JUVENILE(OOPARTZ)×Toyotaka(Beat Buddy Boi)と考える、パフォーマンスを加速させるテクノロジーとは?

0

2019年08月02日 18:41  リアルサウンド

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

リアルサウンド

写真

 HIPHOPエンターテイメント集団・Beat Buddy BoiのToyotakaが主宰をつとめ、クリエイティブファーム・THINK AND SENSEの技術協力を得て実現したライブイベント『JIKKEN』(6月25日・渋谷 Studio Freedom)。身体的パフォーマンスとテクノロジーが相乗効果を生み出し、その名の通り実験的でありながら、その場でしか味わえない貴重な体験を観客にもたらした。


 今回は同イベントについて、主宰であるToyotakaと、以前トークボックスについて語る記事に出演してもらったJUVENILE(OOPARTZ)による対談を行ない、イベント立ち上げの経緯や、パフォーマー視点の「エンタメ×テクノロジー」に対する考え方、JUVENILEが行なった“リアルタイム作曲”の裏側などについて、じっくりと話を聞いた。(編集部)


(参考:TikTokでの“トークボックス講座”も話題 JUVENILEが語る「トークボックスの魅力」


・「『ライブで曲を作りたい』と僕も思っていた」(JUVENILE)
ーーまずは『JIKKEN』を立ち上げた経緯について聞かせてください。


Toyotaka:僕はもともと、15年間ダンサーとして活動していて。ダンスだけでライブをしたり、ラッパーが入ってダンスボーカルグループのような形になったりしてきたんですけど、その中で「日本には実力のある色んなパフォーマーがいるのに、こんなにも光が当たっていないのか」ということを思わされ続けてきたんです。今後はそういった人たちにスポットライトを当てられるような活動をしていきたいと思い、テクノロジーとパフォーマーを掛け合わせた『JIKKEN』を立ち上げました。


ーーパフォーマーに光が当たっていないというお話でしたが、ダンスに関してはここ10年くらいで良い方向に変わってきた面もあると思います。


Toyotaka:そうですね。スポーツ的な側面でも、エンタメのショーとしても取り上げていただくことは増えましたが、僕が思っているところには光が当たってないと感じていて。とはいえ、頑張れば頑張るほど一般に伝わらなかったりするものでもあるので、そこを解決するためにTHINK AND SENSEというテックチームの力を借りて『JIKKEN』を行なうことになったんです。


ーーTHINK AND SENSEと繋がったきっかけは?


Toyotaka:最初は大学のダンスサークルの先輩を介して「プロジェクションマッピングでダンスエンタメみたいなものを作れないか」と相談されて、社長の稲葉繁樹さんとお会いしたんです。話を聞いているうちに、プロジェクションマッピング以外にも様々な技術を持ってらっしゃって、それをフル活用できるんじゃないかと。


ーーパフォーマーとして色んなジャンルの表現者が参加したわけですが、その中でJUVENILEさんに声をかけた理由は?


Toyotaka:僕らの付き合いはお互い大学生のころからなので、相当長いんですよ。グループの楽曲を作っていただいてたり、ダンスバトルのDJとして回してもらったり、色んな現場で今まで戦ってきた仲間なんです。彼のトラックメイキングの制作過程もたくさん見てきたんですよ。「3時間で区切って曲を作りましょう」みたいなことをやっていると本人からも聞いていたので、「百戦錬磨のJUVENILEに生でトラックメイキングをしてもらおう!」とご飯に誘って、「色んなアイディアが欲しい」と話しながら、パフォーマンスの内容を決めていきました。


JUVENILE:「ライブで曲を作りたい」というのは僕も思っていたことなんですよ。そんなタイミングで声をかけてもらったので「渡りに船だ!」と思って、色んなアイデアを投げました。ライブで作る意味を考えたとき、一番面白いのはその場で録った声で曲を作ることかなと考えて、開演前のフロアでフィールドレコーディングして曲を作る、という形に決まったんです。


ーーマイクを持ったスタッフが、開演前のお客さんに声を入れてもらったりしていましたよね。曲をリアルタイムで作っても、それが本当に今作ったものなのか分かりづらいところがあると思うんですけど、声をその場で録って使うことで、よりリアルタイム感を味わえてよかったです。


