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スタジオぴえろ創設者・布川郁司が語る、日本のアニメの強みと業界の課題【インタビュー】

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2019年07月17日 19:02  アニメ!アニメ!

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アニメ!アニメ!

写真スタジオぴえろ・布川郁司インタビュー
スタジオぴえろ・布川郁司インタビュー
アニメサイト連合企画
「世界が注目するアニメ制作スタジオが切り開く未来」
Vol.16 スタジオぴえろ

世界からの注目が今まで以上に高まっている日本アニメ。実際に制作しているアニメスタジオに、制作へ懸ける思いやアニメ制作の裏話を含めたインタビューを敢行しました。アニメ情報サイト「アニメ!アニメ!」、Facebook2,000万人登録「Tokyo Otaku Mode」、中国語圏大手の「Bahamut」など、世界中のアニメニュースサイトが連携した大型企画になります。


スタジオぴえろ代表作:『ニルスの不思議な旅』『うる星やつら』『魔法の天使クリィーミーマミ』『幽☆遊☆白書』『NARUTO』『BLEACH』『東京喰種』『おそ松さん』『ブラッククローバー』

スタジオぴえろの前身は、1977年にアニメーター・演出家の布川郁司が発足した、演出家グループ「ぴえろ」だ。

同グループはTVアニメ『みつばちマーヤの冒険』などTVアニメシリーズを手がけた後、『ニルスのふしぎな旅』を制作するために、1979年にアニメ制作スタジオとして「株式会社スタジオぴえろ」(以下、ぴえろ)を設立した。

1981年、『うる星やつら』(キティ・フィルム製作)の制作を手がけたことで注目を集めた後、1983年に『魔法の天使クリィミーマミ』を筆頭とするオリジナルシリーズ「ぴえろ魔法少女シリーズ」では出資も行う製作会社へと転換。
『きまぐれオレンジ☆ロード』や『幽☆遊☆白書』、『ヒカルの碁』、『NARUTO-ナルト疾風伝-』など、人気コミックスを原作としたTVアニメーション制作を数多く手がけ、MDや海外進出でも成果を上げてきた。

日本のアニメ黄金期ともいえる1980〜90年代において、企画・制作の立場でスタジオぴえろを牽引してきた布川氏。
現在は、代表権を持たない取締役最高顧問としてスタジオに在籍する一方で、アニメプロデューサー・演出家の育成を目的としたNUNOANI塾を設立し、塾長として日本のアニメーション業界の未来を担う人材の育成に努めている。

40年間、日本のアニメーション制作現場を見続けてきた布川が、スタジオぴえろで得たものは何か。そして、これから日本のアニメ業界が目指すべき目標は何かを、布川の個人的見解として率直に語ってもらった。
[取材・構成=中村美奈子、撮影=小原聡太]

(C)岸本斉史 スコット/集英社・テレビ東京・ぴえろ『NARUTO』『BORUTO』シリーズは、海外にも熱狂的ファンが多数。
取材場所であるスタジオぴえろは、三鷹市の閑静な住宅街に位置。
スタジオのモチーフであるぴえろのオブジェがお出迎え。
エントランスには代表作のポスターが並ぶ。
『ファイナルファンタジー』シリーズなどで知られる天野喜孝氏、『魔法の天使クリィミーマミ』キャラクターデザイナーの高田明美氏が描くピエロ。
インタビュー場所となった応接間には、自社作品のパッケージやグッズがズラリ
■日本のアニメの魅力は、設定・ストーリー・キャラクター
布川郁司氏
――布川さんが、アニメーターになった1960年代当時のアニメ業界は、どんな様子でしたか?

布川:朝ドラ『なつぞら』でも描かれているけれど、東映動画が1956年、虫プロダクションが1961年、竜の子プロダクション(以下、タツノコプロ)が1962年に設立されているから、僕がアニメーションの世界に入った時期は、ほぼ創世記に近かったんです。
僕は、グラフィックデザイナーになりたくて山形から上京して会社勤めをしていましたが、会社を辞めた後に「絵が好きな人募集」という新聞広告を見て、朋映プロに入りました。

「アニメーター」という言葉すら定着していない時期で、何をするのかも知りませんでしたが、映画が好きで映像に関わる仕事をしたかったこともあって、入ったときは楽しかった。
彩色や動画、原画など、ひとつひとつの仕事が楽しかったし、人間関係にも恵まれて、楽しく仕事をしていた記憶があります。当時は、ひとつのプロダクションで音響以外のすべての行程を手がけていたから、アニメーション制作の工程を流れで全部見て覚えました。

――現在、日本で制作されたアニメーション作品は、海外でも“ANIME”と通じるほどですが、1970年代にはすでに日本のアニメーションが海外に輸出されていたそうですね。

