『凪のお暇』のキーワードは「変わりたい女と変わってほしくない男」 原作を上回る慎二の存在感

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2019年08月02日 10:11  リアルサウンド

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(c)TBS

 漫画原作のドラマが中心の時代にあって、単に漫画をなぞるのではなく、ドラマ独自のテーマが必要なときが来ているのではないか。


参考:中村倫也が提示する様々な幸せの形 『凪のお暇』が描く“持つ者と持たざる者“


 ドラマ『凪のお暇』第1話の主人公・凪(黒木華)の状態を説明するならば、会社で空気を読みすぎてみんなにあわせてばかり、でもひとつだけ持ち札があるとしたら、内緒で同僚の慎二(高橋一生)と付き合っているということ。しかし、その彼氏は自分と付き合っていることは周囲には隠していて、しかも結婚してくれそうな気配もない。ある日、凪は会社でショックを受けて倒れ、そのまま会社を辞めて郊外のアパートで自由を謳歌するが、28歳、独身、無職、もしこのまま貯金がつきたら……と不安がよぎる。


 と、ここまでなら、よくあるドラマだ。特に、アラサー女性が独身というと、すぐに崖っぷちと煽るようなものも多いが、本作は、それだけが言いたいのではないようにも思える。


 凪を救ってくれるのは、凪の住むことになったアパートの住人たちだ。特に、凪のアパートの上の階に住む独居老人の緑(三田佳子)の存在感が良い。しかし、凪が緑を初めて見たときは、彼女が自販機の下の小銭をあさり、パン屋でパンの耳をもらいうけていたために、非常に悪い印象を持ってしまっていた。だが、凪が二階からの落とし物を届けたことがきっかけで、緑との交流が始まる。以外にも彼女は映画好きで、彼女なりの豊かな暮らしを営んでいたのだ。


 凪が他者、それも自分と似たような年齢や場所にいる人以外の他者と知り合うことが肯定的に描かれていることで、ドラマを信頼する要素になっているように感じる。また、アパートの住人には、鍵っこの小学生のうらら(白鳥玉季)や、家でゴーヤを育てている独特ののんびりした空気を持つゴン(中村倫也)など、人との出会いが彼女を変えていこうとしているのがわかる。


 一方で、慎二の存在は原作よりも大きいように感じる。慎二は凪に対して酷い扱いを繰り返すのだが、ドラマでは、1話の終盤で、彼がなぜそんな酷いことをしてしまうかという種明かしが丁寧にされている。しかも、その順序は原作とは少し違い、1話の段階で誤解がないようにされている。だからこそ、視聴者は慎二が単なる悪い男ではないという目線で見られるのだ。


 慎二が単なる悪い人間でないことがよく伝わるのが、凪を訪ねてアパートに来た際、凪を待つために緑の家で映画を見るシーンである。凪と同じように、他者を求めているような気持ちが慎二にあることを、少しほっとした気持ちで見てしまった。それは、慎二にも変わる余地があるということではないだろうか。


 本作を見ていると、凪よりも救済が必要なのは、慎二のほうではないのかと思えてくる。原作の冒頭では、そこまで慎二に肩入れしてしまうような場面はまだなかったが、そう思わせてしまうのは、ドラマの作りと、高橋一生の存在感ゆえなのかもしれない。


 しかも慎二は、1話で同僚に対して「空気は自分で作るものでしょ、読む側にまわったら負けですよ」と言っているにも関わらず、実際には誰よりも空気を読んでしまっているのが痛ましい。その結果、残業中の男だけのノリで、凪という彼女のことを「あっちがいいから会ってるだけ」と得意げに言ってしまうのだから、男同士の強がりの空気に迎合して自分の気持ちを封印していることにしかなっていない。


 慎二は別の場面で、凪という彼女の存在を明かさないのは、友人が彼女と別れたばかりで言えなかったという。優しい空気の読み方をしているときもあるが、どっちにしても、彼が空気を積極的に読むのは、男同士のコミュニティに対してと、場を支配するためであると2話までの段階では描かれている。


 凪は、そんな慎二から逃げてリセットしようとしているのだが、慎二が「リセットなんてさせない」とはっきり言うのは、完全に“呪い”としてとっていいだろう。凪は会社を辞め郊外に引っ越したことで、アパートの住人や単に合わせるだけでない友人ができ、変われる可能性が大きいが(慎二が追ってくることを除いて)、慎二がこのままでいることのほうが、重要な問題なのではないかと思えてくる。慎二の呪いこそなんとしてでも解かれなくてはならないものなのではないだろうか。


 少しだけ慎二に救いがあるとしたら、凪のことが好きという気持ちが自分でわかっていることと、素直に泣ける気持ちと場所があるということだ。2話で慎二行きつけのバーのママ(武田真治)のセリフに「変わりたい女と変わってほしくない男」というものもあったが、その視点で本作を見ていくのもありかもしれない。(西森路代)


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