JUVENILE:トラックメイキングをしている様子はYouTubeにも上がっていますが、動画だと全部編集されているじゃないですか。でも、今回は会場に入ったらフロアの真ん中でもう曲作りが始まっていて、パフォーマンス中もずっとPCを触っていて。ああいう形で作ってる時間を共有してもらうというのは、今まであんまりなかったと思うんです。


ーー僕も作曲のイベントやセミナーみたいなものに行くんですが、リアルタイム作曲といっても1回後ろに引っ込んだり、ワンコーラスだけだったりします。フロアの真ん中で曲を作り続けるのは異様な光景でした。


JUVENILE:めちゃめちゃジロジロ見られました(笑)。しかもヘッドフォンでモニターの音を出しているので、周りの人からすると、ただ鍵盤をカチャカチャやってるだけに見えていたかもしれません。


ーー絵面がすごい面白かったです。終わった後に「ギリギリだった」とお話しされていましたが、側から見ていると何がギリギリだったのかよくわからなかったんですよね。


JUVENILE:曲の構想はなんとなくあったんですけど、想定してなかったミックスが結構大変でしたね。ライブ中にスピーカーから出る外音をずっと聴いてたので、「この場で作った音源も負けないようなミックスにしないといけない」と思って。あとは、とにかくエラーやクラッシュを避けるためにサードパーティーのプラグインを使わないようにしていて。Cubaseにデフォルトで入っているものだけで、ギリギリまで、ああでもないこうでもないとミックスしてたんです。


ーー開演から出番まで1時間くらいでしたが、ミックス・バウンスする時間も含めてだったんですか?


JUVENILE:バウンスは時間がなかったのと、リアルタイムでもシンセを弾いていたこともあって、バッファを短いままでミックスしなきゃいけなかったですし、「X times(合図が出るまで繰り返す)」とか「ここだけ抜く」とかも本番ではありえると思ったんです。そのまま流したら、案の定X timesがありました(笑)。


Toyotaka:ありましたね。


JUVENILE:思ったよりZiNEZ a.k.a KAMIKAZEの時間が長くて、「ヤバイ、ヤバイ!」って言いながら調節していたんです(笑)。


ーーこちらからはわからなかったですが、そんな攻防があったんですね。


JUVENILE:そうなんです(笑)。でも、時間を縛って作るというのは、結構やっていることでもあって。家が近所のミュージシャンたちを集めて、そういう縛りで曲作りをするんですよ。スタジオミュージシャンって「はい、今フレーズを出してください」みたいな問答無用のシチュエーションが結構あるんですけど。若手でいきなりそんなシチュエーションは訪れないので、「いざという時のために遊びでトレーニングしようぜ」という感覚で招集しています。僕が鬼のように怖いクライアント役で、「はい、今出して。2回しか聴きません」みたいな(笑)。とはいえただの遊びではなくて、それがそのまま作品としてネットに上がるから、名前も出るし、責任も緊張感もある。そういうことを繰り返したからこそ、時間がない中で人に聴かせられるものを作ることには慣れていましたし、OOPARTZのライブではマニュピレーターみたいなことをやりながら鍵盤・トークボックスを演奏するという役割でもあるので、この2つを同時に走らせていました。


ーートラックメーカー・パフォーマー・マニピュレーターという3つの顔が同時に出たイベントでもあったと。


Toyotaka:そう考えると、マジですごいですね。


JUVENILE:まあ、そこは分かり合える人同士ですごいと思ってもらえればいいかもしれません。トークボックスも「あまり仰々しくしない」という僕の中での美学があって。涼しい顔をしながらステージに立って、だんだん「すごくないんじゃないか?」って思えるくらいがカッコいいなと。『JIKKEN』でも上西さんやZiNEZくんが涼しげな顔で鉄棒やフリースタイルバスケをやっているのがカッコよかったわけですし。


