『テラスハウス』東京編:第5〜8話にみる、春花と莉咲子の“バチバチな関係性”

0

2019年07月16日 18:02  リアルサウンド

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

リアルサウンド

『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020』(c)フジテレビ/イースト・エンタテインメント

 「好き」という感情がめまぐるしく移り変わり、6人の男女の間を錯綜しつづけた第5〜8話。テラスハウス史上でもまれに見る激しい展開と恋愛攻防戦が繰り広げられている。


(関連:『テラスハウス』東京編:第1〜4話おさらい 壁のない家・性格・言動が彼らを加速させる


 そんななか注目すべきは、“春花は隣の芝生が青く見えちゃう女性”であることと“山ちゃんの結婚は、今後の発言に変化を及ぼすのか”という2つの楽しい見方が、第5話から新たに視聴者へと与えられたことだろう。ここでは、春花と莉咲子の“バチバチな関係性”を軸に、第5〜8話までの出来事を振り返っていきたい。


■水面下での攻防戦、衝突の予兆
 第5話(あるいは第4話の終盤)を振り返るとまるで大昔の出来事かのようで驚いてしまうが、そこでは春花と莉咲子が流佳を取り合うという構図がたしかに存在していた。莉咲子がパルクールの練習場へと車で送ってほしいと流佳を誘えば、次の場面では春花が流佳に予定を聞き、クルマ屋さんへ行く約束を取りつけている。第8話終盤の“あの出来事”への助走段階にはすぎないものの、それなりに激しい水面下での争いが、流佳の取り合いによって展開されていたのだ。


 しかし思い返してみると、春花も莉咲子も、流佳が好きだということを明言していたわけではない。春花の場合は「気になる」で、莉咲子の場合は「気があう」くらいが、実際のところだったのだろう。そうしたなかで、ふたり同時にして徐々に深まっていく、ケニーへの想い。好きな人には自分のことを聞いてもらいたくなるという莉咲子はケニーにパルクールと仕事との両立について相談し、一方の春花は、ケニーと話すのが一番緊張するーー要するに男性として意識してしまうと、第5話の時点で明らかにしている。春花に関しては自分で「他人のものがよく見えるタイプ」と言ってしまっているのでどうしても後追いであるように見えてしまうのだが。


 彼女たちの感情が流佳からケニーへと向けられていたことに視聴者がはっきりと気づくのは、テラスハウス第1話の放送を6人がそろって鑑賞し、そのあと現状の心境を確認し合うという場面(第6話)でのことだった。香織が翔平を気になると発言したことも驚きだったが、それ以上に、2つのベクトルが同時に回れ右していたことが一番のサプライズに。そうした流れを経て、第6話終盤でのケニーをめぐる戦いの火蓋が切って落とされる。


 臆面のない性格からやはり最初に仕掛けたのは莉咲子のほう。(偶然ではないだろうが)春花がいない隙にケニーとデートに行く約束を取りつけることに成功。それを受け、先手を取られたくなかった春花は香織に手伝ってもらいながら、すかさずケニーへとアタックする。屋上と1階を行き来するという、あの家を余すことなく使ったダイナミックな運動も後押ししてのことか、サスペンスドラマを見ているかのようなハラハラ感満載の展開を見せた、第6話のハイライト。水面下での誘い合いのあと、春花と莉咲子、ケニーの3人が屋上に取り残される瞬間の気まずさと恐ろしさと言ったら……。地鳴りすら聞こえる、崩壊への予兆に感じられた。


■ずっと一緒にいることで見えてくる
 「週に1回しか会えない人より、週7で会っている人のほうが色々知れるし、その人の良いところがだんだん見えてくる」(春花/第6話にて)。これは悪いところも含め様々な面を知れるようになるという意味の発言だと思うが、恋愛することにおいてテラスハウスで生活するメリットを春花はいつの日か話していた。そして春花だけでなく、こうした意見をみんなが漏らしだし、好意の対象に変遷が見られるようになったのが、最近の数話での出来事だ。流佳は香織への尊敬の念と興味を強め、翔平は春花の接し方に安心感と好意をもつようになる。香織にしても、唯一自分の悩みを話せる存在として、翔平への想いを強めてきたのかもしれない。長く接していると何もかもが見えてくるのだ。良いところも、そして悪いところも。そうすると、あの人とは絶対にわかりあえないという“差異”も、徐々に肥大化していく。


 ここで第8話終盤の出来事へと話を進めよう。他人(莉咲子)の口から、意中の相手(ケニー)に向かって自分(春花)の心情が伝えられる、あの悲劇的なシーン。発言の意図が不明で、ぜんっぜんわかりあえないことに驚いて、春花は思わず泣いてしまう。ただ実際のところ莉咲子は、「ケニーくんといると緊張する」と発した春花に対して「私は好きな人とどっか行くと緊張するよ〜」とやんわり遠回しに応答しただけ、とも取れる場面。その結果全員が気まずくなってしまい、変な空気が流れて誰も発言できなくなってしまうという、誰が悪いとかではない問題のようにも見えた。苦しさを増幅させるのはむしろその後の会話の方にあるのではないか。春花と莉咲子の意見は徹底的にすれ違い、心と心は離れていく。


 わかりあえなさすぎて泣けてきてしまう、という経験。多くの人が共有できる感情なのかはわからないが、少なくとも筆者は似た経験を持ち合わせていたので、春花に少し共感してしまった。そういう気の合わない相手がいても、普段であれば遠ざけていたかもしれないが、ここはテラスハウス。気にくわない相手がいても、一緒に暮らさなければいけない。過去シーズンという前例が示しているように、大人のわかりあえなさというのは案外溝が深いもの。人と人がぶつかる瞬間を客観的に見られるのも、このコンテンツの醍醐味であるが、2人の関係性が今後どういう方向に向かっていくのか、気になるところだ。


 女子会で持ち上がった男子の消極性への不満を経て、男性陣のスピード感も増してくるのではないかと予想される今後の展開。ケニーをめぐるいざこざにも決着がつきそうだ。過去シリーズでも類を見ないほど恋愛への熱が強い東京編。現時点の恋の矢印を整理すると、【流佳→香織→翔平→春花→ケニー←莉咲子】というおもしろい状況になってきている。家族感の強かった軽井沢編(とくに最初のほう)とはまた異なる月9ドラマ的な恋愛模様の変遷に、第9話以降も心を踊らされるに違いない。「気になる」が「好き」のレベルに到達する瞬間を、ぜひ見せてほしい。


■原航平
1995年生まれ。ライター/編集。映画やドラマ、演劇などのカルチャーをこよなく愛する。テラスハウスは日々の癒し。


    ニュース設定