ミニバンに代わるクルマに? マツダの3列シートSUV「CX-8」に試乗

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2019年07月23日 11:42  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
●ライフステージの変化に車種展開で対応するマツダ
マツダが多人数乗車のニーズに対応すべく開発した3列シートSUV「CX-8」。小飼雅道社長が「ミニバンに代わる新たな市場の創造に挑戦する」と意気込む最新のマツダ車だが、実際のところ、ミニバンの購入を検討する人にとって新たな選択肢になり得るのだろうか。試乗して確かめた。

○新世代商品群を補完する「CX-8」

マツダは、2012年に新世代商品群の第1弾としてSUV(スポーツ多目的車)の「CX-5」を発売して以後、「アテンザ」「アクセラ」「デミオ」「CX-3」「ロードスター」と順次、SKYACTIV(スカイアクティブ)技術と魂動(こどう)デザインを用いた新車を発表してきた。2017年にはCX-5がフルモデルチェンジし、新世代商品群の車種展開が一巡したことになる。

その上で、新世代商品群を補完する位置づけとして登場したのがCX-8だ。車両概要については、発表時に掲載となった記事を参照していただきたいが、マツダは「マツダ車にずっと乗り続けていただきたいので、CX-5に乗っていただいた方に家族が増え、多人数乗車を希望する際に応えられる車種として、3列シートのCX-8を導入しました」と説明している。

○日本で使える車体寸法に

その言葉を裏付けるように、CX-8の車体幅はCX-5と同じで、全長のみ3列シートを実現するため35.5cm伸びて4.9mとなっている。それでも「車体寸法は、国内で不便なく使える大きさに抑えている」とマツダは話す。事実、CX-8は、国内市場を主な狙いとして開発された車種だ。

エンジンは、初代CX-5から採用されてきた排気量2.2LのディーゼルターボエンジンをCX-8のために改良し、搭載している。ガソリンエンジン車の選択肢はない。このディーゼルターボエンジンにより、「CX-5に比べ約200キロの重量増を感じさせない走りを実現した」と松岡英樹主査は語っている。

以上、CX-8の概要をおさらいしたうえで、試乗の印象を次に紹介しよう。

●ディーゼルエンジンであることを感じさせない静粛性
○一貫して理想を追求するドライビングポジション

まず運転姿勢について。これはCX-8に限らないことだが、マツダは、運転を楽しむためと安全運転を促すため、運転姿勢を正しく得られる運転席の作りにこだわっている。簡単に言えば、進行方向に正対してきちんと座れて、手足をまっすぐ前へ伸ばせる姿勢をとれるようにする。

そんなことは当たり前だと思うかもしれないが、実際には、体が少し斜めになった状態で運転させられるクルマが多いのが現状だ。それが、ペダル踏み間違いの遠因になっている可能性は否定できない。

ということで、マツダ車の運転席に座ると、正しい姿勢であることに安堵を覚える。それはCX-8も同じだ。

○最上級SUVならではの静粛性を実現

ディーゼルエンジンを始動して走りだすが、ディーゼル特有の振動や騒音はよく抑えられ、少なくとも車内にいる乗員に対しては、ディーゼルエンジンであることを気付かせない快適性を実現している。

走っている最中も室内の静粛性は優れ、CX-8をマツダが最上級SUVと位置づけるだけの高級さを実感することができた。そして、運転席のある1列目の座席と、3列目の座席の乗員が、日常的な普通の声で会話をすることができるほど静かな室内が保たれる。やや残念なのは、それほどの静けさの中にタイヤ騒音が侵入してくることだ。装着されていたのは走行性能を重視した銘柄だったが、その分、タイヤ騒音は気になった。

マツダの最上級SUVとして、走行感覚にも乗車感覚にも上質さを重視する車種であるにもかかわらず、その雰囲気を壊してしまうタイヤ選択には疑問が残った。近年、快適性を重視したタイヤであっても、走行性能を十分に満たしたものが出回っている。“Be a driver”を標榜し、“Zoom-Zoom”な走りを求めるあまり、目指した狙いと実際の開発とに多少のズレが生じたようだ。

●気になる動力性能と3列目の乗り心地
○「CX-5」に比べ200キロの重量増

CX-5に比べ車両重量の増加を感じさせないと試乗前に解説された動力性能については、やはり200キロという重量増は大人3〜4人分の体重に相当するため、影響を無視しえない状況だった。

