベントであるオリンピックのチケットサイトですら、なかなかつながりませんでした。


 いわんや、映画館サイトをや、です。しかし、僕が働いているシネマシティの場合は、ちょっと特殊です。


 シネマシティではこの「争奪戦」状況が、ずいぶんと早く訪れました。それは2009年に公開された『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』の今のネーミングで言うところの【極上音響上映】を仕掛けたのがとてつもなく成功したためです。すべての座席がネット予約で埋まるのが珍しくないようになったのです。


 さらにスケールがぐんと増したのは、2014年6月の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の【極上爆音上映】です。数多くのメディアで取り上げられたり、有名な方が次々とツイートしてくださり、いきなり全国区に名前が知られるように。


 このため連日のように完売状況が発生し、とりわけ土日の上映の予約開始日などは、開始時から3時間も4時間もサイトにつながらない、という地獄のような日々でした。


 「シネマシティはスピーカーじゃなくサーバーに金かけろ」と叩かれまくり、さらにつながらないばかりかアクセス殺到にクレジット決済でエラーが頻発し、その謝罪と修正、改修に忙殺される夏を過ごしたのでした。思い出すだけで吐き気を催すレベルです。


 夏が終わってようやく乗り切ったと思ったら、すぐ秋には『ガールズ&パンツァー劇場版』が始まり、そのあまりの超絶人気は『マッドマックス』が一瞬で過去になるほどでした。またもまったくサイトにつながらない日々。


 「予約システム、走行不能」などと笑ってごまかしつつ裏では必死で、本当にかの音響設備に匹敵する多額の投資を行い、もはや立川にしかない映画館の予約システムとは思えないハイスペックに改良していったのでした。


 そのおかげで現在は、おそらく国内映画館最強クラスの予約システムを誇り、380席の劇場が約1分半で売り切れます。数千というアクセスがあっても遅延もほぼなし、決済エラーも皆無です。


 映画は観ないけど、この「売れっぷり」をリアルタイム観戦したい勢も生まれるほどになりました。このようなことができたのは、シネマシティにおいては争奪戦状況が日常だからです。


 年に10回の状況にはお金を掛けられなくても、それが年に100回ならやらざるをえなくなります。この予約率の高さは、上映開始20分前まで無料でキャンセル可能である、というサービスも大きな理由のひとつです。


●「早い者勝ち」システムから「抽選制」に?


 しかしシネマシティではこの処理速度の向上と、予約操作の簡略化によって、あまりにも短時間で決着がつくようになったため、操作に手慣れた方がかなり有利になってしまう、という次なる問題も起きています。公平性に欠けてしまったのです。


 これは新規のお客様にとっての障害になってしまいますので、いずれ解決しなければならない課題のひとつです。


 映画館のネット購入のシステムはまずは「導入」という段階を終え、今は「改善」というフェーズの途中にあると思います。


 やがて多くの劇場で窓口販売数より、ネット販売数が上回っていくことでしょう。そうしたら、今はほぼすべての映画館が「早い者勝ち」システムですが、いずれどこかが大手チケット販売代行のように「抽選制」を導入するかも知れません。これはアクセス分散だけでなく公平性の確保のためにも取り組むべき課題だと考えます。


 ただし毎日のことになるので抽選期間はどうするのかなど、考えるべきことは多いと思います。手間も増えるでしょうし。


 なので先述の通り、1万8千回/年上映のうちの何回それを必要とするかを踏まえると、必要な際にアウトソーシングした方が良いかも知れませんね。


 じゃあシネマシティはどうなんだ、と問われたなら「新時代を切り拓く用意ならある」と答えておきます。


 忘れもしない、2017年12月25日の朝、シャワーを浴びている時にクリスマスなんか関係なく働く僕に映画の神様がプレゼントしてくれた、これまでにまだ存在していない、まったく新しいネット予約システムのアイデア。先述の課題も解決できます。


 それ早くやれよ、と言われそうですが、こんなふうに未来を語っておきながら、シネマシティのサイト、まだ完全にスマホ対応していないというトンデモ時代遅れでして……まずはそこからです。足下を大事にしないと。


 映画館業界は今、どんどん変わりつつあります。少し前には、いつかなくなるだろう施設なんて言われてましたが、その可能性は低くなってきたように思えます。映画館は死なない。


 その変化のスピードに、いろいろ追いついてない点も多いですが、シネマシティがそうだったように、嵐にさらされればきっと改善されていきます(笑)。


 You ain’t heard nothin’ yet ! (お楽しみはこれからだ)(遠山武志)


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