ーーすごすぎて頭が置いていかれたり、理解しようという感覚が遮断されて「すごい」という思いだけになる瞬間があるというか。


JUVENILE:テクノロジーって往往にしてそういう感覚を加速させてくれるところがありますよね。


・「パフォーマーのすごさを加速させるテクノロジー」が欲しい(Toyotaka)
ーーパフォーマー側からすると、今回のTHINK AND SENSEの演出のような視覚効果がつくと、普段よりも大振りのパフォーマンスができたりするんでしょうか。


Toyotaka:空間演出をやっていただけるのでより世界観が伝わりやすいですね。あと、今回面白いなと思ったのは、テックの人たちの発想って「テクノロジーのすごさを理解させるためのパフォーマンス」という出発点の思考が多いんですよ。でも、パフォーマーの僕からすると「パフォーマーのすごさをブーストさせるためのテクノロジー」が欲しいんです。そこを議論しながら作っていくのは大変でしたが、お互いに持っていないものを引き出す感覚で楽しかったです。今回だと、MIDIパッドを叩いてAbelton Liveに入力した音を、Touch Designerを介してステージ後ろのLEDディスプレイにリアルタイムで出力する、という演出とか。リハでめちゃくちゃ時間がかかってしまったんですけどね(笑)。


ーーJUVENILEさんの話に戻すと、僕が面白いなと思ったポイントもいくつもあるんですけど、途中で1回解説タイムを入れて作った、というところも大きかったと思うんですよね。あれによって「何を作っているか/どう作っているか」がすごくオープンになったというか。


JUVENILE:そうですね。初期のタイムテーブルでは後で解説する予定だったんですが、他のタイムテーブルとかの兼ね合いもあって、手前にやったんですよ。


Toyotaka:もともと、JUVENILEからも「途中経過を説明して、実際どうなるかワクワクするのとかよくないですか?」という話はあったので、そうしてみようと思ったんです。


ーー解説タイムでは、音を波形にしたり、切って編集してループにしたりというトラックメイキングの部分を見せたと同時に、グラスの音などの“音程の取りやすい音”みたいな話もしていましたよね。


JUVENILE:音程はどんなものにもあるんですけど、グラスとグラスをキンってぶつける音は音程がわかりやすいんです。なぜかというと、ぶつけた後も震え続けるからなんです。当日はその音を音階に当てはめて……確かファ#だったと思うんですけど、それをベースに作っていきました。


ーー曲の尺はあらかじめ決まっていたんですか?


Toyotaka:「パフォーマーはそれぞれこのビートの方が多分、活きると思う」というのは事前に相談しつつ、「調子に乗っていっぱい踊っちゃうから、X timesになると思う」ということも前置きしていて(笑)、見事に対応してもらいました。


JUVENILE:結果的に3パターンのトラックになりましたが、打ち合わせの段階とかでは5パターンぐらい作る想定でした。5パターンだったら間に合ってなかったかも。


Toyotaka:「実験、失敗!」だったね(笑)。まあ、それもそれでリアルな感じがしていいかなと思ったんですけど。


JUVENILE:最強の免罪符ですね(笑)。


ーーいち観客として、今回の実験は「大成功」という風に思うんですが。


Toyotaka:いえいえ、修正点だらけです。初めての試みではありますし、会場としても音の制限があったり、映像が間に合わなかったり、パソコンの機嫌でリハの時間が入れ替わったりと、ハプニングだらけだったので、無事終わって本当に良かったというのが本音ではありますね。本番もし止まった時の想定もしなければいけませんでしたし。僕はヒューマンビートボックスで繋ごうとしてたんですけど。


JUVENILE:最終的にはマンパワー、フィジカル頼りになるという(笑)。


Toyotaka:本当そうだよね。パフォーマーも日本一・世界一の人たちを集めてやっているので、そこに関しては信頼がおけますし、何があっても大丈夫だろうという気持ちはありました。


ーーたしかにインプロ的な動きが得意な方たちでもあるわけですからね。


Toyotaka:なんでもできちゃうんですよ。自分たちの表現を追求してきた人だからこそ、その表現をできるだけ変えないでエンタメにしたいっていう思いがあって、テックの力をお借りしている部分があるんです。


