ホーム > mixiニュース > トレンド > 車いすラグビーから広がる「共生社会」 カナダ代表を迎え交流深める三沢市民

車いすラグビーから広がる「共生社会」 カナダ代表を迎え交流深める三沢市民

1

2019年07月22日 17:41  OVO [オーヴォ]

  • 限定公開( 1 )

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

OVO [オーヴォ]

写真公開試合で激しくぶつかり合う日本の池崎大輔選手(左)とカナダのザック・マデル選手。両国のエース同士が本番さながらの火花を散らす(7月8日、青森県三沢市国際交流スポーツセンターで)
公開試合で激しくぶつかり合う日本の池崎大輔選手(左)とカナダのザック・マデル選手。両国のエース同士が本番さながらの火花を散らす(7月8日、青森県三沢市国際交流スポーツセンターで)

 日がまだ十分に明るい7月7日夕刻、八戸駅から青い森鉄道で三沢駅に向かう。およそ20分で列車は三沢駅に到着、降車ドア口に立っていた大柄な外国人に続いて降り、タクシーに乗り込む。前を走るタクシーの後部座席に先ほどの外国人の後ろ姿が見える。

“国際都市”三沢

【写真】関連情報を含む記事はこちら

 米軍基地のある青森県三沢市は人口約4万人。うちおよそ8千人が基地関係の米国人、軍属およびその家族だという。市発行の観光パンフレットには「異国情緒漂う国際都市」の文字が踊る。

 宿泊ホテルで荷を解き周辺を散策。“元祖バラ焼き”の看板に引かれ、飲食店「赤のれん」の“のれん”をくぐる。

 バラ焼きは、特製のタレを絡めた山盛りのタマネギとバラ肉を鉄板で焼くシンプルな料理。赤身中心の牛肉を好む米軍人が、赤身以外の内臓やバラ肉を安く払い下げたことで、戦後三沢に広がった食文化だそうだ。

 タマネギと肉のこんもりとした“ヤマ”が、鉄板でジュー、ジューと小気味よい音を立てる。ヤマからうっすら煙が立ち始める。

 座った位置から順番待ちの客の姿が見える。急ぎ気味に山盛りのどんぶり飯とともにバラ焼きをかきこみ、満足感とともに店を出る。すっかり日は暮れている。

 翌7月8日は、米軍基地絡みの国の補助金・交付金を活用して整備した三沢市“国際交流”スポーツセンターで合宿するカナダの車いすラグビー代表チームを訪ねる。来年の東京オリンピック・パラリンピックでの活躍が期待される鳥海連志(ちょうかい・れんし)選手が所属する車いすバスケットチームの練習を見学したことはあるが、生の車いすラグビーを見るのは初めてだ。

 日本代表チームとの公開試合も行われる。カナダ、日本とも世界の強豪チーム。2016年のリオパラリンピックでは銅メダルを賭け3位決定戦を戦ったライバル同士だ(このときは、52対50の僅差で日本が競り勝ち銅メダルを獲得した)。
 車いすバスケから激しいぶつかり合いを想像し、高まる期待を静めて布団にくるまった。

肌で知るカナダの多様性と社会的包摂力

 翌7月8日午前10時すぎ。可動席を合わせると最大1,800人余りの観覧席を誇る三沢市国際交流スポーツセンター・メインアリーナに、カナダ国旗と同色の赤いポロシャツ姿のラグビーカナダ代表の選手ら約20人が続々と姿を現す。ほぼ同数の黒いシャツ姿の車いすラグビー日本代表も続く。

 さらに近隣の青森県七戸町の七戸中学校2年生54人と七戸養護学校中学部の生徒35人も入場し、一気ににぎやかになる。ライバル同士のカナダ、日本の両代表チームが“合同”で、車いすラグビーの楽しさを中学生に教える珍しい「体験会」が始まった。

 生徒たちは車いすラグビー初体験。100人近くの生徒は5つのグループに別れ、両国の代表選手からルールや競技用車いすの構造など、車いすラグビーの基本事項の説明を受ける。

 車いすラグビーは「四肢まひ者らが、チームスポーツを行う機会を得るために1977年にカナダで考案され、欧米では広く普及している車いすによる国際的なスポーツ」と日本車いすラグビー連盟(JWRF)のホームページは簡潔に定義する。カナダは車いすラグビーの“母国”。その国の選手に、車いすラグビーとそれを生み出したカナダ社会の「根底にある考え」を教えてもらえるのだ。生徒にとっては貴重な1日になるだろう。

 試合は4対4で行う。コートの広さはバスケットボールと同じ。10秒以内のドリブル、パスを条件にボールを膝の上に置くなどして運ぶ事ができる。

 ボールは楕円でなくバレーボールと同じ球形、前方パスはOK、ゴールポストはない、などが一般のラグビーと異なる部分だ。ボールを持った選手が相手エリアのゴールラインを越えれば1得点。1ピリオド8分の計4ピリオドで合計得点を競う。

 選手が体を預ける車いすは攻撃用と守備用で構造が異なる。守備用車いすには、相手の車いすを止めるために農機具のくわを上に向けたような形のバンパーが前に突き出ている。動物の“角”のような役割を果たす。ゴール前での小回りが必要な攻撃用には、角はない。

