クルマの将来像は? 清水和夫が見た「フランクフルトモーターショー」

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2019年07月23日 12:32  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
●圧倒的な世界観を示したダイムラー
“電気一色”という感じだった今年の「フランクフルト国際自動車ショー」(IAA:Internationale Automobil-Ausstellung)だが、モビリティ社会の未来を描いたダイムラーの発表など、他にも見所は多かったようだ。モータージャーナリストの清水和夫氏からリポートが届いたので、お伝えしたい。

○カンファレンスは電気一色、ブースの中身は…

まず全体の印象だが、今年のカンファレンスは電気一色だったものの、ブース内を見るとディーゼルを含む内燃機関を持つ車両や関連する要素技術が充実していた。政策や世論をにらみつつ、足元のビジネスを堅実に進めていく各社の方針が見て取れる。

ショーそのものはダウンサイジングしている印象。ダイムラーとBMWはおおむね最盛期と変わらないが、フォルクスワーゲン(VW)には目新しさがなく、日産自動車、三菱自動車、GM、フィアットなどの不在は寂しい限りだった。プレスデーは欧米人が少なく、その反動で日本人が目立つ格好となっていた。

○モビリティ社会の行方を示したダイムラー

圧倒的な世界観を示していたのはダイムラーだ。元来、ダイムラーはコンセプチュアルなプレゼンテーションを得意とするが、今回はSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)とのコラボイベントを控えている影響か、全体にカジュアルで若々しい雰囲気だった。

ステージに上がったディーター・ツェッチェ会長はストライプのシャツにノーネクタイ。インディゴブルーのジャケットはボタンも留めていない。最近はさまざまな公の場で、このスタイルを通している。

舞台演出もミュージシャンのライブ演奏や若手演者のミュージカル調寸劇など、躍動感にあふれていた。なかでも興味深かったのは、「smart」を中心に据えたモビリティ社会の未来図である。

●「smart」で見せた未来のモビリティ
○完全自動運転×カーシェアリングの世界が到来?

描かれたのはそう遠くない近未来。完全自動運転のsmartがシェアカーとして活躍している。ベースになっているのはカーシェアサービス「Car2Go」。Car2Goは2008年からテスト運用を開始し、すでに10年近い実績を持つサービスだ。2017年6月現在、ドイツや中国などの26都市で展開しており、ユーザー数4万2,000人超は世界最大とされる。

近未来のCar2Goで使用する車両は『smart vision EQ fortwo』。昨年のパリショーで発表したEVブランドの「EQ」シリーズに属するEV(電気自動車)コンセプトである。

ユーザーはスマートフォンのアプリを使ってシェアカーを呼び出す。無人走行中のsmartはフロントグリルに位置するパネルに「ON MY WAY」と表示されているが、目的地周辺に近づくと「Hey Kate」に切り替わる。人間のドライバーがお迎えに来たように、クルマが「やあ、ケイト」と呼びかけるのだ。

親しみやすいインターフェースの後ろ側では、しっかりとシステムが動いている。車両の位置情報やユーザーの履歴などから需要を予測し、スムースに配車できるように体制を整えておく。まさに、「CASE」コンセプトそのものの世界だ。ちなみにCASEとは、Connected(コネクテッドカー)、Autonomous(クルマの自動化)、Shared & Services(カーシェアリングなどのサービス)、Electric(クルマの電動化)の頭文字をとったダイムラーの中・長期戦略だ。

○ライドシェアの在り方も提示

デモではライドシェアも提案した。青年デビッドがスマートフォンを操作すると、対象車両として、先ほどのケイトの情報が表示される。デビッドとケイトの双方がOKすれば、車両はデビッドのもとに行き、彼をピックアップする。今回は設定が若い男女だけにややロマンチックな展開に思えなくもないが、見方を変えれば、相手の情報が事前に分かるのだから、望まない相手とは相乗りにならないようにガードすることも可能ということだ。

また、車体側面はほぼ全面がモニタなので、利用可能なら緑色、NGなら赤色など、ステータスを示すことができる。あるいは街頭ビジョンのようにサッカーの試合結果や天気予報などを表示させても良い。多くの人々が行きかう都市空間において、車両の存在意義は移動手段だけではないことを示した。

●電気一色であってEV一色ではない
○ドイツ三大メーカーは“電動化”に積極姿勢

ショーではドイツ三大メーカーがいずれもEV導入や電動化の目標を発表した。

・メルセデス:2019年から「EQ」市販化、2022年までに全モデルを電動化
(smart:2020年までに北米と欧州で発売する車両を全てEV化)

・VW:2025年までに新規EVモデル投入、2030年までに全300モデルを電動化

・BMW:2025年までに25のモデルを電動化、そのうち12モデルがEV

この背景には、メルケル首相の“脱エンジン宣言”などの政治的駆け引きや、ディーゼル問題に対する世論などがあるわけだが、各社に共通しているのは電動化(電動パワートレーンの採用)がメインであるということ。EV導入についても語ってはいるが、それは一部に過ぎない。言い換えれば、少なくとも2030年までは内燃機関を搭載した車両を発売する予定があるということだ。どんどんEVを普及させようということではない。

○パワートレインにとどまらない電化の流れ

しかし、電化(電装化、電動化、電脳化)は確実に進む。少し前までは「こんな電装品があったら便利」「これが電動化できれば効率的」といった具合に単品ばら売りだったが、個々の技術の発展と電脳化の進展により、新たな価値の創造が可能になった。それは運転支援や自動走行のシステムとして結実しつつある。この先、電化の流れが止まる理由はもはや見当たらない。

数年前までコンセプトモデルの価値は「1キロ走行あたりCO2排出量〇グラム」という数字で語られてきた。現在も、電化を語る際にCO2排出量削減や環境対応といった文言は出てくるし、EU域内で販売する乗用車の平均CO2排出量は2021年までに1キロあたり95グラム以下にしなければならないという規制もある。しかし、会場ではCO2削減を自慢する表示が格段に減った。むしろ、車体に「CO2〇g/km」のステッカーを張っていたVWが旧型モデルに見えたくらいだ。(清水和夫)
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