松田翔太が醸し出す狂気 『東京喰種【S】』原作を狭く深く掘り下げることで際立つ月山の魅力

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2019年07月27日 10:02  リアルサウンド

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『東京喰種 トーキョーグール【S】』(c)2019「東京喰種【S】」製作委員会 (c)石田スイ/集英社

  昨今、レベルが上がってきている漫画実写化映画。『東京喰種 トーキョーグール【S】』もそのことを感じさせる1作だった。


 前作『東京喰種 トーキョーグール』では、人間社会内部に人間を捕食する新人類・喰種が紛れている世界の東京で主人公の大学生・金木研は“大食い”と恐れられる喰種・神代利世に襲われた時に起きた事故がきっかけで不幸にも利世の内臓を移植され、喰種と同じく人肉しか食べられない存在になってしまう。


 金木は喰種を助け人間と共存していく道を模索している老人の喰種・芳村やクールな女子高生の喰種・霧島トーカと出会い、彼が経営する喫茶店“あんていく”で働き始める。そして喰種を発見し駆除する国家組織CCGの喰種捜査官との戦いを経て、成長した金木は仲間たちとつかの間平和に暮らしていた。本作ではその後の話が描かれる。


 今作で驚いたのは原作の使い方の潔さと贅沢さだ。1作目も原作の1〜3巻だけをまとめたコンパクトな話になっていたが、『東京喰種【S】』は4巻から5巻の途中までだけを忠実に映画化している。原作は計30巻の大長編であるため、大胆な決断と言える。


 上映時間も102分とコンパクトかつ原作に忠実で、エピソードの増減もほとんど感じさせない。唯一あるとすれば、原作でインパクトの強かった“喰種レストラン”の場面が変更されているが、この辺りは実写にするのがやはり難しかったのだろうか。


 前作では複数回あったバトルシーンも終盤に一点集中されている。それも原作ファンの間でも人気の高い変態“美食家”喰種の月山習を前面に押し出せば1本の映画としての強度が高まるという勝算があったからだろう。


 ただ人肉を食うことを目的としていない財閥の御曹司・月山は人間と喰種が融合した主人公・金木の肉を食すことに異常な執着を見せ、その目的のために手段を択ばず金木を追い詰めていく。とにかく見どころは月山を演じた松田翔太の怪演に尽きる。


 松田はこの月山というキャラクターに独自の解釈を見せ、アニメ版の宮野真守の強烈な演技とはまた違う抑制の効いた変態ぶりを見せる。彼が持つエレガントなビジュアルと身のこなしを強調し、ただ生きるためだけに人肉を食べる喰種とは違う自分の世界観を持った“美食家”として静かな狂気を見せていた。人肉を食べていると分かっているのに、それでも美味しそうに見えてしまう表情の演技も見事。


 月山の見せ場の1つと言える、原作ファンには人気の「ハンカチを嗅ぐシーン」なども決して下品にはならず、純粋に狂気が際立つ松田はまさに月山にふさわしい。アクションも直接的な残虐描写も前作より減ってはいるが、この月山というキャラの魅力で映画を引っ張ることができていた印象だ。


 そんな変態の月山に狙われる主人公、喰種になってしまった元一般人・カネキを演じる窪田正孝はちょっと根暗な普通の人の演技や徹底的にやられる様が上手いので月島の異常さをより際立たせる。今回は主人公としての活躍が少なく、ターゲットにされてしまう役なのだが、自身でスタントをこなすほど体を鍛えておきながら、受け身役に徹している。


 そして前作の清水富美加が降板したため、代役として本作から参加したトーカ役の山本舞香は鋭い眼光と、ハスキーな声でとても役にハマっている。


 パッと見は華奢な彼女だが、空手経験者らしい体幹のしっかりしたアクションを繰り広げ、主人公よりも主人公らしい活躍を見せ、一番おいしいところを持っていく。昨年の『SUNNY 強い気持ち・強い愛』でも女子高生グループの頼れるリーダー演じていたが、かっこいい女子高生を演じさせたら山本舞香が今一番なのではないか。実写化で一番重要なキャストの再現度に関して文句なしにクリアしているだけでも、本作は成功だといえるだろう。


 ストーリーとしては人肉を食べなければ生きていけない喰種でありながら、人間と共存しようとする非合理的な金木やトーカ達と、喰種であることを楽しみ、生きるためだけでなく美食としての人間食いを楽しむ合理的な月山の対比が描かれる。


 終盤、好きなだけ人肉を食べているため、喰種としての戦闘力も極めて高い月山に対し、食を我慢し人間に溶け込むために本来受け付けない食物まで食べて弱体化している金木達は圧倒的戦力差に翻弄される。しかしそこで金木が見せる自己犠牲で逆転を果たすという展開がグッとくる。


 『東京喰種』では、アクションシーンにおいて喰種特有の赫子(かぐね)という触手状の武器を使うので、必然的にCGを多用することになるが、今の日本のCG技術ではリアルな赫子バトルは再現できていないのではないかというのが前作での印象だった。それゆえか今回は終盤のここぞという場面でしか赫子は登場せず、肉弾戦中心のバトルになっている。この決断は功を奏したと言いたいところだが、本作で増えた肉弾戦は俳優たちが実際に鍛えてほとんどスタントを使わずに行っているのだが、カット割りが多く動きが捉えづらいうえに、位置関係もわかりにくくて残念ではあった。


 決してクオリティが低いわけではなく、上述した山本のアクションなどの見どころも多いのだが、月山が金木を追い詰めていくストーリー面の緊迫感に比べると決着となるバトルはいささか盛り上がりに欠ける。今年公開された漫画実写化映画『キングダム』での山崎賢人と坂口拓の本気の斬り合いにしか見えない剣戟や、岡田准一の異常なまでの身体能力が発揮された『ザ・ファブル』の銃撃戦、肉弾戦を見た後だと、どうしても物足りなさを感じてしまう。『キングダム』では日本屈指のアクション監督・下村勇二が演出をつけ、『ザ・ファブル』では岡田准一本人がファイティングコレオグラファーとしても参加していたことがクオリティの底上げに繋がっていた。本作に出演する俳優の身体能力の高さを考えると、改善の余地はあるだろう。


 ポストクレジットシーンでは、新たなキャラクターが登場し、3作目が製作される可能性も示唆された。キャラクターを演じる人気俳優の活躍を含め次回作により期待したい。


■シライシ
会社員との兼業ライター。1991年生まれ。CinemarcheやシネマズPLUSで執筆中。評判良ければ何でも見る派です。


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