黒木華は自分が好きな自分を模索する 『凪のお暇』が描く“空気を読む”ということ

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2019年07月20日 12:51  リアルサウンド

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『凪のお暇』(c)TBS

「空気って読むものじゃなくて、吸って吐くものだ」


 ついに始まった金曜ドラマ『凪のお暇』(TBS系)。コナリミサトによる同名漫画を原作に、黒木華、高橋一生、中村倫也と人気キャストが集結して実写化した話題作だ。


参考:“ブラック”高橋一生 VS “ふわふわ”中村倫也 『凪のお暇』期待を裏切らない第一話


 空気を読みすぎて生きづらさを感じる28歳OL・大島凪(黒木)を主人公に、凪にモラハラ気味の発言を繰り返す恋人・我聞慎二(高橋)と、凪のアパートの隣人で天性の人たらし・安良城ゴン(中村倫也)が複雑に絡み合いながら、“自分らしく生きる“とは何かを問いかける。


 第1話のキーワードは「空気」。奇しくも、凪と慎二の務める家電メーカーでは、人工知能を搭載し、読みすぎるほどに空気を読んで、キレイにするという空気清浄機をリリースしたばかり。プレゼンテーションをするのは、社内でも一目を置かれるエリート営業の慎二だ。取引先のもとに向かえばいいリアクションを取り、社内のスタッフに雑用を頼むときには手土産を持参するなど、抜かりがない。そんな慎二のモットーは「空気は自分で作るものでしょ。読む側に回ったら負け」。


 その“負け側“にいるのが、凪だ。ふわふわクルクルの天然パーマをサラサラヘアにするべく、毎月ストレートパーマをあて、毎日1時間以上かけてヘアアイロンで伸ばしていく。ファッションは、誰からも好感が持たれる女子アナ系。同僚のSNSには「いいね」を忘れず、挙句の果てにはミスをかばったり、雑用を引き受けたり……輪からはみ出ないように、「空気が読めない」と言われないように、周囲の顔色を伺いながら生きてきた。


 それは、恋人の慎二に対してもそうだ。慎二が求める恋人像を必死に演じる凪。関係を周囲にヒミツにされているのも、いつかSNSで「結婚しました」報告という逆転ホームランが打てるのなら……と我慢して、本当は言いふらしたい気持ちを押し込んできた。だが、そんな努力を続けてきた凪の心が、慎二の空気を読んだ悪ノリ発言を立ち聞きしてしまったことで、完全に折れてしまう。


 空気を読もう読もうとした結果、空気の吸い方がわからなくなってしまっていることに気づいた凪は、慎二には一切告げずに、会社を辞め、女子アナ系の服も女子力の高い家具やぬいぐるみも捨て、スマホもSNSも全て手放し、ゆるゆるのTシャツとパンツと天然パーマの姿で布団だけを担いで自転車で、何もない新居へと向かう。


 “自分を苦しめる呪縛からは逃げてもいい“。近年のTBSドラマは『逃げるは恥だが役に立つ』をはじめ、何かと「〜べき」と縛られがちな私たちを解放してくれた。だが「逃げる」という選択をしたものの、「逃げて“何をするのか“」まで見えていないのが、このドラマの主人公だ。


 「逃げる」というのは、あくまで手段。手段とは「目的」を達成するための方法だ。何のためにその手段を取っているのか、その選択をしてどうなりたいのか。それを見失うと、私たちはずっと空回りした気持ちになってしまう。


 「空気を読む」というのも、本質的には自分の生きやすい空気(=雰囲気、状況)を作るための手段でしかない。凪の「空気を読んだ」行動も「変な髪だと言われて傷つきたくない」「同僚と仲良くしたい」「慎二と結婚したい」という目的を達成するためのベースとなるはずだった。しかし気づけば、そのベースを作るだけで手一杯になってしまい、その先にある目的を達成するまでのステップを踏み出せない。そしていつしか、その目的さえも見えなくなっていく。


 ウィッシュリストを作ろうとした凪の手が止まり、「やりたいことがない」となったのも、本来あったはずの目的を見失い、「空気を読む」手段そのものが目的になっていた証拠。慎二が、凪に対して「お前は変われない」と言っていたのも、きっと慎二が誰よりも「空気を読む」を手段として活用してきたからかもしれない。


 「自分らしく生きる」とは、自分の選択の「目的」を見失わないことから始まる。空気を読んで選択した行動は、「周囲のために」というのと同時に「自分のため」でもあること。アクションを起こすときに大切なのは、「相手」だけではなく「自分」も満足できるものであること。そのバランスが取れない相手や組織の「空気」なら、いっそ逃げて、より自分が心地よいと思える空気を作れる人や環境を求めればいい。だが「それができれば苦労しない」という人が多いからこそ、今この物語が求められているのだろう。


 「人が求める自分」にお暇をして、「自分が好きな自分」を見つめ直し始めた凪。冷たく当たりながら、実はそんな自然体な凪を知っていて、影で「めっちゃ好き」と泣く慎二。そして、サラリとハグを交わして凪の心を奪っていくゴン。それぞれが自分なりに幸せになろうともがく姿を通じて、私たちはまた新たな人生のヒントをもらえるのではないか。これから3ヶ月間、金曜日の夜がますます楽しみになってきた。(リアルサウンド編集部)


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