ビジネスか社会貢献か、トヨタがロボットで目指すもの

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2019年07月23日 13:12  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
●リハビリ支援ロボットを商用化
自動車メーカーのロボットといえば本田技研工業の「ASIMO」が有名だが、実はトヨタ自動車もロボット事業に取り組んでいる。そのトヨタの「パートナーロボット部」が実用化し、近くレンタルを開始するのは、脳卒中などによる下肢麻痺のリハビリ支援を目的とするロボット「ウェルウォーク WW-1000」だ。トヨタがロボットで目指すのは社会貢献かビジネスか。その辺りが気になるところだ。

○“移動”がテーマのロボット開発

1980年代に自動車生産用の産業用ロボットを導入したトヨタは、その技術と自動車の開発で培った知見を応用し、「人と共生するパートナーロボット」の開発を始めた。パートナーロボットの開発で掲げるのは「すべての人に移動の自由を、そして自らできる喜びを」というビジョンだ。自動車メーカーのトヨタだけに、ロボットの開発でも“移動”をテーマにしている。

ロボット事業で取り組むのは少子高齢化の問題だ。高齢者が自立した生活を送り、介護する側の負担も軽減できるよう、「シニアライフの支援」「医療の支援」「自立した生活の支援」「介護の支援」を主要な領域として開発を進める。ロボット事業で初めて商用化にこぎつけた商品がウェルウォークだ。

○クルマ作りの技術を活用

ウェルウォークは脳卒中などで歩行が困難になった人が、再び歩けるようになるためにリハビリを行うためのロボットだ。患者の状態に合わせた難易度の調整や歩行状態のフィードバック機能など、運動学習理論に基づいたさまざまなリハビリ支援機能を備えるという。

自動車メーカーとして、トヨタがウェルウォークに活用した技術は何か。説明会に登壇したトヨタの磯部利行常務は、クルマ作りに用いる産業用ロボットの細かいセンシングや、小さなモーターを上手に制御しながら使う技術などを採用していると説明。「軽さは正義」とも言われるクルマ作りで培った軽量化技術もロボット開発に落としこんでいるという。

説明会に登壇した藤田保健衛生大学教授の才藤栄一氏によると、ウェルウォークを導入することでリハビリ施設では歩行訓練の効率化が図れるという。具体的な数字を挙げての説明を求められた同氏は、「簡単に言うと」と前置きした上で、リハビリに要する期間が1.6倍程度は短くなるとの見方を示した。

社会的には意義がありそうに思えるトヨタの新商品。気になるのは、ビジネスとして見た場合、同社のロボット事業はどのような立ち位置なのかということだ。

●ロボットの事業性はいかに
○レンタル100台が目標、海外展開も視野

トヨタはウェルウォークをレンタルで展開する。借りる方の初期費用は100万円、月額料金は35万円だ。パートナーロボット部の玉置章文氏によると、とりあえずの受注目標は100台。市場規模を聞かれた同氏は、こういったロボットを導入できる医療機関は日本に1,500カ所あると答えていた。早期の海外展開も視野に入っているようで、使用する人の体格が近そうなアジア地域から始めることも検討している模様だ。

パートナーロボット部では今後も新たな商品を投入していく方針。例えば、高齢者施設などで介助、自立、生活などを幅広くサポートする「生活支援ロボット」については、オープンイノベーションの手法も取り入れて実用化を図るという。ウェルウォークはロボットとして「かなりシンプル」な部類に入ると語った玉置氏は、今後はより難しい技術の商用化にもチャレンジしていくとの意気込みを示した。ウェルウォークの商用化で知見を積んだ分、これからは商品投入サイクルを早くできるという手応えも得ているようだ。

○ロボットもトヨタならではのビジネス?

社会問題の解決を目指してトヨタが進めるロボット事業を、ビジネス的な側面からばかり考えるのは野暮な感じもするが、年間1000万台のクルマを売り、30兆円近い連結売上高をたたき出す同社にとってみれば、ウェルウォークで狙い通りに受注を獲得できたとしても、ロボットの事業規模は微々たるものだろう。

ロボットの将来的な事業性について問われた磯辺常務は、「必ず事業に結びつくと信じて頑張ってやっていきたい」と答えていた。今回の発表からは、トヨタが膨大な量のクルマを販売し、全体として好調なビジネスを展開できているからこそ、ロボットのように、規模は小さくても意義ある(とトヨタが考える)事業に取り組むことができているのだろうと感じた。(藤田真吾)
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