「双子の老女」による巧妙トリック!? 万引きGメンを混乱させた「女子トイレ」での一幕

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2019年07月27日 19:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

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 私たち保安員が一番恐れるのは、言うまでもなく誤認事故を起こすこと。私自身、過去に3度も経験しておりますが、解決するまでの間は、とても悔しく苦しい思いで過ごしたことを覚えています。誤認事故と言っても、過程を見れば、着手に至ったうえで中止されるケースが多く、巧妙な罠にはめられてしまうことも少なくありません。いわゆる「当たり屋」と呼ばれる人も存在しており、証拠隠滅の成功をいいことに居直り、浅はかな知識で人権侵害を訴えてくることもありました。そうした人ほど被害者面で喚き散らし、自ら警察を呼ぶなどして騒ぎを大きくしようとしますが、その演技性は見ていて伝わるもので、関わる全ての人を不快にさせます。今回は、私の関わった事故の中でも、一番印象深い事案についてお話していきたいと思います。

 当日の現場は、S県にあるディスカウントストアD。長年にわたって毎月コンスタントに入っている現場の一つで、土地柄なのか捕捉率は高く、1日に3件の捕捉があることも珍しくありません。比較的閑静な住宅街にありながら、競艇や競輪、オートレースなどの賭博施設までバスで行ける場所にあるため、賭け事に負けた人たちによる腹いせ的な万引きや、オケラ(一文無し)になった人たちによる「やけ酒狙い」の万引きが横行しているのです。帰宅する金まで失ってしまったのか、生きるために盗みを重ねるホームレスのような方に声をかける機会も多く、彼らが発する強烈な臭いにやられて、うまく呼吸ができずに気を失いかけたこともありました。どことなく汚らしい人ばかり来るお店ですが、馴染みの店なので不審者の選別は容易です。その一方、常習者に顔を覚えられている側面もあって、あまり居心地はよくありません。なるべく早く万引きする人を捕まえて、警察署に行って座らせてもらおうと、自分のアンテナを全開にした私は、少しでも顔を隠すべく、買ったばかりのマスクをつけて売場に入りました。

 昼のピークを迎えて混雑する店内を巡回していると、酒売場の通路で眼(がん)を振っている老女に目が止まりました。商品や値札を吟味することなく、そっぽを向きながら商品に手を伸ばす姿が気になったのです。ユニクロらしきグレーのスウェット上下を着込んだ彼女は70代前半くらいで、子ども用に見える派手な蛍光色のスニーカーが、その正体を不明にさせます。顔を見れば往年の大女優であられた菅井きんさんを意地悪にしたような感じで、左手首に下げられている使い古されたナイロンの手提げバッグが、彼女のやる気を証明しているように見えました。

(常習っぽいけど、初めて見る顔ね)

 それから、缶ビールや缶チューハイを数本ずつバッグに隠した彼女は、年齢にはそぐわない素早い動きで出入口脇にあるトイレに向かっていきます。同性であることに感謝しながら、少し間をおいてトイレに入ると、何も手にしていない状態の彼女がハンカチで手を拭っていました。2つある個室は使用中で、それとなく周囲を見回すも、先程お酒を隠したバッグは見当たらない状況です。

(どこに隠したのかしら?)

 トイレから出て、そのまま出口に向かった彼女は、店舗前の駐輪場に止めてある自転車に跨がりました。売場にいた時とは違って、周囲を警戒する様子も見せずに、平然と立ち去っていきます。
釈然としないまま、持ち込まれた商品を探すべく再度トイレに戻ると、いましがた見送ったばかりの彼女が、大きな紙袋を持って個室から出てきました。声を上げたくなる衝動をこらえて、我が目を疑いつつ改めて彼女の姿を確認すれば、蛍光色だったはずの靴がグレーのサンダルに変わっています。

(一体どういうことなのかしら?)

