トヨタとマツダが資本提携に踏み込んだ事情と両社の思惑

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2019年07月23日 12:32  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
●時間の問題だったトヨタとマツダの資本提携
トヨタ自動車とマツダは8月4日に資本提携を発表した。これは両社の従来の包括業務提携を発展させて資本提携に踏み込んだもの。10月にトヨタがマツダに500億円で5.05%を出資し、マツダもトヨタに同額で0.25%を出資する。

○激変の自動車業界、生き残りで両社が一致

この資本提携にともない、両社は共同で米国に16億ドル(約1770億円)を投じ、合弁で新工場を建設する。このほか、電気自動車(EV)の共同技術開発、コネクティッド(つながる)技術の共同開発、先進安全分野における技術連携、商品補完の拡充を推進していくことで合意した。

トヨタとマツダは2年前の2015年5月に包括提携しており、この間、両社で資本提携を含めた協業化の検討を進めてきた。すでに両社の間では、トヨタがマツダにハイブリッド技術を供与したり、マツダがメキシコ工場で生産したデミオを米国でトヨタにOEM供給したりするなど、協力関係は深まっていた。

資本提携に踏み込んでの協業化は、自動運転や電動化など、自動車メーカーを取り巻く環境の劇的変化を受けて、生き残りを目指す方向で両社が一致したということだろう。

○IT企業の参入に危機感

トヨタは「グーグル、アップル、アマゾンという新しいプレイヤーが現われ、前例なき闘いだ」という豊田社長の発言からも分かる通り、IT企業がモビリティ産業に参入することに強い危機感を持つ。「マツダという同志を得た」(トヨタの寺師茂樹副社長)というように、大きな枠でのトヨタグループ化で対抗していく構えだ。

マツダとしても、かつての米フォードとの資本提携関係が終焉した後、独自の開発や「ものづくり革新」を進めてきたが、将来にわたって各種先進技術への対応を図り、「マツダブランドを続けて生き残って行くため」(小飼社長)に、トヨタとの資本提携による協業化を明確にしたのだろう。

いずれにしても、トヨタとマツダの資本提携は、2年前の業務提携からある意味で時間の問題だったと見ているが、トランプ政権誕生による北米貿易協定(NAFTA)問題や、先進技術を巡る環境・安全対応の急激な変化が両社間の検討を急がせる要因となり、今回の合意発表に至ったのであろう。

●相互出資による資本提携に至ったのはなぜか
○さながら日本車連合の様相を呈するトヨタ周辺

資本提携発表の記者会見は、2年前の両社包括提携発表会見と同じ東京都内のホテルで行われた。今回は、豊田社長と小飼社長の両社長会見に続き、トヨタから寺師副社長、マツダから丸本明副社長が登壇し、両副社長による会見が行われたのも異例のことだった。

トヨタとマツダの両副社長は参謀役であり、両社の業務提携では具体策検討のまとめ役でもあった。それだけに、今回の資本提携に至る両社の協業化については、この2年間、水面下でじっくりと、かつ取り巻く経営環境の変化を睨んでの検討を進めてきたのであろう。それが今回、両社の第1四半期決算発表を終えたところでの資本提携となった。

トヨタ・マツダの資本提携は、トヨタがマツダに500億円で5.05%を出資する一方、マツダもトヨタに同額で0.25%出資するという、両社が株式を持ち合う形になることが注目された。これまで、トヨタの資本提携はトヨタからの出資がメインだったので、株式の持ち合いは異例だ。

トヨタは昨年夏にダイハツ工業を100%完全子会社化したほか、日野自動車に50.1%、スバルに16.7%、いすゞ自動車に5.8%を出資している。昨年秋には、スズキとの業務提携に関する発表も行った。これによりトヨタグループには、ダイハツ・日野の連結グループ企業と、スバル、いすゞ、マツダ、スズキが加わり、さながら日本連合の様相を呈している。

○相互出資に至った背景に米国工場

なぜ、マツダとは相互出資による資本提携としたのか。「自主独立性を尊重し、切磋琢磨しながら持続性のある協調関係にする。だから資本を持つ形をとった」(豊田社長)と会見で答えたが、相互出資が決まった理由として大きいのは、米国における合弁工場の建設だろう。

トヨタとマツダは、米国に両社折半出資で年産30万台規模の合弁会社を設立し、2021年の稼働開始を目指していく。投資総額は16億ドル前後で、雇用は4000人規模を想定する。つまり、相互出資で調達した資金を合弁新工場の投資資金に充てるということだ。

トヨタ、マツダともに、米国市場はグローバル戦略の要であり、特にマツダは北米の生産拠点としてメキシコ工場を持つが、米国生産(フォード合弁工場)からは撤退していた。力を入れるSUVの米国生産は、トヨタとの合弁工場で実現できることになる。新工場でトヨタは米国市場供給車種の集約を図り、将来的なEV生産も視野に入れる。

●圧倒的な研究開発費と仲間づくりで攻めるトヨタ
○EVにコモディティ化の懸念、“クルマの味付け”が共通の課題

トヨタはマツダとの合弁新工場により、北米生産の効率化と見直しを図ることになる。「トランプ米大統領の発言は全く関係ない」と豊田社長は発言したが、トランプ氏は早速「米国の製造業への素晴らしい投資だ」と評価した。NAFTAの今後の動向もあり、新工場建設の動きからは政治的な配慮も読み取れる。

米国での合弁工場が、トヨタとマツダが資本提携に踏み込む決め手になったのは間違いないが、電動化への大きなうねりや、自動運転やコネクティッドカー(つながるクルマ)を見越した技術連携の必要性が、両社による協業深化の方向性に拍車をかけた側面も見逃せない。

特にEVについては、「ブランドの味を出す挑戦」(豊田社長)であり、「走る喜びを感じられるEVをどう出すか」(小飼社長)との共通項をもって共同技術開発を進めていくことになる。

マツダは長らくフォードとの資本提携関係にあったが、提携解消後は「ものづくり革新」で設計や開発体制を一新し、独自の内燃機関進化によるスカイアクティブ(SKYACTIV TECHNOLOGY)商品群を拡充している。将来への成長投資として、研究開発費も今期は1400億円と前期の1269億円から増やしているが、トヨタが今期の研究開発費として1兆600億円を計上しているところから見ると、彼我の差は大きい。

多様な先進技術に対応していくには、単独で全てにおいて競争力を持つのは難しい。トヨタとの協業により、「小さくてもマツダブランドを極める」(小飼社長)ことで、マツダは独自性を磨いていけることになる。

○大枠のグループ拡大で攻めるトヨタ、気になるスズキの動き

トヨタはマツダとの資本提携発表会見に先立つ第1四半期の決算発表にて、今期の通期見通しを上方修正し、トヨタの競争力強化に向けた取組みとして「明日を生き抜く攻め」を強調した。トヨタのいう攻めとは、自動運転、AI、次世代環境車といった重点分野への研究開発シフトとM&Aを含む多様な技術力の確保だ。

マツダとの資本提携もトヨタによる攻めの戦略の一環であり、大きな枠でのトヨタグループ化を一気に進めようとする経営スタンスに変わってきているのだ。

その意味では、業務提携を水面下で検討しているトヨタとスズキの関係も、資本提携による将来的な協業化を通じた、生き残りへの方向に結びつきそうだ。今後はスズキの動向が注目されよう。(佃義夫)
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