三菱自動車が中期計画、野心的な数値目標より注目すべき「自律」の姿

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2019年07月23日 12:02  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
●ルノー・日産連合の一員として生き残るために
三菱自動車工業(以下、三菱自)が3カ年の中期経営計画「DRIVE FOR GROWTH」を発表した。グローバル販売130万台、売上高2.5兆円という目標は、2016年度比でいずれも30%以上の増加となる野心的な数字だ。この期間中にフリーキャッシュフローは黒字化するとし、コスト管理の徹底を図ることで効率的かつ規律ある業務体系の構築を目指すという。

○土台づくりの3年間

この新しい中期経営計画は、三菱自が燃費データ不正問題を契機に日産自動車の傘下に入ってから約1年が経過する中で、ルノー・日産連合の一員として、立ち位置をしっかりと固めるための土台づくりとなる。

つまり、過去のリコール隠しから燃費データ不正に至るブランド失墜を受けて、三菱自は真の信頼回復に向けて歩き出すことになる。組織改革を実行し、企業文化を変貌させることで、同社の強みを生かした成長と、ルノー・日産・三菱自連合の枠組みを確立させるため、第1ステップとして大きな意味を持つのが同計画だ。その成否が、三菱自の生き残りを占うことになると言っても過言ではない。

三菱自の益子修CEOも、新計画の発表で「完全に信頼を回復させることがこの中計3年間を通じて第一の優先経営課題だ」と強調した。そして、3つのポイントとして「信頼の早期回復、業績のV字回復、3カ年の新車投入を成功させる」ことを挙げた。

○電動化技術・SUV・アセアン市場に強み

すでにカルロス・ゴーン3社連合会長が、2017年9月にフランス・パリで2022年までのアライアンスとしての中計を発表している。三菱自の会長も兼務するゴーン氏は、3社連合で2022年には2016年比40%増のグローバル販売1,400万台を達成し、世界トップとしての地位を確立するとの野望を明確に示した。

また、3社連合で12車種の電気自動車(EV)を投入するとし、この分野におけるリーダーの座を意識する一方で、プラットフォーム(車台)の共通化を拡大する方向性を示し、ルノー・日産連合に三菱自を入れたロゴも明示することにより、三菱自の強みであるプラグインハイブリッド車(PHV)およびSUVの商品力とアセアン戦略を連合に組み込むことへの期待をにじませた。

ゴーン氏の発表を受けて、ルノーはすでに中期経営計画を発表済み。日産も当初は10月16日に発表予定だったが、無資格従業員の完成検査問題が発覚したことで延期となった。三菱自の中計は、3社連合の6カ年計画に対し、信頼回復の優先課題もあるため、まずは3カ年で連合中計と擦り合わせる土台づくりを狙うことになる。

●3年で三菱自動車の再建は具現化できるか
○再建に向けた試金石

2015年春の燃費不正問題は、1990年代末のリコール隠しが2000年代に入って再び発覚し、三菱自の経営が独ダイムラーから三菱グループによる支援へと揺れたあげくのことであった。結果として、2016年10月には日産が三菱自に34%を出資。三菱自は日産傘下、つまりは「ルノー・日産連合」の一員として再生へのスタートを切ったのである。

今回は日産の傘下入り以来、三菱自が発表した初めての中計であり、この計画は、本当の意味で過去を断ち切って再建を具現化できるかどうかの試金石ともなるものだ。日産傘下入りで三菱自の会長に就任したゴーン氏は、三菱自に対し、開発・品質担当の山下光彦副社長に加え、日産でゴーン氏の腹心と言われた世界6地域統括のトレバー・マンCPO(チーフ・パフォーマンス・オフィサー)をCOO(最高執行責任者)として送り込んでいる。この体制で約1年が経過した。

すでに三菱自は、ゴーン流日産方式の経営改革を導入している。日産主導のコスト改善策により、三菱自の業績はV字回復基調を示している。この流れに拍車をかけて、基盤を固めようというのが今回の中計だ。

○台数で30%以上の成長、鍵を握る新商品の動向と地域戦略

中計全体のフレームワークとしては、2016年度と2019年度の比較でグローバル年間販売を92万6,000台から40%増の130万台、売上高を1兆9,066億円から30%増の2兆5,000億円へと引き上げるのが目標だ。営業利益率は0.3%(営業利益51億円)を6%以上(同1,500億円以上)とし、フリーキャッシュフローでは1,189億円の赤字を800億円の黒字に持っていくとしている。2016年度実績比ではあるが、V字回復後にかなりの成長を見込む戦略だ。

その戦略的施策として、「商品の刷新」と「中核市場への注力」で売り上げの成長を実現し、コストを最適化していくという。特に商品力については、三菱自がパイオニアであるSUV、日欧で販売トップのPHV、軽自動車EVも視野に入れる電動化技術などの強みをいかし、11車種のモデルチェンジ計画を打ち出した。

一方、ここ10年ほどは世界で100万台程度にとどまっていた販売台数を、2019年度には130万台へと増販させる目標に向けては、中核市場への注力で成長を目指していく。元々、三菱自が強いアセアン・オセアニアは「主力地域」、中国・北米は「注力地域」、日本は「回復地域」の位置づけだ。益子CEOは「3年間での新車投入を成功させないと、この中計が成立しない」とし、得意のPHVを主力に電動化も積極展開するとした。

●日産に綻び、三菱自でゴーン流再建の成否は
日産傘下入り後の三菱自による再建の方向は、同社の培った東南アジアでの強みをいかす戦略と、「i-MiEV」、軽自動車EV、SUV「アウトランダー」のPHVをベースとする電動車シフトの加速が主力となる。

○一時は世界に類を見ない総合自動車メーカーだった三菱

一方で、リコール隠しから燃費不正問題にまで及んだ、コンプライアンスが抜けた企業体質がどこから来たのか。この問題を見つめ直すことも重要だろう。三菱重工業からの分離独立が1970年。軽自動車から幅広い乗用車、軽トラから大型トラックまで抱えた、世界に類を見ない総合自動車メーカーとして、1990年代半ばまでには三菱グループも一目置く存在にまで成長したのが三菱自だ。一時は、親会社の三菱重工の業績を抜き、ホンダとの買収・合併話が浮上したり、「日産の背中が見えた」と豪語する社長も出たりした経緯を筆者は見てきた。

ルノー・日産連合という国際アライアンスに三菱自が加わったことで、3社連合を率いるゴーン氏による世界覇権も夢ではなくなった。今回の三菱自の中計でも、東南アジア市場とPHVという三菱自の強みについては、ゴーン氏も日産には無いものとして期待を寄せていることだろう。

○アライアンスの屋台骨が揺らぐ中で

だが、皮肉にも3社連合の中核である日産で無資格検査問題が発覚し、コンプライアンスを問われる問題が尾を引きそうな状況となった。この問題については、ある意味でゴーン長期政権の歪みの現れではと指摘する声も上がっている。三菱自の益子CEOは、「今回の件でアライアンスに影響はない」と言うが、三菱自の社内ではダイムラー主導経営の過去もあって、日産主導による改革を進める中で、当の日産が不祥事を起こしたことについて様々な思いがあるだろう。

いずれにしても、日産傘下で再建に向かう三菱自にとって、過去の不祥事での経験をいかし、「自律」した企業として成長していく流れを示せるか、三菱自なりの信頼回復への道を進めるこの3カ年中計は、何よりも重要なのだ。(佃義夫)
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