マツダが技術開発の長期ビジョン発表、エンジン中心に適材適所で勝負

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2019年07月23日 12:32  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
●構造改革ステージ1は成功、今後の方向性は
マツダは技術開発の長期ビジョン「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言2030」を発表した。クルマの電動化と知能化が業界のトレンドとなっている中、マツダが打ち出すのは内燃機関(エンジン)を中心に電動化技術を組み合わせ、国、地域、顧客に合わせた商品を展開する「適材適所」の戦略。新たな武器となるのは、マツダが世界で初めて実用化する“新種”のエンジン「SKYACTIV-X」だ。

○“走る歓び”を軸に解決を図る3つの課題

マツダは2002年にブランドメッセージ「Zoom-Zoom」(英語で「ブーブー」を意味する子供言葉で、走る歓びを追求するマツダの企業姿勢を表現する)を導入し、2007年には技術開発の長期ビジョン「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言」を発表。実用域における燃費・環境性能や運動性能にこだわった「SKYACTIV技術」によるクルマづくりとデザインテーマ「魂動」により、特徴的なクルマを作るメーカーとして独自の立ち位置を確立した。

SKYACTIV技術と魂動デザインを採用した新世代商品の発売とともに、マツダは構造改革に着手。マツダの販売台数は2012年度の123.5万台が2016年度には155.9万台まで増加した。技術開発長期ビジョン説明会に登壇したマツダの小飼社長は、これまでの流れを振り返り「構造改革第1ステージは成功した」と手応えを口にした。

このような状況のマツダが、激動の自動車業界で継続的に成長していくために策定したのが、8月8日に発表となった新たな技術開発の長期ビジョンだ。小飼社長は同社が目指す方向性として、「クルマの持つ魅力である“走る歓び”」により、「地球」「社会」「人」のそれぞれの課題解決に向けたチャレンジを進めていくと語る。では、マツダが解決しようとする課題とはいかなるもので、そのために同社はどんな技術を開発しようとするのだろうか。まずは「地球」の課題について見ていきたい。

●環境対策には内燃機関の進化で対応
○CO2削減をクルマのライフサイクルで考えるマツダ

「地球」の課題とは、地球温暖化や大気汚染といった環境問題を指す。中でもCO2削減は、自動車業界にとって重要なテーマだ。

一部の自動車メーカーは電気自動車(EV)シフトを明確に打ち出しており、欧州では政府主導で内燃機関を搭載するクルマの新車販売を禁ずる動きが相次いでいるが、マツダは「実質的なCO2削減に取り組む必要がある」(小飼社長)とし、今後も長期にわたりクルマの主な駆動装置であり続けるであろう内燃機関の効率化に磨きをかけていく方針だ。

実質的なCO2削減に向け、マツダが大切にするのが「Well-to-Wheel」(燃料採掘から車両走行まで)の視点。これは、クルマが走行時に排出するCO2だけでなく、クルマの燃料が作られる過程で発生するCO2も含め、全体でいかに削減していくかが重要という考え方だ。EVは確かにCO2を排出しないが、その燃料(電力)の作られ方(発電方法)によっては、結果的にCO2の大幅な削減につなげられないのでは、というのがWell-to-Wheelで問われる論点となる。

マツダはWell-to-Wheelで見た場合のCO2削減を具体的な目標として打ち出す。2050年で企業平均CO2を2010年比90%削減するため、2030年には同50%の削減を目指すという。この目標の実現に向けては、「各地域における自動車のパワーソースの適性、エネルギー事情や電力の発電構成を踏まえ、適材適所の対応が可能なマルチソリューションが必要」(小飼社長)というのがマツダの考え。では、同社が提供するマルチソリューションとは、具体的にどんなものなのだろうか。

○エンジン中心に地域・顧客に合わせた商品展開

マツダは内燃機関に磨きをかける方針を打ち出すが、EVを含むクルマの電動化に取り組まないかといえばそうではない。それらをうまく組み合わせて、適材適所で提供していく考えなのだ。例えば、電力が全て再生可能エネルギーなどでまかなわれている地域にはEVを投入する。そうでない地域では、燃費を高めたエンジンを積むクルマや、エンジンと電動化技術を組み合わせたマイルドハイブリッドのクルマを販売する。

このように、さまざまな駆動装置を持つクルマをミックスして販売していく方針のマツダだが、最も重視しているのは、今後も世界の大多数のクルマを動かし続けるであろう内燃機関の性能向上だ。同社の研究・開発を統括する藤原清志専務は長期ビジョン説明会において、「内燃機関の徹底的な理想追及が基本であり、今後も重要と考える」と明言。この方向性を形にしたのが、マツダが2019年に商品化する次世代ガソリンエンジン「SKYACTIV-X」だ。

●究極のガソリンエンジン? SKYACTIV-Xとは何か
○ガソリンとディーゼルの利点を組み合わせた新エンジン

マツダはSKYACTIV技術で作ったガソリンエンジン(SKYACTIV-G)とディーゼルエンジン(SKYACTIV-D)の性能向上に継続的に取り組みつつ、両エンジンの良いところを組み合わせた新しいエンジン「SKYACTIV-X」を商品化する。「X」にはガソリンとディーゼルのクロスオーバーという意味を込める。このエンジンでマツダは、ガソリンと空気の混合気をピストンの圧縮によって自己着火させる燃焼技術「圧縮着火」を世界で初めて実用化する。

