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参院選に絶望 就職氷河期世代49歳男性の転職漂流人生「今さら支援されても遅い」

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2019年07月18日 11:30  AERA dot.

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写真写真はイメージです(getty images)
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「参院選、若い世代を助けるとは言っているけど、それは30歳くらいのことで自分は対象外。就職氷河期世代の問題なんて候補者は本気で考えているように見えない」

 九州地方に住む木村武さん(仮名、49歳)は今年3月に仕事を失い、参議院選挙にいら立ちを覚えてしまう。失業手当をもらいながら就職活動中だが、あまりにも先が見えない。

 バブル経済が崩壊した直後の1993年、武さんは地方の国立大を卒業した。新卒採用でスーパーを展開する小売り会社の正社員として採用された。就業時間は午前9時から午後6時までだったが、午前8時から午後8時までの1日12時間労働が当たり前。残業代はなく、有給休暇もとれなかった。

 30歳になる前に店長に抜擢され、武さんの店舗は常に前年比で売り上げ増を達成していた。しかし会社全体の業績不振で、店長になっても月給は手取り20万円を超えることはなかった。入社した当時、ボーナスは年間で基本給の5.5か月分が支給されたが、次第にボーナスは減り、辞める頃には2〜2.5か月分に減っていった。パートが急に休めば穴を埋めるため出勤し、休みはまったくなくなった。何十キログラムもある米や餅などの棚卸や陳列で腰を痛めてしまった。

「頑張りが全く評価されない。体力も限界だ」と、30代半ばで転職を決め、派遣社員としてコールセンターで働き始めた。時給1200〜1300円で3カ月更新。激務のスーパーでの正社員時代とさほど収入は変わらない。8年勤めながら正社員の道を探ると、別の販売会社で正社員の職を得たが、2年で会社が倒産してしまった。しばらく派遣で食いつなぎながら「長く働くことができる先はないか」と職探しを続けると、1年更新の嘱託社員という非正規雇用ではあったが、安定経営の公益財団法人で庶務の職を得た。

 給与は月給15万円、手取り11〜12万円。実家暮らしだからこそ、なんとかなる水準だ。上司から「字が汚い」と30分も小言を繰り返すようなパワハラも受けたが「正社員登用制度有」に期待して耐えた。まる2年が過ぎた今年2月上旬、「仕事なくなったから、来なくていいよ」「あんた、ここに向かないから辞めてくれ」と突然の雇い止めを言い渡された。あまりのショックで2週間、何をしていたか記憶がない。

 こうした例は、非正規全般で目立っている。例えば、派遣社員の場合は「派遣切り」が横行しやすい。2004年からの労働者派遣法の改正で、同じ派遣先で3年以上働くようであれば、正社員や契約社員などの形で直接雇用するよう「3年ルール」が決められた。これは非正規全般で同様で、同年は労働基準法も改正されて、非正規は3年を上限として、それ以上働くのであれば正社員化を促すための「3年ルール」であった。制度の趣旨とは逆の形で正社員化を嫌う企業は、3年で雇止めにする「派遣切り」が多いのが実態だ。厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」(2017年度)によれば、3年ルールの対象者は4万6544人だったが、そのうち直接雇用されたのは、たった2702人だった。

 同居している武さんの80代の両親はからだが思うように動かなくなり、家事や買い物など日常生活は武さんが行っているため、実家から通勤できる範囲でしか就職活動ができないジレンマを抱える。いつか結婚して家族をもちたいが、生活に余裕がないなかで恋愛すら考えられない。それでも望みをかけて必死に仕事を探すが、正社員の求人といっても、月給15万円程度で退職金はない。介護や建設、運送業ばかりで、腰痛を患う武さんにとっては厳しい条件ばかり。「じっくり資格をとって医療機関で働くことができれば変わるのだけど」と思うが、行政の資格支援はヘルパーなど介護職が多く、展望が見えない。

 日々の生活といえば、給与の額は変わらず社会保障費は上がったので、可処分所得は減る一方だった。生活必需品や食品、日用品はじわじわと値上がりしている。地方の生活では必要な車のガソリン代も懐が痛む。スーパーで働いていた時に痛めた腰や首の治療費を払うと生活はカツカツになり、月1000円も貯金できない。前職でのパワハラのせいで睡眠導入剤や精神安定剤が欠かせなくなった。

「何だか悔しくて15年前からずっと心の中で、泣き続けている。安定、生きがい。そんな言葉がむなしく聞こえる。40代後半の就職は本当に厳しい。地方公務員の社会人経験枠の拡充と、年齢制限の撤廃があればいいのに。今のままでは、仕事を紹介してもらいやすい派遣のほうがマシかもしれない。引くも地獄、行くも地獄」と、武さんは途方に暮れる。

 選挙で誰に託せばいいのか。武さんは「本当なら、氷河期世代の支援について労働組合を支持母体にしているような野党が真っ先に言い出すべきことなのに、自民党が言い出した」と憤りを隠せない。

 政府は6月21日、氷河期世代の就職支援を「骨太の方針」に盛り込み、閣議決定した。35〜44歳を今後3年間集中的に支援して30万人を正社員化する。この背景にあるのは、社会保障費が現在の1.6倍に膨らむ「2040年問題」だろう。昨年末の外国人労働者を拡大するための入管法改正時、国会でも氷河期世代が放置されていることが指摘されていた。

