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「周りの意見は聞くな」――起業家エンジニアの若き日の後悔

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2019年07月22日 07:12  @IT

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@IT

写真Dean Drako(ディーン・ドレイコ)氏 「Eagle Eye Networks」の社長兼CEO(右)
Dean Drako(ディーン・ドレイコ)氏 「Eagle Eye Networks」の社長兼CEO(右)

 世界で活躍するエンジニアの先輩たちにお話を伺う「GoGlobal!」シリーズ。前回に引き続き、「Eagle Eye Networks」の社長兼CEO(最高経営責任者)であるDean Drako(ディーン・ドレイコ)氏にご登場いただく。後編では従業員への思いや未来のエンジニアに向けたメッセージなどを伺った。



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●顧客に必要とされることの重要性



阿部川“Go”久広(以降、阿部川) ドレイコさんは幾つも事業を立ち上げていますが、事業をする上であなたが「一番ワクワクする」ことは何ですか。



ドレイコ氏 子どものころから変わらず、「何かを作り上げること」ですね。会社というものは製品を作り出す究極の道具だと思います。良い製品を作ること以上に楽しいことを、私は知りません。素晴らしい製品は、力にあふれたもので、それによって顧客の顔がほころび、笑顔がもたらされるものです。その上、私もその製品を作り上げるプロセスを心ゆくまで楽しむことができ、試行錯誤によって多くのことを学ぶことができます。



 チームが一丸となって、素晴らしい製品は作られていきます。これらを行えるベストな形式が会社ですから、会社そのものを作っていくこと自体も、私の大きな喜びなのです。これが私の原点であり、それをずっと続けています。



阿部川 素晴らしい製品をチームで作り上げる最適な形が会社である、ということですね。では少し意地悪な質問です。ドレイコさんが立ち上げた事業の中には売却されたものも幾つかあります。「事業を育て、その事業を売って得た資金で新しい事業を立ち上げる」というのは起業家としては自然な流れだと思いますが、ドレイコさんもそのような方針でしょうか。



ドレイコ氏 いいえ、ほとんど考えたことがありません。最初から他者に売ることを目的として会社を設立した場合は、事業経営について「賢いとは思えない意思決定」をしてしまうと思うからです。私の考え方は「より長期的な視野に立って経営する」ということです。100年ぐらいの長さに耐えられるような企業を作りたいといつも思っています。



阿部川 なるほど、それは日本の経営者の思想に近いと思います。起業や顧客に対して短期的ではなく長期的な関係を構築するということですね。



ドレイコ氏 そうです。会社を売ることばかりを考えていると、どうしても短期的な思考に陥りがちです。私が関わっている企業は、中堅程度の規模の企業ではあっても「雇用を作り出し、顧客に必要とされる良い製品を提供する」というのがビジョンです。あるいは「十分な規模に成長することで上場し、公的な企業としてサービスを提供する」ことも大切ですね。



●「ドレイコファミリー」の幸福とは?



阿部川 幾つもの企業を束ねる経営者として、いわば「ドレイコファミリー」ともいえる従業員の方々の幸福や将来のことをお考えと思います。そうした中で経営者として一番大切なことは何だとお考えですか。



ドレイコ氏 人それぞれなので一概には言えないかもしれませんが、人々を幸福にする要素は2つあると思います。1つ目は、人は、重要な仕事をしたいと思っているということです。誰も自分の行った仕事が、すぐに役に立たなくなったり、あるいは人々から疎んじられたりする、そんな仕事をしたいとは思いません。



 学生時代にしたインターンの経験で分かったことがあります。業務の成果の60%くらいが市場に出荷されることなく終わることがある、とことです。例えば2年かかったプロジェクトであっても、いきなりキャンセルになることがあります。とても悲しいことです。営業であろうとマーケティングであろうとエンジニアであろうとそれは同じです。



 だから仕事としてやったことが、しっかり会社にインパクトを与え、とても重要なものであると伝えることが大切だと考えます。



 2つ目は学ぶことと成長すること。仕事ではこの2つが提供され、より学ぶことで大きく成長し、そこからまた、より多くのことを学べます。



 これらの2つがバランスを持って仕事の中で経験できれば、人間としての成長にもつながっていくと思います。



阿部川 「マズローの欲求5段階説」はご存じかと思いますが、上位概念の2つは「尊敬」と「自己実現」です。そしてこの5段階のピラミッドは、従業員だけでなく、顧客や投資家にも当てはまるといわれています。



ドレイコ氏 おっしゃる通りです。私はこれまで努力して企業文化というものを創り出そうとしてきました。それは顧客ケアに焦点を当てることですし、顧客をハッピーにすることです。これが非常に大切であることを皆に理解してもらい、それをしっかりと自分ごととして考え、一緒に行動してもらう、そうでなければ私たちの企業が目指していることは達成できないと思います。



阿部川 このインタビューの中でも、ドレイコさんはそれを何度も強調されていますね。



ドレイコ氏 Eagle Eye Networksはエンドユーザーに直接製品を販売しません。ですから私が顧客という場合は、製品を販売してくれるチャネルの販売パートナーのことでもありますし、製品を使ってくれる顧客でもあります。製品を市場に展開するその仕組みに関わる人全てが、私の顧客なのです。



