自動運転を成長ドライバーに! 日立が取り組む自動車事業の現在地

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2019年07月23日 11:52  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
●気になる自動運転レベル3の今後、新技術で課題解決に挑む日立AMS
クルマの知能化が進む自動車業界で、自動運転関連の技術開発を進める日立オートモーティブシステムズ(以下、日立AMS)。自動運転での走行中、システムが破損した場合の対策など、同社が研究する領域は幅広い。その技術の一端を北海道・十勝のテストコースで体感した。

○人とクルマの間で責任が行き来する自動運転レベル3

自動運転の研究が進む自動車業界だが、「レベル3」と呼ばれる領域(自動運転のレベリングについて詳しくはこちら)に踏み込むかどうかについては、いろいろな考え方があるようだ。レベル3の自動運転では、クルマ(システム)が運転の責任を担う自動運転状態と、人間による手動運転状態が混在するので、その責任の受け渡しが難しい。アウディは先頃、新型「A8」で世界で初めてレベル3の領域に踏み込むと発表し、世間の耳目を集めた。

例えば自動運転状態の車内で、人間(ドライバー)がくつろいでいたり、何か別の(運転以外の)作業をしていたりする時に、クルマのシステムに問題が生じるなど、自動運転技術では回避不可能なシチュエーションが発生すると、どうなるのか。クルマは人間に、どんな感じで運転を引き渡すのか。これはクルマの作り手にとって難題だ。引き渡しには何秒くらいの時間的猶予を持たせるのか、あるいは引き渡しが必要な状況にあることをどのようにドライバーに知らせるかなど、まだまだ煮詰まっていない課題も多い。

この課題に対し、日立AMSが提示するのが「1 Fail Operational」(ワン・フェイル・オペレーショナル)という技術だ。

●自動運転中、システムの一部が破損するとどうなるか
○部品同士で機能を補完する技術を実用化へ

日立AMSはクルマの自動運転システムを構成する電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)、カメラ、センサー、レーダー、アクチュエーター(エンジンやステアリングなどを制御する部品)群などの基幹部品を自動車メーカーに供給しているが、この基幹部品の一部が破損し、機能を失陥した時、別の部品が失陥した機能を引き継ぐ技術を日立AMSは開発した。それが「1 Fail Operational」だ。

十勝では、日産「フーガ」をベースとするデモ車両で日立AMSの技術を体感できた。デモ車両はコース上で、車線を認識して一定の速度で走行する自動運転状態に入るのだが、その途中で自動運転ECUが破損してしまうという想定のデモ走行だった。

ECUはクルマの電子制御をつかさどる基幹部品なので、これが自動運転中にダウンしたら、すぐにでも人間が運転を引き継がねばならないはずだ。しかし、日立AMSの「1 Fail Operational」技術では、ECUの機能を「ステレオカメラ」に付いている制御用コンピューターに一時的に代替させるという。ステレオカメラ側で機能を代替している間、クルマはドライバーに運転を引き継ぐよう警告しつつ、しばらくは自動運転を続け、徐々に速度を落として最終的には停止する。この技術は2020年にも実用化する計画だ。

○冗長化がコスト低減に貢献

自動運転中に部品の一部が破損するのはありうる話だ。十勝で話を聞いた日立AMS技術開発本部長の山足公也CTOによれば、アクチュエーターは破損に備えて二重にしてあるが、コンピューターまで二重にするとコストがかさむため、同社では冗長化という手法に取り組んでいるという。

クルマが人間に運転を引き渡す必要があると判断した場合、人間に対してどのような知らせ方をするかも大事なポイントだ。警報音であったり、ディスプレイを点滅させたりと、その方法はいくつもあるし、その強弱や表現方法にも工夫の余地が多い。つまり、クルマと人間の「Human Machine Interface」(HMI)に関する話だが、この点で提案を行うのが日立グループのクラリオンだ。

●自動運転で重要度を増す人とクルマのコミュニケーション
○音と振動で伝えるクラリオンの「インフォシート」

クラリオンは十勝で自動車用HMIのデモを実施。クルマからの情報をシート経由でドライバーに伝える「インフォシート」という技術を体感できた。

まず、インフォシートのヘッドレストにはスピーカーが内蔵されている。クルマを運転している時、ナビの音声ガイダンスが入ると、音楽やラジオが自動的にミュートされることがあるが、クラリオンのインフォシートは、ドライバーにだけ必要な情報は運転席のヘッドレストから伝える。この機能があれば、同乗者は音楽やラジオを邪魔されずに済む。

インフォシートのもう1つの特徴は振動の機能だ。例えば車線を逸脱した時、インフォシートはブルブル震え、音声およびLED表示と合わせてドライバーに危険であることを知らせる。音響技術のクラリオンが振動技術の出来栄えに胸を張る理由が気になったが、説明員から「音も振動なので」と聞いて納得できた。クラリオンCTOの國井伸恭執行役によると、音だけで知らせるHMIでは「うるさくて」機能自体をオフにしてしまうドライバーもいるらしいが、振動との組み合わせや使い分けといった手法により、その不快感は減るかもしれない。

○“伝える力”がクルマ選びのポイントに?

