日本は本当に遅れている? 英仏の「脱石油」で考える電気自動車の今後

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2019年07月23日 12:32  マイナビニュース

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●なぜ、仏英政府が相次いで「脱石油」政策を打ち出したのか
フランス政府が2040年までにガソリン車・ディーゼル車の販売を国内で止める方針を打ち出したのに次いで、英国政府が同様の方針を発表するなど、欧州発の「脱石油」と電気自動車(EV)シフトの流れが本格的に加速してきた。

もともと環境意識の高い欧州だが、なぜこの時期に仏・英政府が、23年後の2040年までと早い区切りを打ち出して「脱石油」に踏み切ったのか。

○この時期に脱石油を打ち出す背景は

両国に先んじて、ドイツでは2016年秋頃、2030年までにガソリン車などの販売を禁止するという決議が国会で採択されている。ドイツの決議は法制化に至っていないが、すでに欧州各国では、こういった機運が高まっていた。

今回の仏・英政府の動きは、2017年7月初旬にドイツのハンブルグで開催されたG20首脳会議に合わせて、「パリ協定」からの離脱を表明した米国のトランプ政権に対抗し、牽制する狙いがあるものと受け止められている。

また欧州では、燃費に優れ、二酸化炭素(CO2)の排出も少ないディーゼル車の利用が多いが、最近ではディーゼル車からの窒素酸化物(NOx)による大気汚染問題と、独フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正問題に続く独ダイムラーなどの疑惑もあり、こういった情勢もEVシフトを後押しする要因となっているようだ。

○欧州の主導権争いも絡む環境政策

一方で、英国のEU離脱に見られるように、欧州の中では主導権争いもあり、環境政策が国策としてアピールしやすいということも、昨今の電動化シフトの動きに絡んでいるようだ。

フランス政府は声明を出したものの、規制のスケジュールや内容には踏み込んでいない。一方の英国政府は、地方自治体による排ガス抑制策の支援に2億5500万ポンド(約370億円)の予算を用意し、大気汚染対策に合計で約30億ポンド(約4349億円)を投じる予定とする。

いずれにしても今回、仏・英政府が2040年までにガソリン車・ディーゼル車の販売を禁止する政策を打ち出したことで、この流れは欧州各国にも飛び火し、かつ世界的にも、内燃機関から電動車への転換時期が早まっていくことは間違いないだろう。

●世界の主要市場で進む電動車転換
○インド、中国、米国…主要市場で進む電動化への流れ

すでにアジアでも、2017年4月にインド政府が「2030年までに販売する車を全てEVにする」との目標を表明している。中国も国策としてEV優遇を鮮明にしており、近くニュー・エナジー・ビークル(NEV)規制を導入する。日本では、政府が2030年までに新車販売に占めるEV・プラグインハイブリッド車(PHV)の割合を5〜7割にするとの目標を掲げている。

トランプ大統領による「パリ協定離脱」の懸念はあるものの、米国ではカリフォルニア州のゼロ・エミッション・ビークル(ZEV)規制が、ニューヨークなど他の州にも波及している。このZEV規制は段階的に強化されており、2018年からはPHV、EV、燃料電池自動車(FCV)以外は規制され、より厳しいものとなる。米国では、国よりも州ごとの規制で電動車への転換を余儀なくされる流れにあるのだ。

ちなみに、ここでカリフォルニア州のZEV規制について説明しておくと、この規制では自動車メーカーに販売台数の一定比率以上を電動車両にするよう定めている。NEV規制はZEV規制の中国版ともいうべきものだ。

このように、世界の自動車市場はゼロ・エミッション化の方向に進みつつある。ただし、ガソリン・ディーゼルエンジンの内燃機関には100年の歴史があり、その進化も含めたハイブリッド車(HV)の技術革新から、家庭で充電可能なPHVが生まれ、そしてEV、FCVへという風に、実用化のステップを踏んでいくというのが従来の方向性だった。

つまり、ガソリンエンジン車とディーゼルエンジン車の双方で排ガスを減らす技術革新が進む一方で、実用的な電動車を商品化するための技術開発とコスト改善が進行していたのだ。