藤原専務によると、SKYACTIV-Xの特徴は「優れた環境性能と出力・動力性能を妥協なく両立」させた点にあるという。試作車では排気量1.5リッターのディーゼルエンジンを搭載した「デミオ」と同等のCO2排出量でありながら、2.0リッターのガソリンエンジンを積んだ「ロードスター」並みの加速感を実現できているそう。藤原専務は仕上がりに手応えを感じているという。

○多様なクルマを顧客に合わせて用意

長期にわたりクルマの主要な駆動装置であり続ける内燃機関の効率化に注力しつつ、地域や顧客によっては電動化技術を組み合わせていく。電動化もマイルドハイブリッドからピュアEVまでを取りそろえ、EVにはマツダの代名詞「ロータリーエンジン」を活用したレンジエクステンダー(発電用のエンジン)搭載バージョンも用意する。これが、適材適所を目指すマツダ流のマルチソリューションだ。

環境問題への対応として、急速な電動化を掲げる自動車メーカーが世界的に増えている印象だが、マツダの提示する解決策は現実的な感じのするものだった。実際問題として、これからクルマが爆発的に増えるのは新興国だと考えられるが、そういった国で、電気や水素といった新たな燃料をクルマに供給するインフラが、一朝一夕に整うとも思えない。それであれば、まずは実際に道路を走るクルマの燃費を磨くべきというのがマツダの考えなのだろう。

では次に、マツダが解決を目指す「社会」の課題とはどのようなものだろうか。

●自動運転も独自路線、運転する楽しみとの両立を目指して
○社会の問題には安全技術で対応、独特な自動運転技術も投入

マツダが「社会」の課題というのは、交通事故原因の多様化や、過疎地で顕在化する公共交通機関の弱体化、いわゆる「交通弱者」の問題などだ。

事故のないクルマ社会を実現するため、マツダではクルマを作るに際し、ドライビングポジション、ペダルレイアウト、視界視認性、アクティブ・ドライビング・ディスプレイなどの基本安全技術を進化させ、全車標準装備化を進める。安全の観点では、マツダ流の自動運転技術である「Mazda Co-Pilot Concept」を2025年に標準化する方針も示した。

マツダの自動運転は、基本的に人間がクルマを運転し、緊急時にシステムが運転を「オーバーライド」(小飼社長)するのが特徴。ドライバーがミスをしたり、急に体調を崩したりした時に、クルマのシステムが運転を代行するイメージだ。こういった自動運転の在り方にも、「走る歓び」を重要視するマツダの企業姿勢が見てとれる。以前、弊紙で行った藤原専務のインタビューでは、自動運転の実用化で交通弱者に移動手段を提供する構想も示された。

○「人」の課題には走りの作り込みで対応

最後に、マツダが解決を目指す「人」の課題とは、いかなるものだろうか。小飼社長は「社会で生活する人々は、機械化や自動化により経済的な豊かさの恩恵を受けているが、一方で、日々体を動かさないことや、人や社会との直接的な関わりが希薄になることで、ストレスが増加していると考える」とし、この課題を解決するため、「より多くの顧客にクルマを運転する『走る歓び』を感じてもらう」ことを目指すとした。

この課題を解決するため、マツダは強みとする「人馬一体」感を今後も研ぎ澄ませていく考えだという。人馬一体やクルマを「意のままに操る」ことは、マツダがかねてから追求してきたテーマ。この領域でも新エンジンが力を発揮するかもしれないし、マイルドハイブリッドのような電動化技術がもたらす加速感が、マツダ車の魅力を高める新たな味となる可能性もあるだろう。

●中長期的に内燃機関の時代は続く? マツダが示した現実路線のビジョン
○内燃機関に注力は現実路線か

マツダが「地球」「社会」「人」の3つのテーマで設定した課題を解決すべく策定した新たな技術開発の長期ビジョン。説明会に出席した印象では、マツダは「地球」の部分に多くの時間を割いていたようだった。クルマの電動化が加速する業界にありながら、内燃機関のブラッシュアップに注力する姿勢を打ち出すことについて、より深い理解を求めたいというのがマツダの思いなのだろう。

フランスと英国で、2040年までに内燃機関を積む新車の販売を禁止するという政府の方針が示されたこともあり、世界的にクルマの電動化が進んでいく見通しが強まっているようだが、実際のところ、EV全盛時代がいつ訪れるかは誰にも分からない。マツダの長期ビジョンは2030年を見越したものであり、次の長期ビジョンが策定される頃には、クルマの電動化が実際にどのようなスピード感で進むのかについて、今よりも明確に答えが出ているだろう。

説明会で示された予測の通り、2035年時点で地球上を走行する84%のクルマが何らかの形で内燃機関を積んでいるとすれば、その内燃機関を磨き上げるというマツダの戦略は、自動車メーカーが現時点で打ち出すことができるビジョンとして、1つの現実的な路線を示したものといえそうだ。(藤田真吾)
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