 そして、いよいよ迫った参院選で人気を取るためか、突然、氷河期世代の問題がクローズアップされたが、遅きに失したという「今さら感」が当事者世代には漂っている。支援策といえば「即効性のあるリカレント教育を」「民間ノウハウの活用」「資格取得支援」「助成金の見直し」など過去に見たことのあるメニューばかりで、政府が打ち上げた花火は、しけり気味だ。

 そもそも、政府が掲げた3年間で30万人の正規雇用は最初から達成可能な数値目標なのではないだろうか。外国人労働を拡大してでも人手を確保したい企業や業界にとって、喉から手が出るほど人はほしい。ある就職支援相談員は「中小零細企業では、引きこもっている状態でもパソコンスキルなどがあれば仕事をしてほしいとさえ言っている。介護なら未経験でも正社員で即採用が決まる状態」と話す。30代後半の非正規雇用は160万人いる(2018年「労働力調査」以下、同)。40代前半は212万人。ここから30万人を正社員化するというのは、決してハードルの高いことではないのかもしれない。

 また、見過ごしてならないのは、40代後半の非正規雇用の存在だ。あえて政府が就職氷河期世代を「2018年時点で35〜44歳が中心層」と定義しているところに問題がある。

 バブル崩壊前夜の1990年の大卒就職率(卒業者に占める就職者数の割合)は81.0%だった。バブルが崩壊した91年は前年に採用活動が終わっているため81.3%、92年も余波は小さく79.9%だったが、93年は76.2%、94年は70.5%、95年は67.1%と一気に下降していく。そして2000年に統計上初めて6割を下回る55.8%となり03年が過去最低の55.1%をつけたのだった。6割台を回復できていない05年(58.7%)までは就職氷河期と言える。大卒か高卒か、浪人や留年をしたかどうかで対象者は増減するため、政府の定義がミニマムなところをとっていることで問題の根深さが覆い隠されてしまう。

 そして、バブル崩壊後の就職氷河期は何も新卒採用ばかりが主原因ではない。最初は正社員として働いても、いわゆるブラック企業ではわずか数年で辞めていくことになり、それが繰り返されてスキルを積めないまま非正規に転じるケースは決して少なくない。就職氷河期の余波は働き盛りであるはずの40代後半にも及んでおり、その層が226万人もいるのだ。複数のキャリアカウンセラーが「正直、45歳以上の正社員雇用は難しい」と言及していることから、この年齢層の非正規雇用ほど早急に丁寧な支援をしなければならないはずが、抜け落ちている。本稿で紹介している武さんは49歳のため国の定義からすれば就職氷河期世代から外れてしまうが、93年に大学を卒業しており、本来は支援対象になるはずなのだ。

 政府は35〜44歳の非正規雇用が371万人としているが、自営業・家族従事者の94万人、「その他」(従業上の地位不詳、就業状況不詳)の9万人にも不安定な働き方は存在する。なぜなら企業は、本来は雇うべきところ「個人事業主」や「業務請負」などの契約をして社会保険料の負担を逃れている実態があるからだ。それらの約100万人が35〜44歳の層にいるため、支援を要する人はもっと多いはずだ。年齢の対象を35〜54歳の「中年層」に広げた場合、非正規雇用だけでも798万人という規模になる。

 筆者が労働問題をライフワークにしたきっかけは、就職氷河期世代の非正規雇用化を問題視したからだった。2004年5月から、当時在籍してきた週刊エコノミスト誌で繰り返しこの問題を特集してきた。当事者個々の生涯への影響もさることながら、格差が拡大して中間層が崩壊すれば日本経済の危機を招くからだ。しかし抜本的な解決策は講じられず、非正規雇用を生み出す雇用の規制緩和は行われ続けた。

 当時まだ若者だった氷河期世代は中年層に突入してしまった。2008年の段階で、NIRA総合研究開発機構は同世代を放置することで最大20兆円の生活保護費が追加的に発生すると衝撃のレポートを出したが、いよいよ現実味を帯びてきてはいないか。

「自分たちの世代は取り残されている。対症療法的に支援するといっても、もう遅い。唯一、言ってくれているのが、れいわ新選組だろうか。いっそ、安楽死制度を考える会にでも入れようか。供託金なんて気にもしない政治家はいいのだろうが、自分には、そんな貯金もない。田舎には、どんなに求人がないか、一度この様子を政治家に見てほしい。正社員でなくてもいい。1日でも長く仕事が出来る環境に身を置きたい」(武さん)

 こうした武さんたち氷河期世代の声は国政選挙に届いているのか。盛り上がらない参議院選挙。これは東京も地方も同じだ。見せかけの政策、ごまかされた政府にとって都合のいい数字が、透けて見えるからなのだろう。完全なるあきらめムードが漂う。それでも武さんは、「選挙には行く」と断言する。自分の将来を託すために――。

(ジャーナリスト・小林美希)

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このニュースに関するつぶやき

  • 年齢から換算すると、この人氷河期じゃない。 バブルだわ。つまり大学入学が遅いか留年してたかって事になる。
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  • 「氷河期世代の支援は野党が真っ先に言い出すべきことなのに、自民党が言い出した」←だったら自民党に入れればいいのに、その選択肢は封じるのか。生活改善を政治に頼るなよ。
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