しかし、同じ電動車ではあるが、航続距離に課題があるEVに対し、FCVは水素充填インフラやコストに課題を抱えており、将来のゼロ・エミッション車の「本命」は、コストダウンや電池技術改革の動向とも相まって、確実な方向は不透明ともされてきた。

●ボルボが野心的な電化戦略を発表、独仏メーカーもEVに積極姿勢
今回のように、欧州で明確に期限を切った政府主導の内燃機関転換策が進んでくると、自動車各社も対応を急がざるを得なくなる。特に地元の欧州メーカーは、ディーゼル問題もありEV転換を早めていくであろう。

○ドラスティックに電化を進める欧州メーカー

2017年7月5日、スウェーデンのボルボ・カーは、2019年以降に発売する全てのクルマをEVやHVなどの電動車にすると発表した。ボルボのホーカン・サムエルソンCEOは、「内燃機関の時代の終わりを意味する」との声明を発表している。欧州勢としては、VWも2025年までに30車種以上のEVを投入する方針を打ち出しているし、ダイムラーや独BMWもEV、FCVの開発には積極的だ。

仏ルノーは日産自動車とのアライアンスもあってEV戦略で先行しており、仏プジョー・シトロエン・グループ(グループPSA)も2023年までに8割のモデルを電動車にする目標を掲げている。両社ともフランス政府が大株主だけに、政府が明確に目標を打ち出したことで、電動化の取り組みはさらに加速するだろう。

このように、欧州では政府とメーカーが足並みをそろえてEVシフトを急いでいるが、さて、日本勢の現状・今後はどうだろうか。

●日本車メーカーのEV戦略に変化があるのか
○トヨタとホンダ、次世代エコカーの「本命」争いに変化?

トヨタが「21世紀に間に合いました」のコピーでHVの「プリウス」を投入したのが1990年代末。まさに同社はクルマの電動化の先駆けであり、エンジンとモーターで駆動するHVの投入は「トヨタHV戦略」を主流にした。これをベースとしてトヨタは、2050年をめどにエンジン車から転換すると宣言した環境戦略を2015年秋に発表している。

トヨタは従来から、HVからPHV、さらにはFCVへとステップアップする電動化を計画していたが、これに加えてEVの開発を加速させ、2019年には中国でEVの量産化に踏み切る方針を打ち出している。

ホンダも八郷体制2年目の今年に入り、2030年にホンダ車の3分の2を電動車に置き換えると発表している。トヨタとホンダは、将来の究極のエコカーをFCVとする方向で一致していたが、ここへきてEVに積極展開してきたのも、世界最大の市場である中国を意識した動きとみられる。

○EVのリーダーを狙う日産、カギはアライアンスの有効活用

日産は、傘下に加えた三菱自動車工業のEV・PHVの開発力も活用し、EVリーダー連合軍を形成しようとの狙いを明確にしてきた。連合軍トップのカルロス・ゴーン氏による「EVでトップメーカーに」との宣言も、米テスラ・モーターズにお株を奪われた感がある中で、「欧州発EVシフト加速化の流れで、これからが本当の勝負になる」(日産の田川丈二常務)とする。

折しも米国では、テスラが量販EV「モデル3」の出荷を2017年7月末に開始。2016年3月の予約開始から、1カ月で約40万台を受注した話題のモデルだ。日産としては、2017年9月発売の次期「リーフ」からがEV戦略の本格展開となろう。

マツダは近く技術開発の新たな長期ビジョンを発表するとのこと。この中で、EV戦略が改めて注目されることになるはずだ。日本車各社は欧州の動きなどを睨みつつ、内燃機関と電動車の開発を並行して進めていくことになろう。

ただ、EVシフトが加速しているといっても、新たにクルマの燃料となる“電気”を何で作るのかで、環境保全の実効性は変わってくる。「ウェル・ツー・ホイール(油井から車輪まで)」の観点で考えた場合、クルマが排気ガスを出さなくなったとしても、発電の過程などで発生するCO2をどうするかという問題は残るのだ。原子力発電の是非が問われ、火力発電への依存度が高い日本では、EVだけに頼ることが、本当の意味でのゼロ・エミッションとならないことも考えておかねばならない。(佃義夫)

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