 声をかけようにも、目切れ(途中、目を離すこと)した状況であるし、犯罪供用物であるバッグも変わっているため、それは叶いません。出口に向かった彼女は、さっきと違う場所に停められた自転車に跨ると、先程と同じ方向に自転車を走らせました。何がどうなったのか、よくわからないまま彼女を見送ります。自分の見たものが信じられない。そんな違和感を抱えたまま、その人着(人の性別、年齢や服装、持ち物などを把握すること)を脳裏に焼き付けて、しっかりと“貯金”しました。

 数日後、以前に見送った老女が、前に見かけた時と同じ服装で店内に入ってくるのが見えました。今回も大きな紙袋を手にしていますが、重量感は感じられず、一見したところ何も入っていないようです。売場に立ち寄ることなく、トイレに直行していく彼女を遠目に見守っていると、正面口からナイロンバッグを手にした老女が入ってきました。彼女もまた、前に見かけた時と同じ服装をしています。一瞬、おばけでも見ているような気持ちになりましたが、先の出来事と照らし合わせてみると、ようやくに事態が飲み込めました。

(この人たち、双子なのね。これは、わからないわ……)

 実行役と思しきナイロンバッグのきんさんを監視下に置き、その行動を見守ると、今回は高価な牛肉や加工肉を始め、メロンやいちご、それに和菓子などを手慣れた様子でナイロンバッグの中に隠していきました。商品の隠匿を終えたナイロンバッグのきんさんは、案の定、トイレに向かって歩を進めています。追尾中、たまたま居合わせた副店長を捕まえて、事情を話しながら声掛けに立ち会ってもらうようお願いすると、少し嫌な顔をしながらも引き受けてくれました。トイレ内に入って、個室の扉をノックしたナイロンバッグのきんさんが、個室内に潜む紙袋のきんさんに、未精算の商品が詰まったナイロンバッグを手渡したところで声をかけます。

「お客様、そちらのバッグに入れた商品、ご精算いただけますか」

 すると、突然に個室の扉が閉まって施錠されると同時に、ナイロンバッグのきんさんが私たちを振り払うように早足で歩き始めました。副店長に警察への通報と個室の見張りを頼み、事務所への動向に応じるよう並走して説得を試みます。

「大丈夫だから、お話を聞かせてください。逃げると大事になりますよ」
「私は、関係ない。お金は、姉が払うと思う」

 店外に出たナイロンバッグのきんさんが自転車で走り出そうとするので、ハンドルを必死に抑えて制止していると、異変に気づいた矢崎滋さんに似た店長と数人の男性店員が駆けつけてくれました。揉み合いの中、ざっと事情を聞いて激昂したらしい店長は、オラついた巻き舌で何かを怒鳴り、自転車にしがみつくナイロンバッグのきんさんを自転車から引き剥がしにかかります。いとも簡単に引きずり降ろされたナイロンバッグのきんさんは、首根っこを掴まれた猫のような形でトイレまで連行されると、待機していた副店長にその身を預けられました。それからまもなく、ドンドンと激しくトイレの扉をたたき始めた店長が、個室内に籠城する老女に向けてドスの利いた声で怒鳴ります。

「開けろ、おら! 早く出てこい!」

 それでも扉が開く気配はありません。そこで業を煮やした店長は、若い店員にモップを持ってくるよう指示すると、残った人にお尻を押させて扉を登り始めました。左手でモップを受け取り、柄の部分を下に持つと、それをスライドさせて見事に鍵を開けてみせたのです。

「なによ、あんたたち! 女が用を足しているのに、ひどいじゃないのよ!」
開けられた扉の中では、紙袋を抱えた老女が、スウェットパンツをおろした状態で便器に座っていました。店長をはじめ、居合わせた男性全員が、すぐに俯いて目を背けた瞬間が、とてもおかしかったです。

 その後、臨場した警察官に用を済ませてから精算するつもりだったと釈明した双子の老姉妹は、覗きの被害を訴え出ることで反撃に転じました。しかし、同様の前科が明らかとなり、その言い訳は通用しません。お店側も、盗難の被害届を受理するよう警察に迫りますが、複雑な展開に扱いを嫌がった警察は、双方に厳重注意をすることで、この場を収めました。

「あんたもプロなんだから、店内で声をかけるなんてこと、もうしないでくれよな」

 バカにするように私を見下ろした初老警察官の目は、いまも脳裏に焼き付いています。

 その後も、懲りることなく来店を続けている双子の老姉妹は、隙あらばといった動きで店内を闊歩し、私たちやお店の人を翻弄し続けています。もう顔を覚えられてしまっているので、2人に対しては防止に勤しむほかなく、勤務時間外の行動については把握できません。もはやお手上げといった感じなので、機会を作ってウチのエースに登場してもらって、しっかり見てもらおうと思っています。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

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