今夏発売の「CX-3」から! マツダが新燃費基準にいち早く対応する理由

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2019年07月23日 12:42  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
●新しい燃費基準「WLTC」とは何か
マツダは、この夏に発売を予定する小型SUV「CX-3」のガソリンエンジン車について、世界統一の燃費試験サイクルであるWorldwide-harmonized Light vehicles Test Cycle(WLTC)の認可を取得したと発表した。日本国内では、2018年10月以降にWLTCによる燃費表示が義務化される予定だが、マツダはなぜ、前倒しでの対応に踏み切ったのか。

○WLTCでカタログ燃費と実用燃費の差が縮まる?

WLTCとは、国際連合の自動車基準調和フォーラムによって成立した乗用車などの国際調和排出ガス・燃費試験法(WLTP:Worldwide-harmonized Light vehicles Test Procedure)に沿った排ガスと燃費の表示方法である。

日本国内では現在、排ガス浄化性能と燃費値について、「JC08モード」に従って認可されている。JC08モードとWLTCでは燃費測定方法にさまざまな違いがあるのだが、その1つがコールドスタートとホットスタートの比率だ。

JC08モードでは、エンジンが止まった状態からクルマを始動させて(コールドスタートで)測る数値と、すでに走行を始めてエンジンが温まった状態で(ホットスタートで)測る数値の双方を一定の割合(コールド比率25%)で使用する。一方、WLTCではエンジンが冷えた状態からの計測が100%となる。コールドスタートの場合、排ガス浄化触媒を働かせるための温度上昇に燃料を消費するため、ホットスタートよりも燃費測定の結果が悪くなる。

WLTCではこのほか、平均車速の向上、アイドリング時間比率の減少、車両重量の増加などの変更が生じるため、全体的な燃費性能の評価がJC08モード値より厳しくなる傾向が考えられる。実際、マツダがCX-3のガソリンエンジン車で示した例でも、JC08モードに比べWLTCの方が6〜8%ほど燃費値が悪くなっている。

●伝わりにくかった? マツダ車の魅力
マツダは2010年10月の「SKYACTIV」発表のときから、原理原則に基づいた新車開発に大きく舵を切った。SKYACTIVと名乗る次世代技術は、まずガソリンエンジンで導入され、以後はディーゼルエンジンやトランスミッション、車体、シャシー開発においても導入が図られた。また、その技術を適正価格で実用化し市販するため、モノづくり革新として工場での生産方式まで改革を行ってきた。

SKYACTIVの中でも象徴的なのは、ガソリンエンジンの高効率化へ向けた取り組みである。エンジン効率の基本である圧縮比に注目し、これを従来以上に高めることで高効率化を進めた。それにより、ドイツを発端とする、小排気量エンジンに過給機を装備して低燃費と高出力を両立させるダウンサイジングに対抗し、自然吸気エンジンのまま、低燃費と高出力を両立する道を歩んできた。なおかつそれを、レギュラーガソリンで達成している。

○低燃費・高出力の実現へ何を重視するか

ダウンサイジング過給エンジンとは、まず排気量を小さくすることで燃料消費を下げ、不足する出力は過給で補うという手法だ。したがって、過給器が作動するまでは小排気量エンジンの出力しか得られず、結果、運転者は余計にアクセルペダルを踏むことになり、実用域での燃費との間で開きが生じる傾向にある。また欧州は、国内よりガソリンのオクタン価が高いため、日本で使用するにはプレミアムガソリンを給油する必要がある。

一方、マツダが取り組んでいる、自然吸気エンジンでありながら根本的な圧縮比を高める方式は、十分な排気量を備えているため、運転者がアクセルペダルを踏み始めたところから適切な力が発生し、必要以上にペダルを踏み込ませないようにする。その上で、エンジン自体の効率の高さにより低燃費を実現する。したがって、実用燃費との差が少ないというのが、マツダ独自の燃費計測結果からも明らかにされている。

低燃費と高出力の両立において、何を優先するかという発想の違いがそこにある。そしてマツダは、エンジンそのものの高効率化に重心を置き、カタログ諸元での数値競争ではなく、実用性能に重きを置いた新車開発を続けている。なおかつ、より安価なレギュラーガソリンでの利用にこだわる。ただし、カタログなどでの表面に出る数値の比較が難しいため、営業政策上はなかなか強みを消費者に示しにくい面があった。