ーータップダンスやラップも、あれだけわかりやすく見せてもらうとよりスムーズに入ってきます。


Toyotaka:アーティスティックな表現が欲しくて、安達雄基くんのパートも僕が演出含め色々考えてみたんです。ラップとまったく同じようなフロウでやったらどうなるかとか、そこにダンス入れ込んだらどうなるか、みたいな。でも、タップに関しては2つぐらい削っちゃった演目もあって、次回以降の楽しみにして欲しいです。


ーー改めて解説すると、タップを踏んでいる床のマイクから音を録って、その波形をLEDスクリーンに投影するというものですよね。


Toyotaka:はい。本当はお客さんの声援なども読み込めるので、今後はもう少し色んな演出ができそうです。


JUVENILE:見てましたけど、ほぼレイテンシーがなかったですよね。音が出て読み込んで波形になって映す、という結構遠いルートを通ってるけれど、ほぼリアルタイムでしたもん。とはいえ、こうやって説明しないとわからない部分もあるわけなので、もっと報われる見せ方もあるかもしれないですね。


Toyotaka:そこは俺も今回ちょっと反省していて。なかなか「実はリアルタイムで音を読み込んでるんだよ」という風に見せるのが難しかったんですよ。一つひとつ解説したら、1時間の半分が説明になっちゃうじゃないですか。


JUVENILE:そういえば、なんでトータルタイムが1時間なんですか?


Toyotaka:正直、1時間半にも2時間にもできるんですけど、お客さんに「うわー、もっと見たかった!」と思って帰ってほしかったし、ダンス界隈ってぎゅっと凝縮したイベントがあまりないんですよ。ダンス界隈だと内向きなことが多くて、DJタイムがあって、ショーがあっての繰り返しで。だからこそ、1時間の中でどれだけドロドロの濃厚なものを詰められるか勝負してみたいなと思って。


ーーたしかに、新しい情報って多すぎると脳が追いつかないですもんね。あれくらいがちょうど覚えていられるいい長さというか。


Toyotaka:間違いないです。


ーーそういえば、今回イベントを立ち上げるにあたって、参考になったパフォーマーや考え方はあるんですか?


Toyotaka:強く残っているものはいっぱいあるんですけど、代表的なもののひとつはKREVAさんの「ひとり武道館」ですね。ラップしてDJして、その場でループステーションで音作って、ラップの韻を解説して、というのを一人で全部こなしている。そこで、僕1人では絶対無理だけど、心強い仲間たちがいたら多分できる、って思ったのは1つのきっかけですね。あとはSIRO−Aさんの単独公演で、開演前にお客さんの写真を撮って、最終的に全員の写真がマッピングされるというパフォーマンスを見たことは、今回JUVENILEにお願いした内容にもつながっていると思います。また、Netflixで『アート・オブ・デザイン』というオリジナル番組があるんですけど、そこでエス・デブリンを特集した回も衝撃でした。カニエ・ウェストやビヨンセ、U2などのライブステージをデザインしている方を取り上げたものなんです。僕はダンスや音楽で人を感動させたいとずっと思ってたんですけど、ゴールが同じなら手法は問わないんだな、空間演出でもこんなことができるんだ、とかなり影響を受けています。


ーーここまで『JIKKEN』の種明かしをしていただきましたが、この実験は続いていくのでしょうか?


Toyotaka:続きますね。個人の思いとしては毎月やりたいくらい。


JUVENILE:え!?


Toyotaka:思いとしては、ね(笑)。もちろん毎回ブランニューなものというよりは、面白いコンテンツをどんどん作っていく、という形で。そういうものは色々残してマイナーチェンジもしつつ、最終的にシルク・ドゥ・ソレイユみたいに長く色んな人に楽しんでもらえるものを作らないと、ムーブメントにはなりにくいのかなと。


JUVENILE:同じことを長い間やっていけるって、1番いいですよね。


Toyotaka:とはいえ、「常に進化したい」ってずっとやってきている人たちだから、同じものを1年やらされることは絶対嫌だと思うので、そこが悩みどころです。だから、お客さん参加型のパフォーマンスを増やすことで、その日にしかないリアクションや曲ができる環境にしたくて。やっていることは一緒だけど、毎回見え方が違う、というのが理想です。


(中村拓海)


    ニュース設定