日産が新型「リーフ」発売、2代目で目指す“売れる”電気自動車

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2019年07月23日 12:32  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
●航続距離は初代に比べ倍増、価格は315万円から
日産自動車が電気自動車(EV)の「リーフ」をフルモデルチェンジして発売する。現行の初代リーフは、早い段階で登場したEVとしてほぼ未開拓の市場に挑んだモデルだが、航続距離に対する不安や価格などがネックとなり、日産の狙い通りには販売台数が伸びなかった。新型は売れるEVに進化できるか。幕張メッセで行われた新型リーフのワールドプレミアに登壇した日産首脳陣のコメントもあわせてお伝えしたい。

○先代は日本で年間1万台ペースの販売

「初代リーフの発売以来、EVの世界を創ってきた先駆者としての自負がある。世界が本格的なEVの時代に動き出す今、技術の日産の粋を詰め込んだ新型リーフを届けられることは素晴らしいチャンスだ。(先駆者としての役割を担った旧型から)リーフは進化し、今後の日産のコアとなる実力を持った商品となった」。ワールドプレミアで日産の西川廣人社長は、新型リーフの出来栄えに自信を示した。

初代リーフの発売は2010年12月。世界累計で30万台近い販売実績を持ち、日本市場では年間1万台ペースで売れて累計8万台となっているが、日産は報道陣向けに行った8月の新型リーフ事前説明会で、初代リーフの販売台数が当初の想定通りには伸びなかったことを率直に認めていた。

台数が伸びなかった要因として日産は、顧客が価格、充電インフラの少なさ、充電時間の長さ、航続距離の4点に不安を持ったからだと分析。これらの課題を踏まえて開発し、満を持して市場に投入するのが今回の新型リーフだ。

●初代リーフで浮上した課題に対応
○航続距離の不安は解消?

新型リーフには「S」「X」「G」の3つのグレードがあり、価格は税込みで315万360円から399万600円まで。日本では2017年10月2日に発売し、米国では12月、欧州では来年1月の市場投入を予定する。リチウムイオンバッテリーは体積(サイズ)を据え置きつつ、容量を現行モデルの30kWhから40kWhへと拡大。これにより、リーフの航続距離は280キロから400キロへと伸びる。

24kWhのバッテリーを積んで登場した初代リーフと比べると、新型の航続距離は2倍だ。日産で日本事業を担当する星野朝子専務によると、日本の一般的なドライバーであれば、週に一度の充電で十分というバッテリー容量に仕上がっているという。

ここ数年でEVの充電環境も充実してきている。日産によると、日本には2017年3月末時点で7108基の急速充電器(QC)があり、普通充電器と合わせた数は2万8260基となる。初代リーフ登場時はQCが360基しかなかったというから、EVの乗りやすさは格段に向上しているはずだ。

高速道路網でのQC整備も進みつつある。現状、サービスエリア(SA)/パーキングエリア(PA)の40%以上でQCの導入が済んでおり、その割合はガソリンスタンドの約25%よりも高い。高速のQC設置間隔は平均40キロとのことなので、早めの充電を心掛けていれば、高速道路の真ん中でバッテリー切れという事態に陥らなくても済みそうだ。

新型リーフの充電時間を見ると、急速充電で80%まで充電するのに要する時間は40分とのこと。容量が増えたため、24kWhバッテリーのリーフと比べると80%充電に要する時間は10分伸びているが、当然ながら80%充電で走れる距離は新型の方が上だ。ただし、ガソリンの給油と比べれば充電時間が長いという点は変わっていないので、SA/PAなど、QCが限られている状況で、複数のEVが充電を待って並ぶという状況は、今のところ避けるすべがないようだ。あるいは、一気にEVが普及すれば、そういうシーンに遭遇する確率は高まる可能性もあるだろう。

EV普及を阻む課題を洗い出し、それに対応することでリーフの販売を加速させようとする日産。それでは、エンジンで走る一般的なクルマに乗るユーザーに対し、日産はリーフの強みや特徴をどのように伝えようとしているのだろうか。

●「未体験の走り」と「未来の運転」が売り
日産は、新型リーフで訴求しようとする2つのポイントを「未体験の驚きの走り」と「未来の運転でワクワクを」という言葉で表現している。

○EVならではの走りが特徴、静かさは欧州プレミアムセダン並み

「未体験の驚きの走り」とは、EVならではの加速感や静粛性などを表現する言葉だ。アクセルペダルを踏むとレスポンスよく走り出すのがEVの特徴だが、日産は新型リーフでモーター制御の要となる「高出力インバーター」を刷新し、出力を80kWから110kWへと引き上げることで加速性能の向上を図った。高速道路の合流や追い越しなどで用いる、時速60〜100キロの中間加速は比較的苦手としてきた部分だが、新型リーフでは中間加速の加速時間を現行比で30%短縮できたという。