その振動を生み出すのが、シートに内蔵された2つのデバイスだ。これはモーターではなく、コイルを使った特別なデバイスなのだという。たった2つのデバイスで生み出す振動だが、体感した感想としては、前後左右、そして背中から腿の辺りと振動する場所が変わることに加え、その強弱が自在であることにも驚いた。

自動運転レベル3でクルマが人に運転を引き渡す場合、どのように知らせるかは難しい問題だ。警告が過剰だと不快だし、過小だと気付かないおそれがある。自動運転が普通になった時、そのクルマに気の効いたHMIが搭載されているかどうかは、購入者の評価ポイントの1つになるだろう。気の効いたHMIを求める自動車メーカーが、インフォシートの“伝える力”に注目する可能性もありそうだ。

そして十勝のデモではもう1つ、実用化が楽しみな自動運転関連の技術を見ることができた。アメリカ映画で見かけたことのある、あのサービスの自動化に日立AMSとクラリオンが取り組んでいるのだ。

●キーを渡して目的地に直行、あのサービスが自動化するかも?
○「自動バレーパーキング」で駐車が不要に

アル・パチーノ演じる落ち目のスター歌手が高級車でホテルに乗りつけ、ドアマンにキーを手渡して建物に入っていく。こんなシーンを最近、映画で見たような覚えがあるが、ホテル側にクルマを預けて、駐車しておいてもらうサービスは「バレーパーキング」と呼ばれるらしい。これの自動化に日立AMSとクラリオンが取り組んでいる。

「自動バレーパーキング」は例えば、大型ショッピングモールなどで実用化の可能性がある。買い物に来た客が降車位置でクルマを降りると、クルマは管制センターと通信を行い、管制センターから指示された駐車スペースに自動かつ無人の状態で駐車を行う。駐車が済むとドライバーのスマートフォンに連絡を送り、ドライバーが帰る際には乗車位置まで迎えに行くというシステムだ。

○鉄道のノウハウも応用、日立の総合力がいきる新技術

このシステムでは、日立グループの総合力が垣間見えた。駐車場内でのクルマの管理に、日立製作所が持つ鉄道運行管理システムのノウハウが活用されているというのだ。

数台のクルマが自動バレーパーキングを行う際、追突事故が生じてしまっては元も子もない。先行車がいるなら、後から駐車場に入ってきたクルマは進行方向がクリアになるまで待つ必要があるが、日立AMSはその部分に鉄道の技術を使う。鉄道は信号で管理され、ある区間に列車が侵入していれば、後から同区間に別の列車が入らないようなシステムとなっている。自動バレーパーキングでも、同一区間に2台のクルマが入らないようシステムで制御する。

手動運転のクルマが混在する場合や歩行者への対応、あるいは落ちている物を踏んでしまってクルマが破損しないかなど、同システムの実用化に向けてはさまざまな課題があるのも事実。その点を認めつつ山足CTOは、「日立製作所の中には駐車場管理システムを扱う部署もあり、そちらでは監視カメラで駐車場内を捉え、中にある他のクルマや障害物、侵入者を画像認識する技術がある。この情報を管制センターと共有することで、一歩踏み込めるのでは」との見方を示した。

実用化のハードルは高そうな自動バレーパーキングだが、この技術を使えば手動運転よりも効率的な駐車が可能となりそうだ。同システムを導入する施設では、駐車可能台数が増えるというメリットも享受できるだろう。

●電気自動車も作れる日立AMS、業界での立ち位置は変わるか
○EVのデモも実施

十勝のデモでは、日立AMSがマツダ「デミオ」をベースに開発した電気自動車(EV)も見ることができた。日立AMSは自動運転時代にクルマの頭脳の役割を果たすであろう基幹部品も作っているし、EVを作る能力も持つ企業というわけだ。

クルマの知能化と電動化が2大トレンドとなりつつある自動車業界において、その両方を手掛ける日立AMSの存在感は今後、高まっていくかもしれない。クルマが変われば自動車業界の勢力図も変わるので、日立AMSもサプライヤーという立場から一歩を進められそうに思える。極端かもしれないが、日立AMSもクルマを作ってしまえば、業界におけるポジションは今と全く変わるはずだ。

こういう素人の考えに山足CTOは、「EVを作ろうと思えば作れるが、売れるEVを作るのは別の話」と釘を刺した。日本ではクルマをメーカーとサプライヤーの「擦り合わせ」で作り上げているというが、日立AMSが自動運転のEVを作る能力を獲得したとしても、やはり自動車メーカーには独自のノウハウがあり、そこに追いつくのは容易ではないし、その方向は目指さないというのが山足CTOの考えなのだろう。

日立AMSの売上高は2016年度実績で9,922億円。このうち、電動化・自動運転製品の比率は18%だった。同社では2020年度に売上高を1兆3,000億円に引き上げる計画で、電動化・自動運転製品の比率は26%へと高める方針だという。

クルマの電動化と自動化が、どのようなスピードで進展するかは誰にも分からないし、自動化に至っては、どこまで実現するかも不透明な状況ではある。しかし、日立AMSは電動化・自動運転に関連する製品を「成長ドライバー」に位置づけ、事業拡大を図っている。十勝で見た技術は将来、同社のコア事業に発展するのか、それとも一部が実用化するにとどまるのか。今後の進展を見ていきたい。(藤田真吾)

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