フィルムコマや「ONE PIECE 0巻」など、“入場者プレゼント”は映画館に何をもたらしたか

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2019年07月30日 14:02  リアルサウンド

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立川シネマシティ

 東京は立川にある独立系シネコン、【極上爆音上映】等で知られる“シネマシティ”の企画担当遠山がシネコンの仕事を紹介したり、映画館の未来を提案するこのコラム、第39回は“入場者プレゼント”について。


参考:映画館のネット購入システムに求められるものとは? 新時代の映画館に向けて


●入プレってどうなの!?
 先日上映中の『ガールズ&パンツァー最終章 第2話』で来場者特典として生コマフィルムが配布された週に、シネマシティに「フィルムくれくれおじさん」が出没しました。劇場ロビーや館の入り口付近、挙げ句の果てには上映スクリーンに入ってきてまで「いらないフィルムはないか」とお客様に聞いて回るのです。


 彼自身が熱狂的なファンというならまだしも、ボスらしき誰かと電話連絡しながらやっていたことからおそらくは転売屋で、まったく迷惑です。何度注意しても現れるので最終的には警察に来ていただいたのですが、金銭の授受がない以上、連行したり、強く警告することもできないとのことでした。やっかい極まりない。


 来場者特典、入場者プレゼントと呼ばれる、入場時に何かしらをプレゼントするという施策は、特にアニメーション作品においては、かなりの作品が行っています。


 そのことで熱狂を生み出したこともあれば、それゆえにいくつもの問題も引き起こしたこともありました。このことから「入プレってどうなの!?」と感じている映画ファンの方も多いかと思います。


 そもそもこの「入プレ」、いつ始まったのかというのは調べてもよくわかりませんが、入場者プレゼントと言えば誰もがぱっと思いつくのではないかと思われる『ドラえもん』では1984年から配り始めたようです。


 おそらく始めようとした最初の発想は「お菓子のおまけ」「お子様ランチ」と同様でしょう。ちょっとしたおもちゃなんかをつけることで子どもを喜ばせたり、子どもを喜ばせたい大人への販促になるわけです。


 ところがアニメやアイドルのファンの年齢が上がってくるにつれて、それらもコレクタブルなアイテムとして価値が高まっていき、やがては映画を見せることと主客転倒するほどの強力な販促ツールに進化していきました。


●入プレをめぐる事件となった“フィルムコマ”
 入プレをめぐる事件の中でも最も名高いのが、『劇場版まどか☆マギカ 新編』の公開時に入場者プレゼントを受け取るや否や、映画を観ないできびすを返して退場してしまうお客様に対して、ある映画館のTwitter担当者が「一個人のファンとして不快です。映画を楽しんでください!」と苦言を呈したところ大炎上。劇場側が謝罪し、一時アカウント停止になったというものでしょう。


 このTwitter担当者はきっと若かったのだろうと思います。僕も20代なら同じようなことを言っていたかも知れません。何しに来やがったんだと。映画館とは闇の中で異世界へ誘ってくれる、いわば神殿だぞ、と。僕にとっては映画館はサンクチュアリみたいなものですからね。


 ですが、古くはビックリマンチョコでシールだけ取ってウェハースが大量に捨てられたり、新しいものならインスタ投稿後にタピオカを飲みかけで街中に捨てたりなど、いくつもいくつも同様の話を知ってしまった汚れた大人としては、気持ちはわかるんだけど、ナイーブだなあ、と当時思っていました。


 すでに人気アイテムだったフィルムコマを大人気アニメで配ったら、類似のことが発生するのは想定内ですからね。当然のことが当然に映画館でも起こっただけです。


 深夜アニメの劇場版が作られるようになってきてから、入プレは週替わりで別のものを配るようになったり、しかも同じものでも絵柄が異なるものが何種類かあったりして、露骨にリピート鑑賞を促すようになってきました。


 元々深夜アニメ作品ゆえに対象が狭く、そもそもの観客の数が多くないため、それでも売り上げを上げようとすれば、これは同じお客様に繰り返し繰り返し観てもらうほかありません。


 映画に限らずですが、特にアイドルやアニメ関連ビジネスは、もうこういう類いのやり方以外ない、というところまで来ていると思います。


 特典をつけることにあまりにも強い効果があるので、今さらもうやめられないのです。


 例えばプレゼントのモノによっては、映画の公開3週目より4週目のほうが入場者が多くなる、というような通常の興行パターンではありえないことが起こったりすると、配給会社も、映画館側も「入プレ様々」ということになります。