モーターで走るEVは静粛性も強みだ。日産の比較によると、新型リーフの静かさは欧州プレミアムブランドのセダン並みだという。

モーター駆動ならではの特徴的な走りとして、日産が訴求するのが「e-Pedal」だ。これはモーターによる回生と油圧ブレーキの2つを用いてクルマの減速を制御する技術。この技術により新型リーフでは、アクセルペダルのオン/オフだけで、ほとんどの運転シーンに対応することができるそうだ。

日産の調べでは、e-Pedalの搭載により、ブレーキペダル踏み変え回数は同機能がないクルマに比べ9割も減るという。アクセルペダルから足を離していれば、ブレーキペダルを踏まなくても停止保持が可能なので、信号待ちなどのシーンでは足が楽そうだと感じた。

○プロパイロットで未来の運転を表現、駐車も自動に

リーフの「未来の運転」を象徴するのが、同モデルで初搭載となる日産の技術「プロパイロット」だ。これは高速道路で速度維持、先行車両の追従、レーンキープなどをアシストする技術(詳細はこちら)で、「セレナ」「エクストレイル」に次ぐ3台目の採用となる。同技術を日産は「同一車線自動運転技術」と表現する。

そして、日産車として新型リーフで初採用となるのが自動駐車技術「プロパイロット パーキング」だ。この機能を使えば、駐車する場所をリーフに指示し、ボタンを押し続けるだけで、クルマがステアリング、アクセル・ブレーキ、切り返し時のシフトチェンジを自動で行ってくれる。駐車完了時には「P」レンジにシフトを入れ、パーキングブレーキまで自動で作動させてくれるので、駐車の一連の操作は全て、クルマに任せられるということになる。

こういった機能を実現するためのシステムとして、新型リーフはフロント、両サイド、リアに計4つのカメラを装備している。ソナーはフロント、リア、サイドに各4つずつを備える。

クルマの電動化と知能化を技術開発の2本柱に据える日産としては、その双方を体現する新型リーフを大いに売っていきたいところ。星野専務は日本市場で年間1万台ペースだった販売を「少なくとも2倍」とする意向で、「3倍も可能」との見方を示した。

それでは、新型リーフが乗り出すEV市場は現在、どのような状況なのだろうか。

●EVシフトが顕在化、テスラ「モデル3」とも競合?
○EVシフトといわれる時代、リーフには追い風か

初代リーフが登場した2010年末と現在では、EVを取り巻く市場環境が大きく変化している。この間、EVメーカーの米テスラが存在感を急速に増してきているし、トヨタ自動車やフォルクスワーゲンなどの巨大メーカーや、BMWやメルセデス・ベンツといったようなプレミアムカー勢力も、電動化には積極的な姿勢を示すようになった。

最近では、英国政府とフランス政府が内燃機関だけで走るクルマの販売を将来的に禁止すると発表して話題となった。このように、自動車業界では世界的に「EVシフト」の流れが顕在化してきている。

EVシフトにより、EVに乗りやすい社会になるのは新型リーフにとって追い風と言えるが、競合が増えれば販売環境の厳しさも増す。特に今は、テスラが同社初となる量販車「モデル3」を発売する直前というタイミング。日産もリーフの事前説明会で、テスラ車のスペックやデザインを意識して開発を進めたと認めていた。

リーフとモデル3では車格も商品性も違うので、購入検討者が各自の嗜好やユースケースに応じてクルマを選ぶことになるのは当然だが、少なくともモデル3の登場により、「安いからテスラではなく日産を選ぶ」というEVの買い方は、成り立たなくなるのではないだろうか。なぜなら、モデル3の車両本体価格は3万5000ドルからの予定となっており、新型リーフとの価格差に圧倒的な開きはなくなりそうな情勢だからだ。

○バッテリー起因の事故ゼロ、信頼性で差別化

さまざまなメーカーがEV開発に参入することで、今後は特色ある多くのEVが市場に登場しそうだ。例えばEVのスポーツカーやSUV、ラグジュアリーカーなども登場し、車種の幅も拡がっていくだろう。つまり今後は、単にEVであるだけでは個性を示しにくい環境になっていく。

日産のダニエレ・スキラッチ副社長は、初代リーフが世界で累計35億キロを走行しているにも関わらず、これまでバッテリーに起因する事故が起きていないことを引き合いに出し、信頼性の高さが他社との差別化ポイントになると主張する。日産は「新しいものが好き」(星野専務)な消費者に新型リーフの先進性をアピールし、販売台数を伸ばしていく構え。「EVのリーダー」を目指すと常々語る日産にとって、このクルマを“売れるEV”にできるかどうかが重要な試金石となることは間違いない。(藤田真吾)
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