そこに現れたのが、WLTCである。

●燃費不正が続出、新基準への対応が話題に?
○実用燃費へのこだわりは実を結ぶか

三菱自動車工業の燃費不正問題や、スズキの燃費計測における指定方法以外での抵抗値の算出など、2016年に噴出した燃費問題を受けて、国土交通省は国際的な指標となるWLTCの導入を検討してきた。そして、2018年10月の義務化が定まって間もなく、マツダは他社に先駆けてWLTCによる燃費表示を導入し、話題を得たことになる。

原理原則を見極め、何が理にかなっているかを追求することで課題解決することを、マツダはSKYACTIVで行ってきた。それにより、単にカタログ上のモード燃費値で他社と競うのではなく、実用燃費で顧客に利点をもたらす開発を続けてきたのだが、そこを単純明快に説明しきれずにきた。それが、他社に先駆けてWLTCに対応し、実用燃費により近い燃費表示を採用することへと踏み切った背景といえるのではないだろうか。

○一言では説明できない商品改良の数々

本質を極める開発のやり方は、「G-ベクタリング コントロール」という姿勢制御の採用でも見られる。これは、運転技量の高い人がクルマの前後の荷重移動(アクセルのオンオフやブレーキなどで行う)を利用して姿勢制御を行っている操作を、電子制御による出力調整で一般の運転者が無意識のうちに実現できるようにした機能である。G-ベクタリングにより直進安定性が高まったり、カーブでの旋回が的確かつ安定したものなったりする。

ほかにも、新世代商品群に用いられる新開発のプラットフォーム開発においてマツダは、アクセルとブレーキのペダル配置を適正化し、運転しやすく、かつペダルの踏み間違いを起こしにくい運転姿勢を追求してきた。これにより、運転支援機能の追加装備などと合わせた効果として、ペダルの踏み間違いによる死傷事故件数を、旧型車に比べ86%も改善している。

しかしそれらも、詳しく説明すれば消費者に理解が届くだろうが、一言では表現しにくいモノづくりであった。

●一目瞭然の競合比較
○新たな商品性としての燃費表示

一目瞭然の新しい機能を取り付けることや、性能差という数値で商品性を訴える手法は、各自動車メーカーが永年にわたり続けてきたことだ。

それに対して、マツダのSKYACTIVやG-ベクタリング、あるいはペダル配置などは、説明を受けなければなかなか気づきにくい商品性の向上であり、営業促進的には訴求点を見つけにくい事柄である。とはいえ、手にした消費者にとっては嬉しい機能であり、カタログ値に近い燃費を実用上得られたり、より安心して運転したりできれば、マツダ車を買って良かったとやがて実感できるだろう。

そうした一目見ただけではわかりにくく、原理原則に基づき、消費者にとっての価値を第一とした物づくりを、「魂動デザイン」という見栄えで飾り、人目を集めたのが今のマツダ車である。そこにもう1つ、他社にさきがけ、いち早く実用燃費に近いカタログ燃費値の表示になると期待されるWLTCの認可取得が、分かりやすい商品性として加わることになる。

○WLTCはCX-3の“売りもの”になるか

WLTCは実用燃費により近い数値が示されるとともに、市街地/郊外/高速という3つの場面に応じた燃費値も公表される。ことに日本においては、クルマの使われ方は多様であり、こうした利用形態に応じた燃費表示は、各自の利用の仕方に適したクルマ選びの参考にもなっていくはずだ。

WLTCを採用する第1弾となるCX-3は、実はこれまでディーゼルエンジン車のみの販売であった。マツダが、ガソリンエンジンだけでなくディーゼルエンジンの魅力も訴え続けてきたのは事実だが、なぜCX-3だけディーゼルエンジンしか選択肢がなかったのか、そこは理解しがたい点だった。

発売から2年以上を経て、ようやくCX-3にガソリンエンジン車を加える時、WLTCの話題が営業的に一役買うことは間違いないだろう。

マツダの実直なクルマづくりがブランドの礎を築いていく過程で、魂動デザインという見栄えの分かりやすさと共に、こうした的を射た営業施策を採り入れることもまた、企業経営の妙といえるだろう。(御堀直嗣)
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