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がん免疫療法が効くのはどんな患者? 治療効果を予測する方法を医師が解説

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2019年07月19日 07:00  AERA dot.

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写真大塚篤司/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医
大塚篤司/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医
 オプジーボなどの免疫チェックポイント阻害剤によるがん免疫療法は現在、がんの種類によりますが、20〜60%の人に効果があると報告されています。では、どんな患者に効果があるのでしょうか? 京都大学医学部特定准教授で皮膚科医の大塚篤司医師が、効果予測因子のバイオマーカーについて解説します。


*  *  *
 万有引力の法則を発見したアイザック・ニュートンは、書簡の中で有名な言葉を残しています。

「私がかなたを見渡せたのだとしたら、それはひとえに巨人たちの肩の上に乗っていたからです。(If I have seen further it is by standing on the shoulders of giants.)」

「巨人たちの肩の上に乗る」とは偉大な先人たちの発見をもとに、新しい発見が生まれるという意味で使われます。

 大発見は多くの場合、一人の天才によって導かれるものではありません。「巨人の肩」が必要ですし、同じ時代を生きる優秀な科学者の協力も必要です。

 研究成果を論文にまとめ専門誌に発表するという作業はとても大切です。なぜなら、専門誌に掲載されるためには、専門家(同じ時代を生きる優秀な科学者)によるチェックを受け、内容として間違いがないか厳しい審査が必要だからです。

 インターネットが普及したいま、専門外の領域でも個人で自由に発表できるようになりました。

 私たち医療の専門家からみれば、間違いだらけの医療情報も多く見受けられます。

 改めて、専門誌に掲載された論文を情報源として判断する姿勢が必要となってきます。もうすこし欲を言えば、どのレベルの専門誌に掲載された論文かまで判断できるようになることが望ましいです(これについてはまた別の機会に詳しく解説します)。

 さて、今回はがん免疫療法について解説したいと思います。

 なぜ前置きの話をしたかというと、がん免疫療法に関してはネット上で多くの「ニセ医学」が掲載されているからです。

 残念ながら、がん免疫療法は現在のところ100%効果がある治療法ではありません。がんの種類によりますが20〜60%の人に効果があると報告されています。

 例えば40%の人に効果が出るということは、10人のうち4人は効いて6人は効かないということです。

 ですので、「100%効果のあるがん免疫療法」と書かれていたら、それだけで「ニセ医学」と判断できます。

 がん免疫療法は一部の患者さんにしか効果が出ないため、患者さん自身にとっては自分に効果がでるのかどうかが何よりも重要です。そしてそれはもちろん、医者にとっても大切な課題になります。

 もし抗がん剤を投与する前に治療効果を予測できれば、必要のない副作用で苦しむこともありませんし、治療費もかかりません。なにより、次々と登場している抗がん剤の新薬を効率よく使うことができ、がんを克服できるチャンスが広がります。

 ですので、抗がん剤を投与する前に効果を予測する因子が大変重要になってきます。この効果予測因子のことをバイオマーカーと呼びます。

 2018年、ノーベル医学生理学賞はがん免疫療法の礎を築いた本庶佑(ほんじょ・たすく)先生が受賞されました。本庶先生はPD−1という分子を発見し、このPD−1の働きを抑えるオプジーボががん治療で効果を発揮することがわかりました。

 私が専門とする悪性黒色腫(ほくろのがんとも呼ばれ、別名をメラノーマといいます)は、オプジーボが効果を発揮します。

 がん免疫療法で用いる免疫チェックポイント阻害剤(オプジーボやキイトルーダ、ヤーボイなど)は一定の患者さんに効果を発揮します。悪性黒色腫では40%くらいの人に効果がでると言われています。

 目の前の患者さんが効果の出る4人に入るのかどうか、私を含めがん研究をしている人間はなんとしても知りたい課題です。

 そして、世界中で多くの優秀な研究者がこの難問に取り組み、少しずつ解明されつつあります。

 実際にオプジーボ(PD−1阻害剤)では、いくつかのバイオマーカーが報告されています。ここでは効果を予測するバイオマーカーとして三つ紹介したいと思います。

1.がん組織の中にキラーT細胞がいるかどうか(Nature.2014. 515(7528):568−71.)

