ZARAが抱える2つの地雷――「日本ではユニクロに勝てない?」「パクリ問題連発」好調の裏側

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2019年07月28日 21:32  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

ZARA公式サイトより

――ファッションライター・南充浩氏が、いま話題のファッションニュースに斬り込む!

 先進国で服が売れにくくなっている状況下において、世界規模でみれば売上高トップを独走し、その成長率と高利益率で注目を集めるのが、主力ブランド「ZARA」を擁するインディテックス社です。全世界の売上高は3兆円を超えています。

 今回は、そんなZARAの我が国における状況――好調の裏側にある“懸念材料”までを見てみたいと思います。

 「各人がすでに大量の洋服を持っていて、新しい商品に手を伸ばさない」という背景から、洋服の販売不振、過剰在庫が取り沙汰される我が国のアパレル業界ですが、ZARAはそうした環境には左右されていないと言われています。さまざまなメディアで報じられている通り、その秘密は、「高速回転による多品種小ロット生産」だとされています。これは、多くの種類の商品を少量ずつ作って店頭に投入し、小刻みに新たな商品へ入れ替えていくスタイルです。

 ZARAとは違い、通常のアパレルブランドは「目玉」となる商品をたくさん作り置いて、徐々に売り減らすという手法を取ります。その理由は、

1.1枚当たりの生産コストが引き下げられ、粗利益額(商品の販売価格から仕入原価を差し引いた金額)が大きくなりやすいため
2.糸、生地の生産を考慮すると、少なくとも半年以上のリードタイム(発注あるいは製造開始から納品までの時間)が必要となるため
3.生地や副資材(ボタン、ファスナー、芯地など)の製造・仕入れコストが抑えられるため
4.サイズ切れや色柄切れなどの欠品による機会損失を防ぎやすいため

などが考えられます。

 この手法を極限まで突き詰めたブランドが、ユニクロだと言えます。通常、メディアでは「ファストファッション」と分類されがちなユニクロですが、実は企画から店頭投入まで1年以上かけている「スローファッション」なのです。1型当たりの生産数量は最低でも数十万〜100万枚となり、売れ行き不振で生産調整を行っている我が国のほかのアパレルとは、一線を画す生産量を誇っています。

 一方、ZARAは多品種小ロット生産で知られています。これによって、売り場の新鮮さがいつも保たれるだけでなく、「値下がりまで待っていては売り切れる」という焦燥感から、消費者は定価で買うケースが増えます。この売り方こそ、「各人がすでに大量の洋服を持っている」という我が国をはじめとする先進諸国に適したシステムだとされているのです。通常、多品種小ロットを高速で投入し続けると、1枚当たりの製造コストがかさみ、商品価格は高くならざるを得ませんが、ZARAの場合、店舗数は全世界では2,000店を超えます。つまり1店舗に1型当たり10枚ずつを配送するとしても、総生産数量は2万枚となるので、商品価格を百貨店向けブランドの約半分に抑えることができるのです。

 ZARAはこの企画生産システムを導入することで、成功を収めてきたわけですが、ほかのアパレルがこれを導入することは容易ではありません。なぜなら、常に先を読む企画体制が必要となりますし、高速で次々と新型を生産する仕組みや、各店に商品を送付する物流システムが必要となるからです。このため、ZARAの優位は中期的には変わらないだろうと考えられています。

 とはいえ、世の中に完全無欠の企業は存在しません。ZARAにも、わずかばかりではあるものの、懸念材料はあります。まず、我が国市場に限っていえば、ZARAの総売上高は伸び悩み・停滞が見られるのです。ZARAジャパンは売上高を公開していないので、詳細はわかりませんが、小島ファッションマーケティング代表取締役・小島健輔さんは、独自の情報網から入手したという「数字」を、ニュースサイト「商業界オンライン」の2019年4月配信記事で公開しています。それによると、インディテックス系日本法人の売上高について、18年度は前年実績から76億円減少した約690億円と類推しており、19年に入ってから復調したとは聞かないため、よくても現状維持、悪ければさらに売上高は低下していると考えらえます。また国内の店舗数も18年からは増えていないばかりか、逆に減少傾向にあると指摘されています。

