車種展開、全固体電池、充電設備…トヨタが語ったクルマの電動化

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2019年07月23日 11:52  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
●ハイブリッドの第一人者はEVシフトをどう見ているのか
トヨタ自動車は27日、クルマの電動化技術に関する報道向けの説明会を都内で開催した。展示されたのは、20周年を迎えたハイブリッド車(HV)「プリウス」でトヨタが培ってきた技術の数々。モーターやインバーターなど、HVのコア技術は多くが電気自動車(EV)にも転用可能とのことなので、同社が保有する技術や工夫は、今後のEV開発にもフル活用されるのだろう。

○ハイブリッドで1,000万台の実績、電動車両は全方位で

すでにトヨタは、多様な電動車両をラインアップしている自動車メーカーだ。累計1,000万台以上を販売したHVはもちろんのこと、外部からの充電が可能なプラグインハイブリッド車(PHV)の「プリウスPHV」や、水素で発電して走る燃料電池自動車(FCV)「ミライ」といった商品も展開している。EVについては海外勢に比べ遅れているとも言われる同社だが、これまでに「RAV4 EV」や「eQ」などの商品を手掛けてきた経緯があるし、今後は中国やインドなどにも商品を投入していくとのことだ。

では、トヨタにとって何が次世代エコカーの主力となるのか。説明会に登壇したトヨタ常務理事の安部静生氏は「それを決めるのはユーザー」(以下、発言は安部氏)とし、需要のあるカテゴリーに顧客の望む方式の電動車両を用意していく姿勢を鮮明にした。

基本的には全方位の開発を続けていくのがトヨタのビジネスだ。ただし、「規制の動向次第で、規制にミートする環境性能をどのクルマで実現できるかという観点でいえば、エンジンだけで走るクルマが今後、つらくなるのは間違いない。HVでも環境性能が足りなくなる時代がくるかもしれない」とも安部氏は付け加えた。

さて、気になるEVについてのトヨタの考え方だが、安部氏は航続距離400キロの日産自動車「リーフ」が登場するなど、“普通のクルマ”になりつつあると言われるEVの現状については「まだまだ足りない」と指摘した。これは単純に航続距離の長短を語った言葉ではなく、使い勝手に向上の余地があるという話だ。

●EVは充電時間に課題、解決の鍵は「止まっている時間」の有効活用
○充電問題解決に2つの方向性

では、何が足りないのか。ガソリンで走るエンジン車であれば、車種にもよるが500〜600キロを走るエネルギーを3分で充填(給油)できるが、EVの充電時間は設備によって10時間を超えたり、急速充電でも数十分を要するのが一般的だ。このエネルギー充填に関する問題が、EV普及の課題になっていると安部氏は指摘する。こういった課題を踏まえトヨタは、EVは現時点で、充電時間が短くて済むよう小さい電池を搭載し、通勤など近距離の移動に使う領域に向いているとの見方を示す。

充電の問題についてトヨタは、解決に向けた技術を「鋭意、開発中」とのこと。充電問題を解決するには「2つの方向性」があるという。

まず1つ目の方向性は、充電に「ガソリンスタンドと同等の利便性」を持たせること。つまり、既存の充電設備を進化させて、多くの電力を素早くクルマに充電できるようにしていく道だ。しかし、この方向で進んでも給油にはスピードで「歯が立たない」し、充電時に損失するエネルギーの量も大きくなるそうなので、こちらの手法はあくまで非常用との位置づけだ。

充電問題解決に向けた2つ目の方向性として安部氏は、クルマが「止まっている時間をいかに活用するか」という視点を提示した。1日のほとんどを持ち主の自宅や職場などで止まった状態で過ごすクルマだが、この駐車の時間をフルに充電にあてることをシステマティックに考えるのが課題解決の道だというのだ。安部氏によると、この充電システムを確立できれば「どんどん(設置コストが)高い充電インフラを作るより、よほど効率的にEVを運用できると試算」しているとのことだった。

説明会では、トヨタのEVに関する取り組みで最近、話題を集めた2つのトピックについても語られた。それは「全固体電池」と「EV開発合弁会社」に関する話だ。

●全固体電池搭載EVは2020年代前半に投入
○バッテリーの製造で幅広い協業も視野

リチウムイオン電池よりエネルギー密度が高く、可燃性の液体が漏れ出す心配がないため安全性も高い「全固体電池」は、トヨタが以前から研究してきた次世代の蓄電池だ。

全固体電池について安部氏は、「先日の東京モーターショーで副社長(ディディエ・ルロワ氏)からも話があったが、2020年代前半には全固体電池を搭載したEVを出したい」との考えを示した。全固体電池は安全性が高いので、冷却装置や電池の監視ユニットなど、安全性のためのデバイスを「よりリーンにできる(無駄を省ける)可能性」があり、そのポテンシャルにも期待を寄せているそうだ。製造を含め課題が多いのも事実らしいが、トヨタとしては前向きに開発を進めているとのことだった。

EVで使うバッテリーについて安部氏は、電池は典型的な装置産業だと指摘した上で、トヨタ単独あるいはグループ内で内製化するのではなく、もう少し広い協業が必要になるのでは、との考えも示していた。
○単独開発はビジネス的に厳しいEV

EV開発に向けマツダおよびデンソーと設立した合弁会社「EV C.A. Spirit」については、マツダのクルマづくりを特徴づける「コモンアーキテクチャー」という手法に学びたいという考えを示す。これは、数年先までのクルマを「一括企画」するマツダが採用するクルマづくりの手法だ。安部氏はトヨタ単独でEVを開発しても「ビジネス的に厳しい」と認めた上で、この悩みは各メーカーに共通するとし、その問題を乗り越えるべく協業を進めているとした。

この合弁でトヨタが果たす役割は、HV開発などで培った技術の提供だと考えられるが、安部氏は同社で開発する実際のEVについては企画も出ていないし、どんなユニットをどこで作るかについても現時点で白紙として、多くを語らなかった。

今回の説明会で感じたのは、HVで蓄積した技術を核に、電動化が進む世界でも全方位の姿勢を貫いて存在感を示そうとするトヨタの思いだった。実のところトヨタは、2016年にHVを含む電動車両市場でシェア43%を獲得(トヨタ調べ)した一大勢力でもある。あくまで顧客本位を基本としつつ、今後は充電システムの革新、電池の革新、さらなる協業拡大などを通じ、電動車両の普及をさらに推進していきたいというのがトヨタの考えだろう。(藤田真吾)
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