 まず顧客としての販売パートナーはしっかり利益を享受できなければなりません。ユーザーとしての顧客は、私たちの製品に満足し、ハッピーでなければなりません。そしてEagle Eye Networksとしてしっかり利益を出して、従業員に給与を還元しなければなりません。それがドレイコファミリーの一員であることの誇りにもつながると考えます。



●「周りの人の意見は聞くな」



阿部川 最後の質問です。多くの若いエンジニアもわれわれの読者なのですが……。



ドレイコ氏 では、ぜひレジュメを当社に送ってほしいとお伝えください(笑)。私のメールアドレスは……。



阿部川 なるほど、それが第一のメッセージですね(笑)。では改めて、読者の方々に対して一言メッセージをお願いできますか。



ドレイコ氏 その前にちょっとお聞きいただきたいことがあります。Appleで仕事をしていたときにあるビジネスのアイデアが浮かびました。しかし当時は、起業をためらっていました。なぜってAppleの従業員でしたし、仕事には十分満足していました。給料も申し分なく、Appleの中でも成果を出して仕事をしている自負もありましたから。



 そこで周りの友人たちに聞いてみました。「こんなアイデアがあって、自分としてはとても良いと思うんだけど、これを実現させるために起業してもいいだろうか」と。するとほとんどの人が口をそろえて「リスクが高いからやめた方がいい」といって反対しました。それでそのときは諦めました。でも今思えば、それは大きな失敗でした。



 なぜなら周りにいるのは大抵、企業で働く「起業をしたことのない人」です。彼らがいくら起業のリスクを指摘しても、それは「経験」によるアドバイスではなく「想像」です。



 ですから、起業を考えている若いエンジニアの方々へのアドバイスは、「もしそのアイデアの価値を本当に信じているのなら反対する周りの人の意見は聞くな、すぐやってみろ」です。もし同じようにして起業した人がいたらその人の意見は聞くべきですが、周りにいるのは、大抵そうではありません。自信を持って自分のビジネスアイデアに突き進んでください。



 もう1つ、アドバイスがあります。それは一緒に長く仕事を続けられる、良いビジネスパートナーを見つけることです。2つの違ったスキルがあれば、互いに補いながら、ビジネスを大きく進めていくことができます。多くのエンジニアは、マーケティングやセールスのスキルが不足しがちですし、マーケティングやセールスはテクニカルスキルがありません。それをチームでやれば、強い企業を構築できます。



阿部川 起業やスタートアップについてはもっとお聞きしたいことがありますし、何日でも話ができると思います。今では多くの書籍でも学ぶこともできますからね。



ドレイコ氏 起業のハードルが低くなったのだと思います。「自分でもできる」と思えるようになりましたし、他の起業家がどうやっているかを皆が知りたいと考えるようになりました。大変良い傾向だと思います。日本は、多少はその流れから遅れてはいますが、確実にその流れは起こっていると思いますし、このような健全で強い流れが、日本でも大いに起こってほしいと思います。日本を変えていく力になりますし、起業家もどんどん成功していくと思います。



●Go's thinking aloud



 ウィキペディアによれば、ドレイコ氏は、「同時に多数のビジネスベンチャーを運営するという点に関して、イーロン・マスクと比較されることがある」。なるほど、では一体本当はどんな起業家で、どんな企業経営の哲学を持っているのだろうか……失礼ながら多少偏見をもってインタビューに臨んだ。



 それはすぐに誤解、あるいは杞憂(きゆう)だった。理由は3つ。



1. ドレイコ氏は紛れもなくエンジニアで、とにかくモノを作ることが好きなこと



2. 「顧客の笑顔が見たい」「ケアしたい」を連発したこと



3. この2つを満足させる最良の方法が「起業」であること



 これらがインタビュー全体を通じてにじみ出ていた。とはいえ、16歳で、自身の開発したソフトウェアを売り、学費をたたき出した。起業家という言葉がまだないとき、彼はまぎれもなく起業家だった。単に天才というのはたやすい。そうではなくて私たちが学ぶべきことは、その行動力と考え方を、創業とゴーイングコンサーン(起業を継続的に発展させる)を繰り返し続け、それを自身の経営哲学として研ぎ澄まし続けてきた彼の姿勢ではないだろうか。Eagle Eye Networksは次の一手を、どこに打ってくるだろう。



・阿部川久広(Hisahiro Go Abekawa)



アイティメディア グローバルビジネス担当シニアヴァイスプレジデント兼エグゼクティブプロデューサー、ライター、レポーター



コンサルタントを経て、アップル、ディズニーなどでマーケティングの要職を歴任。大学在学時より通訳、翻訳なども行い、CNNニュースキャスターを2年間務めた。現在は英語やコミュニケーション、プレゼンテーションのトレーナーとして講座、講演を行うほか、作家として執筆、翻訳も行っている。


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