 以上のような一通りの説明を終えると、選手は車いすに乗り、2台の車いすを面と向かってぶつけ合うプレーを披露。金属と金属がぶつかる鈍い衝突音が館内に響く。生徒の多くは驚きの声を上げる。「マーダーボール」(殺人球技)と呼ばれる車いすラグビーの別名は“だて”でない。

 衝突音に耳が慣れたところで生徒は実際に車いすに乗り、友達同士で車いすの“ぶつけ合い”を体験する。衝突音だけでなく、振動を体で感じる。七戸養護学校中学部の本田悠登さん(15)は「最初は緊張したけど、とても楽しかった。また体験したい」と満足気だ。

 選手と一緒に参加したミニゲームでは、生徒は屈託のない笑顔で、車いすの操作に悪戦苦闘しながら、コートを動き回る。ボールを落としたり、取り損ねたり、全く違った方向に投げたりと思い通りにいかない。競技の難しさを知る。車いすの車輪を動かす一方でボールを扱うのは生徒にとって至難の業だ。七戸養護学校中学部の木村心大さん(15)は「車いすを動かすことは難しく、それを軽々動かす選手にびっくりした」と語る。

 時折プレーのお手本を示すカナダ、日本の両選手を見る生徒の目は、体験会の前とは明らかに異なる。尊敬のまなざしだ。生徒を代表して体験会の最後にあいさつした七戸中2年の柔道部副部長・田栗彩音さん(13)は「手や足が不自由なのに、すごくうまくラグビーをやっているのがすごい。今日はありがとうございました」と元気な声で感謝の言葉を贈る。

 この日生徒たちが教わったのは車いすラグビーの競技そのものだけではない。カナダチームの選手やコーチ、スタッフと交流することで、その言動の端々から車いすラグビーを生み出したカナダ社会の背景にも関心を抱いたはずだ。個々人の多様性を認め、すべての人が潜在的に有する能力をフルに発現できる「包摂的な社会」を目指すカナダ社会の力強さを―何となくでも肌で感じたのではないだろうか。

 多様性を認めるカナダの包摂的な社会を目指す姿勢は、移民の受け入れに対するカナダのトルドー首相の有名な発言にもその一端がうかがわれる。

 世界の首脳の中で、ドイツのメルケル首相と並んで移民受け入れに積極的な姿勢を示したトルドー首相。タウンミーティングで会場からイスラム教徒の移民受け入れについて問われた際「カナダは先住民に受け入れてもらった移民によって建てられた国だ」と建国の歴史を強調した上で「われわれはカナダの移民制度に自信を持っている。移民をただ受け入れるだけでなく、移民が社会に溶け込み、国、地域で成長、成功できるよう支えている。“多様性”こそが、われわれカナダを強くしている」ときっぱり答えている。

 トルドー首相の発言はもちろん、直接言及した移民にとどまらない射程を持っている。人種、宗教、性別、障がい…などを壁にしない、大きな包摂性を意味しているはずだ。

 元カナダパラリンピック委員会会長で、今回カナダ車いすラグビー連盟会長として代表選手団を率いて三沢市を訪れたローレル・クロスビーさんは、カナダ社会の中で教育者として障がい者スポーツの普及に努めてきた1人。

 カナダ選手と中学生の交流を柔和な笑顔で見つめるクロスビーさんに、包摂的な社会を築く上で大切なことは何か、端的に聞くと「カナダでは子どものころから、お互い多様性を認め合う包摂的な社会は当然という意識で育っている。教育の中で包摂的な社会の価値と意味をきちんと伝えている」と語った。

 クロスビーさんは今回、「三沢市の教育関係者の方々と包摂的な共生社会について語り合うこと」を楽しみにしている、という。海外のパラリンピックチームの事前キャンプを受け入れることは、日本の障がい者スポーツ、障がい者を取り巻く日本社会の在り方を見つめ直す大きなきっかけになる可能性を秘めている。

 体験会に参加した日本車いすラグビーのアシスタンコーチ・三阪洋行さんは言う。
 「障がいがあっても選手たちはすごい人たちなんだということを知ってほしい。この三沢市国際交流スポーツセンターは障がい者が車いすに乗ったままシャワーを使えるバリアフリーの進んだ国内でも有数の施設だ。施設・ハードのバリアフリーだけでなく、障がい者と健常者がお互いを理解し認め合うための“人と人の間のバリアフリー”がもっと進んでほしい」

毎日通う車いすの少女

 午後3時すぎから日本とカナダの公開試合が始まる。コート内の選手の表情は、午前中の体験会で生徒に見せた優しい笑顔から、きりりと引き締まった勝負師の顔に一変する。

 両国のエース、日本の池崎大輔選手とカナダのザック・マデル選手の競り合いは想像以上に激しい。世界トップを目指すアスリート同士の世界に一気に引き込まれる。カメラの撮影でフラッシュが光ると、三沢市の職員に「フラッシュ禁止。選手の気が散る」と注意された。ピーンと張り詰めた空気が館内を包む。