 がん細胞を攻撃し排除する主役はリンパ球です。その中でも、キラーT細胞と呼ばれる細胞がメインプレーヤーです。がん組織の中で、最前線でがんと戦っているリンパ球を、腫瘍浸潤リンパ球(tumor infiltrating lymphocyte「TIL:ティル))といいます。このキラーT細胞がオプジーボなどのPD−1抗体の力を借りて活性化することでがんをより一層攻撃します。

 がん組織の中には、キラーT細胞が多い組織やほとんどいない組織があります。キラーT細胞が多く含まれるがんをHot tumor (熱い腫瘍)といい、キラーT細胞を含まないがんをCold tumor(冷たい腫瘍)といいます。もともと、キラーT細胞とがん細胞が最前線で熱い戦いを繰り広げているかどうか、そこにオプジーボの応援が来ればがんに対する治療効果があがるのは想像できるのではないでしょうか?

 がん組織の中にキラーT細胞が多くいる場合、オプジーボ(PD−1阻害剤)が効きやすいとされています。

 T細胞がいるかどうかは、通常の組織検査(H&E染色)でわかります(さらに正確に判定するには免疫染色が必要です)。しかし、どれくらいの数のT細胞がいれば確実にオプジーボの効果が出るのかまではわかっていません。まだまだ研究段階のバイオマーカーです。

2. がん細胞の遺伝子変異の数 (N Engl J Med. 2015. 372(26):2509−20.)

 がん細胞には多くの遺伝子変異が起こります。例えば、細胞増殖をストップする働きを持つ遺伝子に変異が起き、がん細胞が制限なくどんどん増殖します。この遺伝子の変異の数が多いがんのほうが、オプジーボが効きやすいとわかっています。

 すこし難しい話になりますが、高校で生物を学んだ方は思い出しながら読んでみてください。遺伝子はその配列によって最終的にたんぱく質を作ります。たんぱく質の設計図が遺伝子です。遺伝子変異があるということは、この設計図に異常があるということです。設計図に異常があれば、でき上がったたんぱく質も変なものになります。

 人間の体は普段、自分の体の中にあるたんぱく質は自分のものとして認識して免疫は攻撃しません。しかし、異常なたんぱく質は別です。異常なたんぱく質は自分ではなく敵と認識します。

 キラーT細胞の働きを自動車の部品工場で考えてみます。設計図が狂った部品(例えばハンドル)は形のおかしなハンドルとなって生産されます。不良品は品質管理の部署ではじかれますよね。キラーT細胞は体を構成する細胞の品質管理をしています。それも種類の違う不良品(例えばハンドル以外にもブレーキやサイドミラーなど)があれば、新しい仲間を増やして取り除く作業を行います。

 オプジーボはキラーT細胞の働きを応援する薬剤です。遺伝子変異(設計図のミス)が多いがんには、動員されるキラーT細胞の種類と数が増えます。結果、オプジーボの力を借りてがんが排除されやすいことがわかります。

 つまり、がん細胞の遺伝子異常の数を治療前に調べることができれば、オプジーボが効くかどうか予想がつくのではないかと考えられています。

 しかし残念ながら、がん細胞の遺伝子異常の数は保険診療では調べることができませんし、研究レベルでも値段の高い検査です。

3. がん細胞が発現するPD−L1 (N Engl J Med. 2012. 366(26):2443−54.)

 オプジーボやキイトルーダなどのPD−1阻害剤は、PD−1とPD−L1の接着を阻害することでリンパ球を活性化します。PD−1とPD−L1の接着は免疫機能のブレーキであり、このブレーキを解除することでよりキラーT細胞の攻撃力を高めるわけです。オプジーボなどのPD−1阻害剤が効くためには、このブレーキがかかっていることが前提になります。

 つまり、がん細胞がPD−L1分子を発現し、そこにいるキラーT細胞がPD−1分子を出してブレーキをかけられた状態が前提としてあります。ところがPD−L1分子はすべてのがん細胞が発現しているわけではありません。全くPD−L1を発現していないがん細胞もいます。

 がん細胞(腫瘍組織)のPD−L1の発現があるのかないのか、多いのか少ないのかは、オプジーボの効果を予測する上で大事な因子です。肺がん領域、また、メラノーマではオプジーボとヤーボイの併用療法で、がん細胞のPD−L1発現を事前に検討することが求められています。

まとめ

 オプジーボの効果予測因子(バイオマーカー)として代表的なものを三つ紹介しました。

1つ目は、腫瘍組織へのリンパ球浸潤
2つ目は、がん細胞の遺伝子変異数
3つ目は、がん細胞のPD−L1発現
です。

 施設によって、できる検査とできない検査があります。また、保険でカバーできないものもあります。

 がん細胞の遺伝子変異を調べるためには、特殊な技術と設備が必要です。オプジーボ投与前に検査が必須となっているもの(肺がんとキイトルーダ、メラノーマのチェックポイント阻害剤併用療法)以外は、研究レベルであり普段の臨床で応用するにはまだ時間がかかるものと考えておいたほうがよいでしょう。

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