今期減益予想でも前向きなスバル、その独特な事情と経営戦略

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2019年07月23日 12:52  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
●販売台数と売上高が増加しても減益になる理由
2016年度の業績で売上高・販売台数ともに過去最高を達成したスバル。今年度も台数は増え、売上高も増収の予想なのだが、なぜか営業利益は減益の見通しだ。その理由を探ると、スバルの独特な事情と将来に対する考え方が分かってくる。

○前期は実質的に増益

まずはスバルの2016年度業績を振り返りたい。売上高は3兆3260億円、連結販売台数は106万4500台と、ともに5年連続で過去最高を更新。台数でいえば、同社としては初めて100万台の大台に乗せた。

営業利益は2015年度比で3割近い減益となる4108億円だった。1500億円を超える大幅な減益だが、スバルの説明によると、このうち1400億円以上は円高に振れた為替の影響だという。為替影響以外の減益要因には、いわゆるタカタのエアバッグ問題に関連するリコール費用も含まれている。決算説明会でスバルの吉永社長は、「(2016年度は)実態としては増益を確保」したとの見方を示した。

注目したいのは、すでに始まっている2017年度(2018年3月期)の業績予想だ。販売台数は前期比4万1000台増加の110万5500台、売上高は同940億円増収の3兆4200億円を見通しているにも関わらず、営業利益は8億円の減益となる4100億円を予想している。

為替レートについては、2016年度実績の1ドル=108円から今期は同110円と円安に振れると想定。クルマも売れて、為替も好転する見通しなのに、減益を予想しているのはなぜなのか。吉永社長の言葉から探った。

●米国の販売環境は悪化、好調のスバルにも影響
○減益予想の要因は

吉永社長は減益予想の要因として以下の5点を指摘する。

1.販売台数は増えるが、車種の構成が変化すること

2.原材料の市況が悪化していること

3.試験研究費を増やしていること

4.米国で販売管理費(販売奨励金=インセンティブ)が増加していること

5.タカタ以外にもクレーム費用が若干増加していること

このうち米国の販売管理費については、同国の事業環境が大きく関係している。

○インセンティブの増加は避けられない情勢

米国では自動車需要がピークアウトしたとの観測があり、2017年1〜4月は全需が前年割れを続けるなど、販売環境が悪化している。スバルは「インプレッサ」が好調で、この4月も前年同期比プラスの結果だったそうなのだが、やはり販売管理費の増加は避けられない様子だ。ただし、スバルのインセンティブ上昇は単純な値下げ攻勢に起因するものではなく、金利が上昇している局面で、低金利クレジットを維持しているがゆえの現象らしい

市況の悪化とクレーム費用の増加も、スバルに限った話ではないだろう。減益予想の要因として注目すべきは、販売台数における車種構成の変化と、増加する試験研究費についてだ。

●売れるクルマによって上下する利益率
○販売台数は増えるが、その内訳は

スバルは今期、販売台数を2016年度に比べて4万1000台上乗せする計画だが、内訳を見るとインプレッサが5万2000台の増加で、SUVの「レガシィ アウトバック」などの車種は計1万1000台の減少になるのだという。

一般的に、セダン型のクルマはSUVよりも利益率が低い。売れる車種が変化すると、損益面に影響が出るのは自動車メーカーに共通する現象だ。しかし、ここまで大きな影響が出ている状況というのは、ここ最近のスバルが、利益率の高い車種を多く販売していたという実績を反映しているものと見ることができる。

自動車メーカーにとって、クルマの市場投入時期に一定のサイクルがあるのは当然だ。今はインプレッサが売れているが、スバルは今後、米国でSUVのラインナップを強化していく方針を示しており、2018年には3列シートのミッドサイズSUV「アセント」を投入する予定としている。米国ではセダンからSUVを含むトラック系へと需要が激しくシフトしている様子。SUVが売れ始めると、スバルの損益面にはプラスの影響が出るはずだ。

減益予想の要因として、車種構成以外で気になるのが試験研究費の増加だ。スバルは何に資金を投じるのか。

●増える試験研究費、スバルは何を磨くのか
○自動車業界が急速に変化、スバルはどうする

「自動車史として、次元が変わる技術進化が起きている」。スバルの吉永社長は、独ダイムラーがメルセデス・ベンツの戦略として掲げる「CASE」という言葉に言及しつつ、現在の自動車業界をこのように分析した。CASEはConnected(つながるクルマ)、Autonomous(自動運転)、Shared & Service(カーシェアリング)、Electric Drive(クルマの電動化)という4つの言葉の頭文字だ。

このような状況の中、スバルは試験研究費を前期の1142億円から1340億円に増やす。何に注力するのかといえば、吉永社長が強調したのが電動化の部分だ。

ただ電気自動車(EV)を出せばいいというのではなく、「いかにスバルとして魅力あるEVを開発できるかが勝負」というのが吉永社長の考え方。電動化の方向性としては、プラグインハイブリッド車(PHV)については提携関係にあるトヨタ自動車から学び、EVの方でスバルらしいクルマを開発するという方針のようだ。

PHVは2018年、EVは2021年の発売を予定。スバルらしいEVの在り方は現時点で未知数だが、現状の商品群から考えれば、車重が重くてバッテリーの減りが早いといわれる、SUV型のEVに同社が挑戦する可能性もゼロではないだろう。

○やるべきことは、きちんとやる

スバルといえば高い営業利益率が特徴の1つだが、試験研究費が膨らむことで、今後も減益の流れが続くとすれば、その特徴を維持するのは難しくなる。このあたりについて吉永社長は、2桁の利益率を維持していく方針に変わりはないと明言しながらも、業界の現状を踏まえ、「(試験研究費の増額のような)やるべきことは、きちんとやる」という考え方を示した。

販売台数は増加、売上高は増収、為替は好転を見通しながらも、営業利益は減益というスバルの今期業績予想だが、その中身を見ると、同社の姿勢が前向きであることを感じられた。(藤田真吾)

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