 2020年の東京パラリンピックに向け、車いすラグビーカナダ代表が三沢市で事前キャンプを開くのは昨年10月に続き今回で2回目。7月11日までの滞在予定で6月30日、三沢市入りした。

 カナダチームの滞在期間中、三沢市国際交流スポーツセンターを毎日訪れているという少女に出会った。タイヤのチューブがピンク色の車いすに乗って、公開試合や練習を楽しそうに眺めている。三沢市立三沢小学校6年の市川結愛さん(12)だ。

 父親の中部上北広域事業組合消防職員・市川喜和さん(38)によると、結愛さんは脳性まひの症状で小さいころから車いすを利用している。昨秋の事前キャンプにきたカナダチームを見て以来、車いすラグビーの魅力にはまった、という。

 結愛さんは「自分でやるのはちょっと怖いけど、選手のプレーを見るのが好き。自信がつくし、元気が出る」と目を輝かせる。前回のキャンプ同様、今回もカナダチームの滞在期間中、毎日通い続ける予定で、両親に送迎をお願いしている。

 毎日熱心に見学する結愛さんはカナダチームの人気者。選手が合宿中の厳しい練習をこなす「心の糧」の一つにでもなっているのだろうか。「ハーイ、ユナ」「明日も来る?」「明日も来てね」と多くの選手らから声を掛けられる。中には結愛さんを温かく抱きしめる選手もいる。結愛さんは選手から“自信”を、選手は結愛さんから合宿中の“張り合い”を得ているようだ。

 カナダ選手が帰り際に続々と結愛さんにひと声掛けて立ち去る姿を見ていると、結愛さんはその名の通り、他人を思いやる優しい気持ちを切り結ぶ“結節点”のように思えてくる。

 「あの人は車いすの整備をする方ですよ」。結愛さんからはカナダ選手やスタッフの名前をたくさん教えてもらった。得点を表示する電光掲示板の詳しい見方も解説してくれた。ルールをはじめ車いすラグビーにとても詳しい。

 最近はネット動画で日本代表チームの試合も研究する。日本代表選手の名前も覚えつつある。結愛さんの目下の悩みは「2020年東京パラリンピックで日本とカナダが戦ったときどっちを応援するか」(喜和さん)だという。

 喜和さんは「来年の東京パラリンピックに結愛を連れて行き、希望する車いすラグビーの試合を観戦させたい」と話す。そばで聞いていた結愛さんは、はにかみながらもうれしそうな笑顔を見せる。幸運の女神が結愛さんにほほ笑み、観戦チケットが市川家に届くことを願ってやまない。

人材豊富な国際ボランティア

 結愛さんがカナダチームとこれほど交流を深めることができたのには理由がある。三沢市の「みさわ国際交流協会」のボランティアの、労を惜しまない通訳の役割が大きい。バラ焼きを生んだ三沢の食文化だけでなく、米軍基地は三沢の国際交流文化にも影響を与えている。三沢市オリパラ推進室の熊野真希室長は言う。

 「米軍基地がある関係で、ご自身やご家族が基地で働いている人が多く、英語に堪能な市民が多い。カナダチームが三沢市を事前キャンプ地に選んだのは、バリアフリーの進んだ施設とともに、言葉(英語)の不安がない点も大きかった」

 公開試合が終わるころ、三沢市国際交流スポーツセンターから歩いて数分の三沢市国際交流教育センターでは、完全バリアフリーを実現した同教育センターに宿泊するカナダ、日本の両チームの選手のため、みさわ国際交流センターのスタッフが慌ただしく選手たちの夕食の準備を始めている。

 リーダーはみさわ国際交流センターのアトキンソンみゆきさん。米軍基地に勤めるご主人とともにおよそ10年前に横田基地のある東京都福生市から三沢市に引っ越してきた。

カナダ車いすラグビー連盟会長のローレル・クロスビーさん(中央)の夫ジョンさん(左)の釣りの話で盛り上がり、3人で談笑する木田高子さん

 みゆきさんは「ボランティア仲間と一緒に配膳をお手伝いしています。選手たちが練習に集中できるよう衛生面には特に気をつけている」と話す。食事をテーブルまで運んであげたり、カナダの選手には積極的に英語で話し掛け、場の空気を和らげている。

 みゆきさん同様、基地に勤める夫とともに約6年前に横須賀基地から三沢市に引っ越してきた木田高子さんは「みゆきさんに誘われて始めました。カナダの選手はとても礼儀正しい人たちです。やりがいを感じています」と語る。

 英語に堪能なみゆきさんや木田さんら貴重なボランティアの存在が、カナダチームを引きつけた「国際都市」三沢の実力を支えている。

 三沢駅に向かうタクシーの車窓から眺める景色は、行きと異なり、三沢の美しい夜の町並み。7月8日、車いすラグビーの魅力と心温かい三沢の人々と出会った濃密な1日は、またたく間に終わった。

もっと大きな画像が見たい・画像が表示されない場合はこちら

    あなたにおすすめ

    ランキングトレンド

    前日のランキングへ

    ニュース設定