 代表的な事例でいえば、旗艦店の一つとされていた大阪・心斎橋店が、移転のため閉店しました。そしてその後、ドラッグストア「ココカラファイン」が入店したのです。インバウンド客で賑わう心斎橋筋商店街は現在、アパレル店がどんどんと減り、その跡地にドラッグストアが入店するということが続いて、「ドラッグストア商店街」へと急速に変貌しています。

 店舗というのは、家賃交渉や契約更新などのタイミングがあり、一概に「不調だから撤退した」とは言えない場合がありますが、アパレル店に比べてドラッグストアは売上高が全般的に高いため、家主がアパレル店を排除してドラッグストアに貸したがるということが増えています。ある有名アクセサリーブランドの元役員によると「ドラッグストアのトップ店舗の売上高は月額3億円もある」とのこと。年商にすると1店舗で40億円くらいあることになり、アパレル店の10倍ほどになります。詳細は明かされていませんが、恐らくZARAの心斎橋旗艦店も同様だったのではないかと考えられます。ドラッグストアの勢いには遠く及ばなかったということではないでしょうか。

 ZARAの商品は一般的に「ファッション性が高い」と言われ、店頭を見てもらえば一目でわかりますが、ユニクロに比べて「着こなしが難しそう」な商品が数多く並んでいます。そうなると、いくら「百貨店向けブランドよりも半額くらい安い」とはいえ、購買客数の上限はそう高くはならず、ユニクロのようにマス層には広がりません。田舎の老人までもが着用できるようなことには絶対にならないのです。現在、推定されている700億円内外というのが、我が国市場におけるZARAブランドの限界点ではないかと考えられます。ZARAを好むような「おしゃれな客層」をあらかた獲得し尽くしたのではないでしょうか。

 次の懸念材料は、「パクリ訴訟」による相次ぐ敗訴です。ZARAの商品企画は、有名ブランドのデザインを巧みに、良く言えばインスパイア、悪く言えばパクるところに特徴があります。これまで、業績の好調ぶりが騒がれる裏側で、数々の著名ブランドとの類似が指摘されてきたのです。

 ZARAは昨年11月、我が国のデザイナーブランド「ザ・リラクス」に、フード付きコートのデザインを完全コピーされたとして裁判を起こされ敗訴。東京地方裁判所から1041万7282円の支払いを命じられました。またイタリアのOTBグループからも、ブランド「Diesel(ディーゼル)」のジーンズ「Skinzee-SP」と「Marni(マルニ)」のサンダル「Fussbett」を模写されたとして、15年にミラノの裁判所に提訴され、3年後の18年7月に敗訴となっています。

 この2件以外でも、これまでZARAによる「デザインのパクリ疑惑」は、常にファッション業界人やネットユーザーから指摘され続けてきました。トレンド分析を速く正確に行うにあたって、ZARAはコレクションブランドや著名ブランドの商品動向に四六時中目を光らせており、「イケる」と判断した商品を、ほぼそのままコピーすることも、決して少なくはないのではないかと言われているのです。

 ファッション業界は、基本的に「パクりパクられ」の連鎖ですから仕方がない一面があるとは言え、ファッションブランドの知的所有権保護が強化される状況下では、今後、これまでの商品デザインの手法は通用しにくくなる可能性が高くなると考えられます。

 世界的には、ZARAの強さは今後しばらく続くとされています。また、我が国の市場でも急激に衰えることはないでしょうが、これらの懸念材料が影響し、今後のさらなる大幅拡大は期待できないと予想される状況にあるのは事実。日本では、一定規模を維持した「外国のオシャレブランド」として、現状維持が続くのではないでしょうか。
(南充浩)

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