布川:そうなんです。日本のTVの創世記は、アニメと同じく1960年代。当時は全部番組を作って時間を埋めるのは大変だったので、海外のTV局からたくさんの番組を買って、放送していました。
その流れで、逆に海外に日本のアニメもたくさん売られていたんです。

理由は、日本のアニメが安かったから。「何本まとめておいくら」というたたき売りみたいな感じで。だから、海外で日本アニメを見て育った人は、実はもう第3世代くらいになっているんです。

――歴史的には、海外も日本もほとんど変わらないんですね。布川さんが関わった作品で、海外の人にも人気の作品は何ですか?

布川:原画を描いた演出時代に演出した『みつばちマーヤの冒険』(1975年)。実は僕も海外に行って初めて知りましたが、それこそ日本の『サザエさん』に並ぶくらい、みんな知っているんですよ。
原作を書いたのがドイツ人作家さんということもあって、北ヨーロッパで開催された日本アニメフェスティバルに呼ばれて、僕が主人公のマーヤを描くとみんな感動して、神様みたいな扱いを受けました。


短いフィルムも含めると、世界で放送されている日本の作品は、2000〜3000本で、実は日本よりも多い。『みつばちマーヤの冒険』も、44カ国語に翻訳されて放送されているし、高畑勲さんと宮崎駿さんの『アルプスの少女ハイジ』(1974年/ズイヨー映像制作)や、『キャンディキャンディ』(1976年/東映動画制作)を見て育った人も多い。

フランスの元サッカー選手、ジネディーヌ・ジダンが、『キャプテン翼』(1983年/土田プロダクション制作)を見てサッカー選手に憧れた逸話もあるし、日本のアニメーションの影響力は本当に大きいんですよ。
最近では特にインターネットの普及で、思いがけないところに日本のアニメファンがいます。

――海外で、日本のアニメーションに人気が出る理由はなんですか?

布川:スタジオジブリの作品を別にすれば、今世界的に評価を受けている“ANIME”の大部分は、30分枠のTVアニメーションです。正味二十数分で連続性のあるアニメを観せるのはけっこう大変で、フルアニメーションでもないし、はっきり言って動きのクオリティもそれほど高くない。
では何で持たせているかというと、「設定」「ストーリー」「キャラクター」。ドラマを通してその魅力を表現するために、制作側のいろんな知恵が入っているからこそ、大人が観ても十分鑑賞に耐えうるものとして評価されていると思います。

幼児向けのアニメは、世界各国でいろんな番組が作られていますが、海外では、マンガやアニメは子どものものという認識のため、ティーン向けのアニメはあまりない。そこに、ドラマ性の高い日本のアニメーションがフィットしたんだと思います。
中高生は影響を受けやすい世代なので、そこから日本のマンガやアニメが浸透していきました。

――『NARUTO-ナルト-』は海外でも人気がありますが、「忍者」など日本文化的な要素がある作品の方がヒットするんでしょうか?

布川:違います。ストーリーのおもしろさが第一ですね。


僕は、日本のアニメが世界で評価を受けたのは、あくまで偶然だと思うんです。
日本で評価を得るために作った番組が、たまたま海外でヒットしただけで、別に業界が仕かけた動きではないですから。

例えば、ぴえろが制作した『太陽の子エステバン』(1982年)は、国内の成果は芳しくありませんでしたが、フランスでは知らない人がいないくらい人気が出ました。
スペインでは『天才バカボン』(1972年/Aプロダクション制作)、最近はインドで『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(1996年/スタジオぎゃろっぷ制作)が流行しているというから、本当にわからない(笑)。


ただ、スペイン語のバカボンのパパは、声がおもしろくて。だから、ローカライズがうまいという要素は、重要かもしれません。
→次のページ:アニメをビジネスとして成立させる仕組みづくりが急務


■アニメをビジネスとして成立させる仕組みづくりが急務
――ぴえろは、1984年に版権管理事業を行う「株式会社ぴえろプロジェクト」を設立するなど、アニメビジネスに早い時期から取り組んでいました。アニメをビジネスとして成立させる必要性を、どんなところで感じていましたか?

