「アイサイト」と電動化の融合がカギ? 究極のスバル車が生まれる条件

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2019年07月23日 12:42  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
●アイサイトの新機能「ツーリングアシスト」は仕上がり上々
スバルの「アイサイト」に「ツーリングアシスト」という新機能が追加された。筆者も体験試乗をしたが、実によくできた機能であり、スバルの言うリアルワールド(現実の交通環境)で安心して利用できる制御に仕上がっていた。新機能の詳細は別のリポートに譲るとして、今回はアイサイトとスバル車の今後について考えてみたい。

○画像処理は他者が「追いつけない」水準に

スバルの運転支援の特徴は、フロントウィンドウ上端の中央部に、ステレオカメラと呼ぶ2つのイメージセンサーを搭載し、その情報のみから状況を判断、運転を操作するシステムであることだ。今後、自動運転へ向けてはレーダーなど追加のセンサーを装備する可能性を否定しないが、ともかく、世界の自動車メーカーが運転支援で同様の機能を提供している中、ステレオカメラのみで実現しているのはスバルのみである。

スバルがステレオカメラで強みを持つのは、アイサイトの前身「アクティブ・ドライビング・アシスト(ADA)」の実用化に先立つ1989年から、ステレオカメラにこだわって開発を続けてきたからだ。それは運輸省(現在の国土交通省)が、産官学の関係者による先進安全自動車(ASV:Advanced Safety Vehicle)推進計画の第1期(1991〜1995年度)を立ち上げるより前のことで、すでに28年の経験を積んでいる。

このように早くから開発に取り組んできたこともあり、スバルは画像認識や画像解析など全てを社内で独自に確立してきた。画像処理に関する技術は、他の自動車メーカーの技術者が「とても追いつけない水準にある」と異口同音に評価するほどだ。

○リアルワールド重視は不変

また、リアルワールドを重視する視点もずっと変わらない。例えば危険回避アシストについても、事故が多いのは交差点であり、その低い速度で幅広い視野から危険を察知し、自動ブレーキをかけて事故を回避する機能を、アイサイトはいち早く採り入れた。それはレーダーではなく、ステレオカメラによる広角の視野をいかした成果であった。

2014年にアイサイトはバージョン3(Ver.3)に進化し、ステレオカメラはカラー画像となった。これにより、前を走るクルマのブレーキランプ点灯を認識することが可能となり、車間距離が縮む前に減速する準備を整えられるようになった。レーダーで車間距離を管理する他のシステムに比べ、初動が早くなり、追突を予防するブレーキ操作が急でなくなることから、システムを利用する際の安心感は高まった。

実際にアイサイトを公道上で利用して実感するのは、まさしくクルマも目で前を見てくれているという感触があることだ。前のクルマのみならず、その前や、さらに先のクルマが減速し始めたのを運転者が目で捉えるのと同じように、アイサイトも、減速が必要になるかもしれないと構えるかのような感覚を覚えるのである。

そこに、自分の運転に近いという親近感も生まれる。あるいは、自分よりずっと安全に気を配ってくれているとの信頼も生まれるのだろう。

●アイサイトの進化で考えるスバルの今後
○ステレオカメラで優位性を発揮できる理由

運転するとき、人間は情報の90%を目に頼っている―。そう考えたスバルの技術者たちが、クルマの運転支援や自動運転も、複眼のカメラであるべきという原理原則、根本を貫き通した28年の成果が、アイサイトのツーリングアシストにしっかり反映されているのである。

今回のツーリングアシストでも、カラー画像で認識と解析をするので、車線だけでなく、前のクルマへの追従も可能になっている。そして、車線を優先するのか、前のクルマへの追従を優先するのかといった判断も、ステレオカメラでの画像認識があるからこそ、間違いなく選ぶことができる。

さらに、ツーリングアシストとなって進化した点として注目したいのは、加減速したり、ハンドル操作を始めたりするときの様子が非常に自然であることだ。わざと車線逸脱をさせてみようとハンドルを切ってみると、素早く車線中央へ戻さなければならないため、かなり力強く電動パワーステアリングを機能させるのだが、ステアリング修正の動作が急すぎないため、車体が横へ揺すられることなく、滑らかに車線中央へ戻されていく。