低回転域で大きな力を発揮するディーゼルエンジンとはいえ、例えば実際の交通環境の中で、時速40キロから50キロへ、あるいは50キロから60キロへというように、わずかな速度調節のため加速をしたいとき、一瞬のもたつきというか、遅れが生じた。

強くアクセルペダルを踏み込んだ時の動力性能はかなり改善したとの説明であったが、アクセルペダルを強く踏み込むような場面は日常生活の中でめったにあることではない。もっと実用領域での気持ちよさや加速の俊敏さに開発の労力を注いでほしかったと思う。ここにおいてもマツダの勇み足と思える作り方が見えた。

ただ、それ以外の走行安定性や乗り心地について気掛かりな点はなく、快適に運転することができた。
○3列目で感じた安全への目配り

また、2列目と3列目にも座ってみたが、2列目の座席は床との差が十分にあって、足を下へきちんと降ろした姿勢で座ることができ、それによって腿が座面で支えられるので、体を安定させやすかった。

3列目は、さすがにやや体育座りに近い格好になるが、できるだけ足を曲げずに済む着座位置にしたとの説明である。その上で、やや体を斜めにして座りたくなったが、それでもシートベルトがきちんと腰の位置に落ち着き、走行中にズレることもなく、万が一の衝突に対しても体の拘束という安心が確保されているところに、安全への目配りの効いた作り込みがなされていることを知った。1列目から3列目まで、手抜きの無い開発が行われた1つの証と言えるだろう。

●ミニバンと「CX-8」を同列で語れるか
マツダの新世代商品群に、ミニバンはない。“Be a driver”のフレーズと共に、運転を楽しむための“Zoom-Zoom”なクルマづくりをマツダが目指した結果、ミニバンは切り捨てられた。では、ミニバン同様の3列シートを持つCX-8が、ミニバンの代替となるかというと、そうではないと試乗をして感じた。
○スライドドアは不採用、最低地上高はSUV水準

CX-8の後ろのドアは、スライドドアではなくヒンジドアであるため、ミニバンを志向する人の求める大きな要件の1つは果たせない。実際、マツダのミニバンとして長らく愛用されてきた「MPV」は、初代がヒンジドアだったが不評で、2代目以降がスライドドアとなった。最終型のMPVはCX-8に近い車体寸法だが、後ろのドアの使い勝手がCX-8では大きく異なる。

次に、車体の床下と路面との隙間にあたる最低地上高は、MPVが155mmであったのに対し、CX-8は200mmとなる。未舗装路を走ることも視野に入れるSUVにとって、この最低地上高は標準的であり、当然の高さだが、この差は乗降性においてやや不便が生じる。6〜7人乗りで、若い家族の両親も同乗すると想定した場合、高齢者には床が高くなると乗り降りが不便だ。若者や壮年の人のように足を高く上げにくく、また体をSUVの床の高さまで持ち上げにくいのが高齢者である。たとえ手すりがあっても簡単ではない。

頭の中で思い描いた家族3世代でのドライブに、座席数が6〜7あればいいと考えたのかもしれないが、乗降性が悪いと感じれば、高齢者は出掛けたくなくなるだろう。
○ミニバンの“代替品”ではない「CX-8」

魂動デザインという、1つのイメージ戦略からすれば、マツダにとって四角い箱形のミニバンは想定外となるのだろう。かといって、SUVが3列シートになればミニバンの代替を果たせるのではないかという期待はしないほうがいい。マツダも、CX-8がミニバンの代替になるとは言っていない。

マツダはCX-8について、長くマツダ車に乗ってもらいたいと考え、新世代商品群を補完する3列シート車を加えたとする。だが、ミニバンを選んできた顧客に選択肢がなくなったのも事実だ。マツダは、国内にミニバンブームが起きる前から多目的車としてMPVを世に送りだし、車名の通り、まさに多目的車(MPV:Multi Purpose Vehicle)の意味そのままにクルマの多用途性を提案したが、国内市場においては約26年で姿を消した。

そういった観点から考えると、企業の都合で車種を絞り込んだことにより、新世代商品群を好むファンを獲得できた一方で、永年のマツダ愛好者が離れていっているかもしれない側面がある。この後に登場するという次世代商品群が、これまでの新世代商品群の顧客離れを起こさせない車種構成や商品性を備えていることを願う。(御堀直嗣)
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