●米国でPHVとEVを発売
2030年に向けて、販売する4輪車両の3分の2をハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)といったエコカーに置き換えるとするホンダ。その戦略に沿った形で、同社が今年中に発売するのが「クラリティ」シリーズの2車種なのだが、いろいろ気になるところもある。なので、決算説明会で聞いてみた。
○クラリティシリーズに2車種を追加
ホンダが発売するのはPHV「クラリティ プラグイン ハイブリッド」(以下、クラリティPHV)とEV「クラリティ エレクトリック」(以下、クラリティEV)の2車種。2017年4月の「ニューヨークオートショー」で発表した。これらのクルマは、同社が2016年3月に日本で発表したFCV「クラリティ フューエル セル」と共通のプラットフォームを使用する。
同一プラットフォームで3種の電動パワートレインをそろえるのはホンダが世界初。新たに登場する2車種をホンダは、「広く上質な室内空間を誇る5人乗りミドルサイズクラスセダン」と紹介している。
クラリティPHVは17kWhのバッテリーを搭載。EV走行の航続距離は40マイル(約64キロ)で、ガソリンと合わせた総走行可能距離は330マイル(約531キロ)以上となる。バッテリーの満充電に要する時間は240ボルトで2.5時間。米国で2017年中に発売開始の予定だ。
クラリティEVの方は25.5kWhのバッテリーを搭載。走行可能距離は80マイル(約128キロ)以上で、満充電にかかる時間は240ボルトで3時間強だ。少し走行距離が短い気もするのだが、ホンダは「日々の通勤など」という風に使い方を提案。カリフォルニア州とオレゴン州で2017年中にリース販売を開始する予定で、価格は「お求めやすい」設定にするという。
クラリティで電動化を進めると聞いて、例えばセダンに車種が片寄る点など、いくつか気になるところがあった。ちょうど先日、ホンダの決算説明会で質問する機会があったので、聞いてみることにした。
●米国はSUV人気が過熱、クラリティのEVは受けるか
○同一プラットフォームの利点
まず、世界初だという同一プラットフォームでの電動パワートレイン展開には、どういうメリットがあるのだろうか。決算説明会に登壇したホンダ代表取締役副社長執行役員の倉石誠司氏によると、プラットフォームを共通化することで部品や生産ラインなどを共有できるので、クルマを作る際のコスト低減であったり、生産効率の向上につながるのだという。
次に気になったのは、ホンダが発売するPHVとEVが、両方ともセダン型であるということ。米国ではセダン型からSUVを含むライトトラック系に需要がシフトしていると聞くが、その市場にホンダはセダン型エコカーを投入する。そのあたりについて倉石副社長に聞いてみると、SUV型EVもニーズによっては検討していくが、SUVはクルマが重くなる分、バッテリーの減りも早いとのことだった。
○最後は価格の勝負に
最後に、ホンダのPHVとEVは米国で売れるのだろうか。報道陣と倉石副社長のやり取りを聞いていると、ホンダはクラリティシリーズを4年で7万5000台販売する計画らしいのだが、なかなか意欲的な感じのする数字だ。
どうやって米国市場にアピールするか問われた倉石氏は、「(クルマの)安心感などを訴求していく必要があるが、最後は価格」と指摘。クルマの魅力を訴求し、十分にスペースがあるところなども知ってもらいつつ、最終的には顧客が求める価格で提供することが必要になると語った。価格といえば、米テスラが発売を予定するセダン型EV「モデル3」は3万5000ドルで航続距離が345キロだという。このあたりと競合するのであれば、攻めた価格を設定する必要があるだろう。
●ZEV規制強化に素早く対応、今後の車種拡充は?
○クラリティの次はどんなエコカーが登場するのか
米国では自動車メーカーにエコカーの販売を促す「ZEV(ゼロ・エミッション・ビークル)規制」が強まっていく見通し。日本の自動車メーカーも対応を迫られる中、どんなクルマを売り出すかをこの時点で発表したホンダの対応は、「リーフ」の日産自動車や「i-MiEV」の三菱自動車のように、すでにEVを発売しているメーカーをのぞけば、かなり早いほうだと思う。
クラリティシリーズがホンダの目論見どおり米国で売れるかどうかも気になるが、注目したいのは、ホンダから今後、どのような電動車両が登場するかという点だ。ホンダの販売台数は500万台規模だから、2030年に3分の2を置き換えるとすれば、ホンダは年間330万台程度のエコカーを販売する企業に変貌を遂げる必要がある。PHV、EV、FCVといったクルマの市場が伸びていくかどうかは未知数だが、ホンダとしては、市場に受け入れられるエコカー作りを急ぐしかない状況だ。(藤田真吾)