 またファンの側にとっても、先述のように転売屋が出没してオークションやフリマアプリで高値がつくくらいですから、欲しい人、楽しみにしている人がたくさんいるということでもあります。


 特にフィルムコマは『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』のソフトの特典としてついてきたもので、ヒロイン綾波レイの笑顔のカットのものにオークションで十数万円の値がついたり、『劇場版 マクロスF』の入プレでは、当時はまだ実際に使用されてたフィルムを使用していたために「映画泥棒」のシーンなど本編と関係ないものが紛れ込んだのをネット掲示板でさらしあうネタ祭りが大流行するなど、様々な入プレの中でも話題に事欠かない最も人気あるアイテムです。


 とりわけかつてリアルに使用していたフィルムをカットしていた時代は、どのカットが含まれるかの当たり外れのダイナミズムが大きく、これ自体がエンターテインメントとして成立していたわけです。3種類や5種類のポストカードで何が出るかというのとは比べものにならないギャンブル性の高さがたまりません。


 推しキャラが映っていたら大興奮、ハズレたらハズレたで「おい、これ真っ黒でほとんどなにも映ってないよ!」と鉄板の笑い話にもなるという一石二鳥。これは本当に優れモノのプレゼントアイテムです。


●映画館側は入プレに依存してはいけない
 他にもとんでもない成果を上げたのには『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』の入プレ「ONE PIECE 0巻」なんてのがありました。ジャンプコミックスの装丁そのままという抜群のアイディアで、それを求めて連日満席連発のとてつもない混雑になったものです。あれはファンなら誰もが欲しいに決まっています。


 つまりはこの入場者プレゼント問題、送り手と受け手との共犯関係がすでに強固にできあがってしまっている、というのがこのコラムの結論です。


 多少のいざこざや、純粋に映画を観ることを楽しんで欲しい気持ちが害されるなどのデメリットは、圧倒的な販促効果を前にしては目をつぶらざるを得ないでしょう。経済効果の強力さに、これは映画カルチャーにとってどうなのか、という問題がまともな議論の俎上にあがることすらないでしょう。もし無くさなければならなくなったら、アニメ映画の制作自体大幅に減少するのではないか、と危惧するくらいです。


 それはどこかのアイドルのシングルCDに人気投票の券を「入れない」という選択肢がないのと同じことです。外野はいろいろ批判をしても、ファン内部では何十枚、何百枚と同じシングルCDを買うことそれ自体がエンターテインメントなのです。券を封入しなければ売り上げが何分の1になってしまうことでしょう。一度始めてしまったら、もうやり続けざるを得ないのです。


 面白いことに、この入場者プレゼントカルチャーの浸透は、新しい映画の楽しみ方を生み出してもいます。


 ここ数年だと思いますが、アニメに限らず同じ映画を何度も繰り返し鑑賞するというのが、特殊な楽しみ方ではなくなってきています。もともとミュージカルなんかでは珍しくはなかったですが、それ以外の作品でも一般的になりつつある。入場者プレゼント施策によって半ば強制的に繰り返し観たところ、それはそれで楽しいということをファンが発見していったことも要因のひとつと言えるのではないでしょうか。


 僕が仕掛けた【極音】【極爆】の成功による「映画館ごとの聞き比べの面白さの発見」もその要因のひとつだと自負してますが(笑)。


 入場者プレゼント施策は今さらやめられない状況が固まってしまいました。しかし、映画館側がそれに甘えるのは良くないでしょう。必ずしもすべての入プレが大きな効果を出すわけもなく、手間だけ増えてお客さん増えず、ということもよくあることです。


 やはり映画館は、映画そのものの鑑賞体験できちんと集客できる体制を作っておかなければ、自分たちの立ち位置を見失うことになります。僕らの「売り物」はあくまでも、フィルムコマやミニ色紙ではなく「時間と空間」であるはずです。上質な鑑賞時間と鑑賞空間をいかに作り出すかに情熱を傾けるべきでしょう。【極音】【極爆】は鑑賞体験それ自体によってリピーターを生み出し続けています。


「入場者プレゼントをもらえれば映画は観なくていいと思っていたけど、劇場来てみたら観ずにはいられなかった」


 こう言わせてこそ、映画館のスタッフ冥利に尽きるというものです。やり方なら、いくつもある。


 You ain’t heard nothin’ yet !(お楽しみはこれからだ)


(遠山武志)


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