布川:我々の仕事はギャランティありきのコマーシャルアートであり、アカデミックな芸術作品とは違います。
先ほど“ANIME”と評価される作品のほとんどは30分番組だと言いましたが、その放送枠は今や主に深夜帯、1作品1クールものがほとんどです。

アニメーションの制作費は、回数をこなすほどに制作費が下がります。理由は、設定や音楽などを作るコストの比重が最初ほど高いから。
ところが1クール作品の場合は、設定がやっと積み重なったと思ったらもう終わりで、また新しい作品を作り始めなければいけません。そうなると、新しい作品に合わせて監督もスタッフも変える必要が出てくるので、コストが非常にかかります。

人材不足も重なって、制作キャパシティが限界に達している点が、現在もっとも問題になっています。

――スタジオを維持するコストもかかりますね。

布川:そこも問題ですね。制作費だけではスタジオを維持できない構造的な仕組みが、アニメ業界にはあります。
幸いぴえろは、過去のコンテンツの権利があるおかげでなんとかやっていけている。アニメーションは作れば財産になりますから。

今は、製作委員会でも出資が100パーセント集まらずに、足りないまま無理して制作している状況に陥っている作品もあると聞いています。
特に1クールの作品だと、放送前に商品を作る必要がありますが、売り上げが立つかどうかの見通しは非常に難しくなり、スポンサーもなかなか手を上げづらい。
これまでは製作委員会制でなんとか乗り切ってきましたが、それも限界が来ていると感じています。


一方で、1クールだからこそオリジナル作品の制作が可能になったり、若くて優秀なクリエイターが出て来たりする良い面もあるんですよ。
そこは否定しませんが、需要と供給のバランスが悪いため、1クールアニメでの成功モデルがなかなかつかないんです。

国内だけですべてを補うのに限界があるのなら、製作委員会に外資を入れたり、海外の制作会社と合作したりする方向性も考えなくてはいけません。

――現在では、海外の制作スタジオへの発注も増えていると思います。

布川:ハリウッドも、いろんな国のスタジオの力を借りて大作を生み出しています。今はインターネットも発達していて、画像のデータのやり取りも便利になっているのだから、ものづくりがワールドワイドになるのはとても良いことだと思いますよ。
そうやって日本の技術が世界に広まれば、“ANIME”の裾野も広がるでしょう。

日本のアニメーションは、マンガ文化と切っても切れない関係があります。マンガ誌が毎週、毎月のように発売されて、定期的に新しい作品が生み出されている環境は、他の国にはありません。

海外の人は、日本の制作力と創造力に驚愕します。1人のクリエイターの独創性に頼るところが大きいマンガ文化は、今後も廃れないと思いますが、アニメーションは逆にたくさんのクリエイターの力を集結して作品を作り上げる文化です。
マンガ原作で大きく発展してきた日本のアニメーションですが、紙文化が弱ってきているこれからの時代は、むしろオリジナルアニメに挑戦していく時代になるのではと予測しています。

――視聴者がアニメを鑑賞する媒体も、TVから配信へと移ってきていますね。

布川:利益の面から言っても、配信モデルの収益が大きくなってきています。
これから、コンテンツはどんどん有償化されていきますから、制作と収益両面を時代に合わせて変えていく必要があると思います。それをやるのはクリエイターではなく、プロデューサーの役割。

日本では、演出家は演出しかしないという完全分業制が根強く、作品に演出家の独断や好みが強く出る傾向にあります。
しかしビジネスとして組み立てる場合、だれかひとりのニュアンスで仕事をしている状況は良くない。

世界的には、プロデューサーがディレクションしたり、ディレクターが演出、プロデュースしたりするのは当たり前。プロデューサーはお金や労力の計算だけではなく、視聴者のニーズを把握するマーケット感覚を持ち、それを作品に反映させるバランス感覚を持っていないと、いつまで経っても現場は豊かにならない。

だからプロデューサーになる人でも、絵コンテやストーリーを読む力を身につけて欲しいと思い、若い人材にビジネスを学ぶ場としてNUNOANI塾をスタートしたんです。
→次のページ:キャラクターを進化させ、継承していく時代へ


■キャラクターを進化させ、継承していく時代へ
――日本のアニメ業界は、これからどんな方向を目指すべきだと思いますか?

布川:日本は、古いものをどんどん捨て去って、常に新しいものを求めていますが、まったく新しいものを生み出すには限界があります。
最近のハリウッド映画は、古いコンテンツを今の技術でリメイクした作品が多いですよね。例えば、ミッキーマウスのように100年以上もキャラクターを進化させ続けていくことを、日本のキャラクターでもやるべきだと思います。
過去ヒットしたものを継承していくのも、大事なことではないかと。

――『おそ松くん』をベースにした『おそ松さん』は、社会現象を起こすほどの大ヒットとなったのも、時代のニーズに合わせた進化を遂げたからと言えますね。そういったアイデアは、どのように生まれてくると考えていますか?

