なぜ「メルセデスAMG」は日本で受けるのか

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2019年07月23日 12:32  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
●日本で46車種を展開、昨年は5000台以上を販売
メルセデス・ベンツ日本は8月、高性能ブランド「メルセデスAMG」が50周年を迎えたのを記念し、新型AMGモデル6車種を一挙に発表した。昨年日本で売れたAMGは5608台。最低でも700万円以上、最高では3000万円を超えるという高価格車がなぜ売れるのか。その理由を考えた。

今回の発表会は、今年1月に東京都世田谷区にオープンしたメルセデスAMG(以下、AMG)専売拠点で行われた。メルセデスがAMG専門店を構えるのはこれが世界で初めてだ。

発表されたのは「GT ロードスター」「GT C ロードスター」「E 63 4MATIC+」「E 63 S 4MATIC+ Edition1(期間限定車)」「E 63 4MATIC+ ステーションワゴン」「E 63 S 4MATIC+ ステーションワゴン」の6車種。これで日本でのAMGラインナップは46車種になったという。

○スパ24時間で名を上げたAMG

今ではダイムラー・グループの高性能ブランドとして多くのクルマ好きに知られているAMG。しかし、今からちょうど50年前の1967年、アウフレヒトとメルヒャーがグローザスバッハという街で始めた頃は独立したエンジニアリングスタジオだった。気づいた方もいるだろうが、AMGの3文字は創立者の両名と本拠地の都市名の頭文字である。

その名が有名になったのは1971年。「ツーリングカーのル・マン」と呼ばれるスパ・フランコルシャン24時間耐久レースで、彼らが手掛けたエンジンを載せたメルセデスのセダンが、初出場にもかかわらずクラス優勝を果たした。

1990年にはダイムラーと協定を締結し、彼らが手掛けた高性能車はメルセデスのラインナップに組み込まれることになる。そして2009年、AMGはダイムラーの完全子会社となり、完全自社開発のスポーツカーを生み出すとともに、F1活動も引き継ぐことになり、2014年から3年連続でコンストラクターズチャンピオンを獲得している。

○BMW「M」シリーズとの違いは

AMGのライバルとしてもっともよく名前が挙がるのが、同じドイツのプレミアムブランド、BMWの「M」シリーズだ。こちらもまたモータースポーツ活動を源流としており、BMW量産車をベースとした高性能ブランドとして有名である。

しかし、AMGとMにはいくつかの違いがある。ひとつは歴史だ。Mのルーツは1978年に発表されたスーパーカー「M1」で、AMGより歴史は浅い。ただしMは当初からBMWのグループ内組織であり、この点で見ればAMGよりキャリアが長いということになる。

●入りやすさと分かりやすさ
○オールラウンド性とサウンドも支持拡大の要因

もうひとつの違いはオールラウンド性だ。Mは1990年代になるまでマニュアルトランスミッション(MT)のみだったのに対し、AMGは当初からオートマティックトランスミッション(AT)を中心としていた。

いまや日本市場ではメルセデスもBMWもATがメインだが、昔は安全快適な実用車のメルセデスに対しBMWはスポーツセダンと、色分けがはっきりしていた。その違いが高性能ブランドにも反映していたと言える。おかげでAMGは、早くからイージードライブを取り入れることで、より幅広い層を取り込むことに成功していたのだ。

エンジン音や排気音についても同じことが言える。かつてのMはBMWのアイデンティティでもあった直列6気筒を積む車種が多く、滑らかで緻密なサウンドが魅力だった。一方のAMGは、アメリカ車にも多く積まれてきた大排気量V型8気筒搭載車が多く、迫力のある重低音でアピールした。

クルマ好きはMのサウンドを心地良いと評価する人が多い。筆者もその1人で、高性能車にとって音は大切だから、どちらか選べと言われたらMを取る。でも、その他大勢の人にとってはAMGの問答無用の迫力のほうが分かりやすかった。これも支持拡大に役立ったのではないかと思っている。

○民主化の道をたどったAMGにも一理あり

入りやすさと分かりやすさ。これはマーケティングでは重要だ。例えばスポーツカーの世界では、同じドイツのポルシェ「911」が根強い支持を受けているけれど、それは技術やデザインそのものが評価されているだけでなく、スポーツカーとしては車高が高めで室内が広いことによる使いやすさと、多くのクルマが諦めたリアエンジンという方式を堅持していることが効いているのだ。

もうひとつ、AMGの成長にはバリエーションも関係している。BMWのMが3リッター6気筒以上のエンジンを縦置きした車種に限っているのに対し、AMGは2リッター直列4気筒エンジンを横置きしたAクラスにも設定している。それが最初に紹介した46車種という数字につながっている。一方のMは10車種に満たない。

たしかにMの思想のほうがピュアであり、AMGの民主化を残念がる声もある。でもその結果、知名度がアップし、販売台数を稼いでいるのだから、これもひとつの正義だろう。

●電動化の波にどう対応する?
○AMGは自動車業界のトレンドに対応できるか

しかし、今後も未来永劫AMGが成長していくのかと言われたら、個人的には断定しかねる。理由は現在の自動車業界を席巻している自動化や電動化の流れにどう対応していくかが課題になってくるからだ。

自動化については問題ないだろう。前述したようにAMGは、トランスミッションについてはライバルに先駆けて自動化を推進してきた立場なのだから。多くのユーザーはイージードライブの流れを肯定しているはずであり、メルセデスが考えている自動化の流れをAMGが取り込むことに違和感はないと考えている。つまり最大の問題は電動化ということになる。

フランスやイギリスが2040年までにエンジン車の販売を禁止するという衝撃の発表があり、インドや中国も電動化推進のアナウンスを行っている。仏英中は現時点でAMGの販売成績を相応に記録している市場であり、インドでは今後の伸びが期待される。

筆者は電動化政策は都市と地方で分けて考えるべきという立場だが、新興国にとっては自国のベンチャーを育てるチャンスであり、イギリスには自国資本の量産車メーカーがなく、フランスは電力の多くを原子力発電所でまかなうという状況を見れば、戦略としての彼らの表明には納得できる部分もある。

○高出力ガソリン車が魅力、電動化への答えは

ドイツや日本にとって自動車は基幹産業であり、その核であり続けてきたのがエンジンだった。だから両国のメーカーは、しばらくはエンジン開発も進めていくと思われるが、作っても売る場所が限られてしまっては旨味が少ないのも事実である。

1月に開催された北米国際自動車ショー(通称:デトロイトショー)でAMGは、F1エンジンを搭載したコンセプトカー「プロジェクトワン」を発表した。その一方で、メルセデスは来年から電動F1と言えるフォーミュラEへの参戦を明らかにしている。この分野でも電動化の流れがあることは、メルセデス自らが認めていることになる。

高出力のガソリンエンジン車を魅力のひとつに掲げてきたAMGが、電動化の波にどう対峙するのか。興味を持って見守りたい。(森口将之)

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