「コミットメント経営」の終焉か、日産自動車が迎えた転換期

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2019年07月23日 11:52  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
●ゴーン長期政権を継いだ西川日産体制、移行して初の大きなつまずき
カルロス・ゴーン氏による日産V字回復の代名詞「コミットメント経営」は、終焉の時を迎えているのかもしれない。数値目標を掲げ、それを必ず達成することで日産を再び輝かせた経営手法だが、無資格検査問題で詳細発表が延び延びとなっている新たな中期経営計画は、少しカラーの違うものとなりそうだ。

○検査不正で2カ月に3度の会見

国内工場での完成検査における不正問題で、日産自動車は信頼性の低下およびブランドの毀損に揺れている。日産の西川廣人社長は11月17日、国内工場での完成検査員による無資格検査の報告書を国土交通省に提出するとともに、横浜の本社で記者会見を行った。

この検査不正問題が明るみに出た後、西川社長の会見は10月2日、11月8日(中間決算発表後)、同17日と2カ月で3度に及び、いずれも冒頭に陳謝するものだった。11月17日の会見は、ことのあらましと今後の対策を説明して質疑に応じ、2時間半にわたる長丁場となったが、17年間の日産長期政権を担ったカルロス・ゴーン氏から、この4月に社長を譲られた西川社長にしては、いつにない歯切れの悪さが目立った。

特に、ゴーン会長を含めた経営責任については再三問われたが、この日産国内工場における完成検査不正が、ゴーン経営以前から長年にわたって常態化していたことから、ゴーン流経営は関係ないとして「私を含む現経営陣の責任は、この状態から挽回させることが一番の責務だ」とし、経営責任をとるよりも挽回に注力していくことを強調した。

○必達目標が一人歩き?

一方で、ゴーン流経営の真骨頂であったコミットメント(必達目標)経営については、「上位のマネジメントの目標だけが一人歩きする歪みがあったのか」と発言。この方針からの転換を示唆したのである。

すでに日産は、前中期経営計画である「日産パワー88」でのグローバルシェア8%、営業利益率8%が未達に終わっており、本年度からはルノー・日産・三菱自動車アライアンスの中期経営計画と連動し、新たな6カ年経営計画を始動させるが、今回の不祥事により、計画内容の中味についても発表が後倒しとなっている。

西川体制は、ゴーン会長が取締役会議長を務めてはいるが執行責任は西川社長にあり、改めて日産新6カ年中期経営計画を進めるにあたっては、信頼回復を第一にした日産全体の立て直しが主体となる。すなわち、ゴーン流コミットメント経営の終焉を意味することになる。

●カー・オブ・ザ・イヤーは辞退、ブランド価値の回復が急務に
○「リーフ」がカー・オブ・ザ・イヤーを辞退

日産にとって、今回の無資格検査不正問題が明るみに出たことにより、その対応のまずさが信頼性失墜の傷口を広げる結果となった。

この問題が表面化した時、9月27日の国土交通省における謝罪会見に出たのは西川社長でも役員クラスでもなく、部長クラスであった。週末を挟んだ翌月曜日の10月2日には、西川社長が国交省で会見しようとしたところ、国交省から断られて横浜本社に場所を変更。再発防止策を説明したが、その後も複数工場で無資格者が検査し続けていたことで、リコールの追加という事態にもなる悪循環に至ったのである。

これにより、日産は新型電気自動車(EV)「リーフ」でカー・オブ・ザ・イヤーの選考を辞退したり、東京モーターショーを主催する日本自動車工業会で会長を務める西川社長の自粛により、豊田章男トヨタ自動車社長に代行を依頼したりといったように、大きな犠牲を払うこととなった。

○検査問題はいつから常態化していたのか

西川社長も3度目となった11月17日の会見で、「初動対応のまずさや、事態を十分把握せず現場で起こっていることの認識が甘かったことで、事態が大きくなった」と反省する言葉を繰り返した。

日産にとって今回の問題は、「工場の仕組みや目標が、現実とギャップのある形で長年放置されていた。分かる限りでは1989年に追浜工場で(始まったとの認識だが)、さらに10年前頃にさかのぼる長い年月で常態化していたようだ」(西川社長)というように、旧・日産時代から常態化していたのである。

つまり、ゴーン体制に移行してからではなく、それ以前から現場の最終完成検査がずさんだったということである。それでは、ゴーン体制が長く続く中で、ゴーン経営陣は生産現場をチェックできなかったのか、ということでもある。

1999年に日産がルノーと資本提携してルノー傘下に入り、ルノーからゴーン氏が送り込まれ、当初は最高執行責任者(COO)として旧・日産時代のしがらみを断ち切り、コミットメント経営でV字回復させた。これがゴーン体制下の日産である。

労働組合と経営サイドの確執や主導権争いが、旧・日産破滅の大きな要因ともいわれたが、生産や販売現場のしがらみを断ち切ったはずのゴーン経営が、今回の問題を見逃していたことでの失態も指摘されるのである。

●日産の新たな6カ年計画はどこへ向かうのか
○3社アライアンスで野心的な数値目標、大黒柱の日産は

2016年度で終了した直近の中期経営計画(中計)である日産の「パワー88」。「88」というように、世界販売シェア8%と売上高営業利益率8%とを目標に置いた、ゴーン流のわかりやすい中計だった。

しかし、このパワー88は未達に終わる。その中で、4月にゴーン氏は日産社長の座を西川氏に譲り、自らは会長になるとともに、三菱自動車の会長、ルノーのトップ、ルノー・日産・三菱自アライアンスの会長の計4役を兼ねることで、3社連合を率いる立場を明確にした。

これに基づきゴーン氏は、3社連合の2022年までの中期経営計画「アライアンス2022」をパリで発表し、連合でグローバル1,400万台(2016年比40%増)、売上高2,400億ドル(約26兆4,000億円、同30%増)という世界覇権への野望ともいえる目標数字をぶちあげている。

しかし、昨年の三菱自動車の不祥事に続き今回、日産の生産現場における検査不正が明るみに出たことで、日産は3社連合の計画と連動する新たな中期経営計画の中身を詳しく発表することを引き延ばさざるを得ない状況となった。

前の中間決算発表でも西川社長は、冒頭に「信頼を取り戻す」と陳謝するとともに、「新中計の中味の発表は年内にでも改めて行いたい」と述べている。

○詳細説明が待たれる新しい中期経営計画

2017年度からスタートしている日産の新たな中計は、2020年度までの6カ年計画となる「日産M.O.V.E to 2022」が概括的に発表されている。「M」はモビリティ、「O」はオペレーション・エクセレンス、「V」は顧客への価値提供、「E」は電動化を意味する。健全な収益性と安定したフリーキャッシュフローを確保しながら、「持続可能な成長」を実現するというものだ。

西川社長は、この中計を進めるにあたって「我々が狙っているのは、着実な成長だ。スコアカードは、将来を見据えて健全なポジションをとるための妥当な数字であり、世界シェア8%を目標にすべきではなく、ポテンシャルを持つということだ」とする。

つまり西川体制は、現状の混乱をまず打開し、信頼を回復させていくことが第一義だとして、これまで必達目標としていたコミットメントから、「着実な成長」へと方向転換を図ることになったのである。(佃義夫)
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