「球数制限」はエリート選手だけでなく、すべての選手のためにある

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2019年07月23日 12:40  ベースボールキング

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■連合チームによって見えなくなっている実態
高校野球の競技人口が減少する中で、顕著になってきたのは「戦力格差」だ。一部の有力私学が、専用グラウンド、トレーニング施設、寮など恵まれた練習環境を完備して、多くの野球部員を入学させている一方で、主として公立高校を中心に、学校の生徒数の減少もあって、部員数が減少の一途をたどっている学校もある。
中には、かつて甲子園を沸かせたことのある名門校の中にも、部員数の減少に苦しんでいる学校もある。
日本高野連は、2012年から連合チームを認めた。部員数が9人を割り込んだ野球部でも廃部にせず、複数の学校でチームを組むことを認めたのだ。

硬式野球部員数や参加校数が、中学以下に比較して大きく減少しなかったのは、日本高野連のこうした措置も一因だと思われる。なかには野球部員数が0になっても、加盟校として名前だけが残っている学校もある。これらを考えれば、競技人口、参加校数の実態はさらに厳しいものになっているといっても良い。

■「試合に出るのが目標」というチームもある
連合チームは、練習環境も劣悪な場合が多い。合同練習は週1回程度が多く、単独の野球部に比べて熟練度は極めて低い。部員の中には貧困家庭の子も散見される。筆者が取材した中には「放課後はアルバイトで学費や生活費を稼がないといけないので、ほとんど練習していない。試合の前日に少し練習するだけ」という生徒もいた。
「生活がかかっているから無理に部活に出てこいとは言えない。ただ、中にはアルバイトが大変で授業が重荷になって中退する子も多い。学校につなぎとめるためにも部活に参加してもらっている」と語る指導者がいた。
試合も、統一したユニフォームではなく、それぞれの学校のユニフォームで出場する。夏の甲子園の予選である地方大会では、そういう学校が、甲子園に何度も出場するような有力校と対戦する。スタンドには応援者もほとんどいないような中で、連合チームの多くは初戦で大敗する。彼らにとっては「試合に出る」のが、目標になっている。
審判の中には、「有力校と連合チームでは実力差がありすぎる。有力校の選手の打球で、連合チームの選手がケガをする可能性がある」と指摘する声もある。
高校野球にはこうした「戦力格差」「貧富の格差」の問題も存在する。

■寡占が進む地方の高校野球
「戦力格差」の裏返しとして、地方では少数の私学による「甲子園の寡占」が進んでいる。
福島県では聖光学院が2007年から12年連続で夏の甲子園に出場。2010年以降で、聖光学院以外に甲子園に出たのはいわき海星だけ。
高知県でも2017年まで8年連続で明徳義塾が夏の甲子園に出場。春は高知、土佐も甲子園に出ているが、明徳義塾の比率は圧倒的だ。

栃木県も作新学院が8年連続で夏の甲子園に出場。春も含め、他に甲子園に出場したのはのべ5校に過ぎない。
こうした「甲子園寡占校」に入学してレギュラーになれば、甲子園でプレーできる可能性は極めて高い。このために聖光学院や明徳義塾は全国から選手を集めている(作新学院は原則として、県内を中心に選手を集めている)。

こうした県では、多くの参加校は戦う前から事実上、甲子園への道が閉ざされている。そのことが、「野球離れ」の一因となっている可能性も考えられる。



■「下手くそだが、野球が大好きな選手」も大切だ
「球数制限」の議論は、こうした「競技人口、参加校数の実質的な現象」と「戦力格差の拡大」を背景として行われていることを認識しなければならない。
戦力格差のある学校同士の試合では、強豪校が打撃練習のように延々と攻撃を続ける場合がある。早々に加点してコールドゲームに持ち込みたいからだ。相手校の投手は、短いイニングでも多くの球数を投げることになるが、こうした投手の健康面はあまり顧みられることがない。
公立高校など中堅以下の学校には、主たる先発投手が1人しかいない学校も多いが、こういう学校では、どんな展開であっても1人の投手に任せてしまうことも多い。その結果として、地方大会で人知れず「燃え尽きる」ことになってしまう投手もいる。

筆者は強豪校だけでなく、地域の中堅クラスや初戦敗退クラスの高校の野球部も取材したが、
「あの野手は昔投手だったが、投げられなくなった」
「うちは、もう一人エース級がいたのだが、ケガでやめてしまった」
などという話をたくさん聞いた。

率直にいって、甲子園に縁のない学校の投手は、大切にされていない。故障しても、野球を断念しても「よくあること」で片づけられている。ケガをするまで投げさせた指導者が、その責任を痛感することもあまりない。そうした事例があまりにも多いので、日常茶飯事のようになっているのだ。
「球数制限」の話は「投手の投球障害を気にかける」「選手の健康面に気を付ける」という意識変革をもたらす話でもある。それは、甲子園へ行く投手、大学やプロで野球を続けるような有力投手だけをターゲットにした話ではなく、日本中にたくさんいる「下手くそだが、野球が大好きな選手」のその後の競技生活を守るためにもあることを、強調しておきたい。(広尾晃)

このニュースに関するつぶやき

  • 連合チームや部員人数の問題提起、なんだかやっと出てきたニュースに少し涙出た。下手くそだが野球は好きまさに僕だ(笑)
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