299万円の「Q2」にアウディらしさはあるか

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2019年07月23日 12:42  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
●「Q2」という車名に込めた意味
5月に発売されたドイツ車、アウディ「Q2」がクルマに興味のある若い人の間で注目されているらしい。理由は299万円からという価格にあるようだ。アウディとしては安い。では中身はアウディらしいのだろうか。試乗しながらチェックしてみると、単純には答えられない構造があった。

○トヨタ「C-HR」と似たサイズ感、価格差は50万円以下

アウディと言えばメルセデス・ベンツ、BMWと並ぶドイツのプレミアムブランド御三家。クルマに興味のある人の多くが一度は所有してみたいと思っているだろう。そのアウディが送り出した新型車、しかも人気のSUVが299万円。ということでQ2が注目を集めている。

アウディには現在、「A1」と「A3」というハッチバックの車種がある(A3にはセダンもある)。さらにA3と同格のSUVとして「Q3」もある。となれば、Q2がA1とA3の中間のボディサイズを持つSUVであることが想像できる。

ボディサイズは全長4205mm、全幅1795mm、全高1520mm。長さについては確かにA1より長く、A3やQ3よりは短い。さらに幅を1800mm以内、高さを1550mm以下に抑えてあるので、日本の多くのタワーパーキングに収まる。

この全幅と全高は、今年4月に軽自動車を除く国内新車販売台数No.1に輝いたトヨタのSUV「C-HR」とほぼ同じだ。一方、値段で比べると、C-HRのガソリン車は、アウディをはじめとする欧州車が多用する、ダウンサイジングターボエンジンに4WDを組み合わせるというコストの掛かるメカニズムを採用していることもあり、価格が250万円以上となる。Q2との価格差は50万円に満たない。

○新世代プラットフォームMQBを採用

ちなみに299万円のQ2は、A1にも積まれている1リッター直列3気筒ターボエンジンを採用している。このことから、プラットフォームもA1と共通と予想した人がいたようだ。しかしアウディジャパンの説明では、Q2のプラットフォームは、アウディでは現行A3で初採用された、MQBと呼ばれる新世代プラットフォームを用いているという。

MQBはアウディも属するフォルクスワーゲン・グループの横置きエンジン用プラットフォームとして新開発され、現行「ゴルフ」に使われていることで知られている。噂では次期「ポロ」にもこのMQBが使われるそうなので、Q2の車格がこのプラットフォームを使うのは予定どおりなのだが、Q3は一世代前のプラットフォーム。この点でもQ2には価値がある。

●ポリゴンを盛り込んだデザイン
エンジンは1リッター直列3気筒ターボと1.4リッター直列4気筒ターボを設定する。1リッターはA1、1.4リッターはA3でおなじみのパワーユニットだ。アウディジャパンが主力と考えているのは1リッター。筆者も1リッターでどの程度走るのか興味があった。しかし、静岡県で行われた報道関係者向け試乗会に用意されていたのは、1.4リッターをベースとした280台の発売記念限定車「1stエディション」だけだった。

○ポリゴンがテーマ、グリルは力強さを演出

Q2はスタイリングも特徴的だ。ポリゴン(多角形)をモチーフにしたことで、従来のアウディとはひと味違うイメージを打ち出している。特に目立つのは、ボディサイドのキャラクターラインが上下に分かれて六角形をなす造形だ。SUVらしいフェンダーの張り出しを都会的に演出した、うまい手法だと思った。

フロントグリルが八角形をなしており、他のアウディより高い位置に置かれ、内部のバーにも多角形的な処理を施されたことも違いだ。Q2のサイズからすると主張が大きすぎるような気もするけれど、SUVらしい力強さの演出には効いている。

○デザインの工夫が必須なコンパクトSUV

C-HRを見れば分かるように、今のコンパクトSUVマーケットはとにかくデザインコンシャスだ。正常進化型の造形を続けてきたアウディも、このままではライバルに埋もれてしまうと考えたのかもしれない。ちなみにこのデザイン、今後は他のSUVにも導入することで、セダンやハッチバックとの差別化を図っていくそうだ。

それに比べるとインテリアは、センターパネル周辺にポリゴンを取り入れていることを除けば、A3に似ている。ただしシートは前後とも高めに座る。特に後席は足を下に伸ばすような着座姿勢だ。おかげで一回り大きなQ3と同等の広さが得られた。

アウディジャパンではこのQ2について、1台ですべての用途をこなせると説明している。たしかに405リッターの容量を誇る荷室を含めて、ファミリーカーとしても使えるキャビンを備えていた。ボディサイズもフォルクスワーゲンのゴルフに近いパッケージングだと感じた。

●「全部乗せ」を求めない人のプレミアム
○装備を詳細にチェックしてみると…

Q2の車両重量は1340kgと、Q3より100kg以上も軽い。おかげで1.4リッターターボエンジンによる加速は元気いっぱいだ。これなら1リッターターボでも問題なく走ってくれるのではないだろうか。しかも静か。時速100キロのクルージングは安定した直進性のためもあり、リラックスして過ごせた。山道で試したハンドリングは自然で、SUVでありながら背の高さを感じさせない自然な感触だった。

気になったのは乗り心地だ。1stエディションのホイールは18インチで、タイヤサイズは215/50R18と太め。さらに全高と最低地上高は他のグレードより10mm低い。そのためか、常に揺すられるようなフィーリングで、スプリングもタイヤも硬いという印象だった。

その点、1リッターターボはスポーツグレードでも17インチ、スタンダードでは16インチになるから、快適性では上を行くだろう。しかも1stエディションは、1リッターのスタンダードグレードより約200万円も高い490万円なのだ。

それなら俄然、ベーシックな1リッターが良いと多くの人が思うだろう。ところが装備をチェックしていくと、エアコンはオートではなく、LEDライトやナビ、運転支援システムは付かないことを発見する。

1つ上のスポーツグレードではオートエアコンやLEDは装備されるものの、ナビや運転支援システムはオプションだ。364万円のスポーツグレードにこれらを追加すると、1.4リッターターボのベースモデル(405万円)と同等になる。しかもアウディと言えばクワトロ、つまり4WDのイメージが強いのに、日本仕様のQ2は全車前輪駆動となっていることも特筆すべき点だろう。

でも逆に言えば、東京や大阪などの温暖地域では4WDでなくても十分だし、ナビはスマートフォンで代用できると考える人も、特に若い人には多いだろう。Q2はそんな価値基準を持つ人たちに向けて、プレミアムブランドでは当然となってきた「全部乗せ」状態を見直すことで、お求めやすい価格を実現した車種ではないかという気がした。(森口将之)
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