車線中央を維持する走行では、運転席からの目線でも中央にいる実感があり、たとえば日産自動車「セレナ」のプロパイロットで、若干ズレているように感じてしまったのとは差を感じた。これは良し悪しというよりも、アイサイトが積み上げてきた成熟度の高さを、ツーリングアシストでは一層実感できたということである。

○自動運転への道も? アイサイトの今後

ここで今後の展開を考えてみたい。当初のステレオカメラ開発で、人間が情報の90%を目に頼っているとスバルの技術者は述べていたが、残りの10%を捉えなければ、自動運転にはつながっていかないわけである。ツーリングアシストの技術者も、ステレオカメラのみにこだわっているわけではないと話す。

またスバルは、自動運転を目指してはおらず、目指すのは究極の安全であり、事故ゼロであると言うが、それが結果的に自動運転への道筋にもなっていくのだろう。

アイサイトを進化させたスバルは今回、北海道の美深試験場に、高速道路のカーブ/高速道路の分合流/市街地を想定した交差点/アメリカのフリーウェイを模した路面を新設したと発表した。自動運転に着実に前進する構えがそこからもうかがえる。

その上で、スバルが現在、後追いの形となっているクルマの電動化を進め、電気自動車(EV)を実用化すれば、アイサイトの進化は、まさに究極の域に達することができるのではないかと想像する。

●スバルらしさと電動化は相性抜群?
○モーターの反応速度がアイサイトを進化させる

クルマの電動化が進むと、なぜアイサイトの進化が究極の域に達するのか。それを説明するため、自動運転の鍵となる「認知・判断・操作」の各段階について考えてみたい。

現状、スバルはアイサイトにより、「認知」と「判断」で高い水準に到達しており、「操作」についてもツーリングアシストでの自然な、しかも確実な走行性能の実現ができている。しかし、既存のエンジンに比べモーターは、作動の指示に対して圧倒的な速さでそれを実行する能力がある。エンジンでは、どうしても超えられない作動遅れが残るのである。

実際、日産は自動運転の試作車をEVの「リーフ」で製作している。こうなると、アイサイトの優位性をさらに維持、前進させるためには、1日も早い電動車両の実現がスバルにとって不可欠になってくる。

○電動スバル車の登場はいつごろか

現状、スバルは2019年にプラグインハイブリッド車(PHV)を、たぶん米国を中心に市場導入し始め、次いで2021年をめどにEVを市販しそうだ。ことにEVは、客室空間を大きくとるため床下にリチウムイオンバッテリーを搭載するので、スバルが言う水平対向エンジンによる低重心を、今以上に実現可能となる。

また、モーターを前後用に2個、場合によっては各タイヤ用に4個使うことで、4輪駆動、すなわちスバルの言うところのAWDも実現できる。そして、モーターの応答の早さをいかせば、高次元の操縦安定性を作り込むことも可能なのである。あえて言えば、それがわかっていてなぜ早くEVをやらないのかとさえ思うほどだ。

しかし、実はスバルは、三菱自動車工業「i-MiEV」発売と同時期に、「プラグインステラ」という軽自動車のEVを市場に投入しているし、その前段階としては、2003年の東京モーターショーに「R1e」というEVコンセプトカーを出展しているのだ。EVの加速や走り味のよさをしっかり開発していたのである。そして、プラグインステラは、あえてバッテリー搭載量を減らし、走行距離の長さより軽快で力強い、しかも低重心による安定性に優れた走りのよさを特徴としていた。

ところが、軽自動車を自社開発しなくなり、日産との提携を止め、トヨタ自動車と提携を結ぶことで、スバルのEV開発は途絶えてしまった。そこを今、スバルは必死に取り返そうとしている。同社のブランドメッセージである「安心と愉しさ」は、アイサイトとEVの組み合わせによって完成されるものと確信する。(御堀直嗣)
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