『えいがのおそ松さん』(C)赤塚不二夫/えいがのおそ松さん製作委員会 2019
布川:やはりクラシックでヒットしたものは、その時代の視聴者の琴線に触れる「芯」があったということです。そのヒットする「芯」があれば、時代に合わせて少し体裁を変えれば、新しい商品になる可能性が高い。
『クリィミーマミ』も35周年を迎えましたが、制作当時は1年間のTVシリーズとしての構想しかなかったんです。それでも今なお受け継がれ、愛されているのは、時代を経ても視聴者の興味を引く「作品の魂」があるからこそでしょう。

『魔法の天使クリィミーマミ』(C)ぴえろ
私はよく「作っているものに対して、魂を入れろ」と言うんですが、どんなに当たった作品でも、魂が入らないとつまらない。会議で合議制のもと「これでやりましょう」と決まったものは、大抵おもしろくなりません。
逆に、プレゼンでプロデューサーや監督が、「この作品に惚れて惚れてしょうがなくて、これがやれなかったら死ぬ」というくらい、熱病にうかれた人のほうが勝ち上がります。スタッフを集めるにしても、「こういう思いで君を選ぶんだ、こういう風にしたいんだ」という熱意が伝わらないと、作品に魂は宿ってこないですね。

アニメーションは大勢で作りますが、キーとなるのは監督、シナリオ、キャラクターデザイナーや作画監督などせいぜい6〜7人がメインスタッフ。それにキーになる声優さんを数名キャスティングできれば、だいたい作品のイメージを作ることができます。
プロデューサーがそのイメージをきちんと作り上げられるかどうか、そしてそれをスポンサーに対してプレゼンできるかどうかが大切です。

――その成功例が、『おそ松さん』ですね。

布川:『しろくまカフェ』の下地があったからというのもありますが、プロデューサーのアイデアと演出家である監督の意図が、うまくかみ合った結果でしょうね。

布川氏によるアニメプロデュース論は、自著「『おそ松さん』の企画術」でも詳しく説明されている。
――これからのアニメ業界には、どんなことが必要だと思いますか?

布川:まずは制作体勢のデジタル化。限られた予算の中でコストパフォーマンスを上げるためには、必須です。
これは心配するまでもなく、学校でデジタル技術を学んでいる人が増えているので、世代交代が進めば自然と変わってくると思います。そうなると、量よりも質が求められるので、よりクオリティの高いストーリーやキャラクターを生み出すために創造力を豊かにしていくことが、主題になると思います。

そして、アニメのハリウッドになるくらいの気持ちや野心を持った人たちが、業界にどんどん入って来てほしいですね。
クリエイターやアーティストももちろん必要ですが、彼らの仕事を作り、引っ張っていくプロデューサーが必要です。アニメーションをもっともっと進化させてみたいという人、特に語学が堪能な人に入って来て欲しいです。

NUNOANI塾にも、中国や韓国、台湾などから参加している塾生もいます。日本語が理解できれば国籍問わずに大歓迎です。受講期間の1年で学べることには限りがありますが、2年目は授業料なしで来てもいいよという風にしています。だからみんな、2年間塾に来ていますよ。

――スタジオとして、人材育成に取り組んでいることはありますか?

布川:本来なら、ぴえろの中でやることかもしれませんが、現場に入るとなかなか学びの場を持つのが難しいんですよ。せっかく憧れのぴえろに入ったけれど、厳しい現実を見て、志半ばで現場を去って行く子を見ると忍びない気持ちになって。
だから現場から少し離れたところで、「アニメは楽しいんだよ」と気持ちを共有できる場を作りたいなと思って、塾をやろうと思ったんです。


――スタジオを応援してくれるファンには、どんなことをして欲しいと思いますか?

布川:エンターテイメント業界の最先端は、やはり音楽業界。CDは売れなくなった今はライブに集中して、会場でライブグッズを売って収益をあげています。
それと同じ事がアニメ業界でもできると思うし、すでに2.5次元舞台で次々とマンガ、アニメ原作の作品が作られていますよね。
そういったリアルの交流で、送り手と受け取り手のいろんなコミュニティが生まれるのも、大事なことかなと。

放送や配信だけだと、後ろ側にいるお客さんの思いが我々には届きづらいし、逆に我々の思いもお客さんに届きづらい。
相互が交流できるのは、アニメフェアのようなイベントなので、イベントに足を運んでもらうのもアイデアかなと思っています。

もちろん我々送り手側も、声優さんをはじめ、監督や演出、脚本家などのスタッフもステージに上げてしゃべってもらうように仕掛けるべきではないかと思っています。
そうやって相互で積極的に交流を持つのが大切だと思いますね。

ただしそこはちゃんと、ギャランティを発生させてビジネスにしなくてはいけません。
やっぱり、そういうことができるプロデューサーが必要ですね。

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