【品川同性愛者殺人事件・後編】男への依存と「11の偽名」――嘘で飾り続けた女の欲望

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2019年08月04日 22:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

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 胸や腹などを18カ所刺され、死後1カ月が経過してから自宅で発見された鈴木友幸(ゆうこ・当時39)さん。マンションで一緒に暮らしていたのは、かつて新宿2丁目でバーを経営し、行く先々でピンクのドンペリを開けて飲み歩く、華やかな生活を送っていた女だった。「魔女」「帽子の志麻」と2丁目で呼ばれていた、前田優香(事件発生当時41)と鈴木さんは恋人関係にあった。

(前編はこちら)

「バーをやってる」「新宿に店を出させる」恋人の前で飾り続けた嘘

「あんた、武蔵小山なんかで店をやってるのもったいないわ。私が新宿に店を出させてあげる」

 武蔵小山のスナックでもドンペリを開け、ブランド物の服に身を包み続けていた優香は、しかも鈴木さんにこのような甘言まで弄していた。「新宿でバーを経営している」こんなことも得意げに語っていたという。鈴木さんは優香の嘘を信じ切っていた。だが店のパートナーはもちろん、鈴木さんの母親も店の客たちも、優香を嫌い、鈴木さんは店の経営から手を引くことになる。だが、優香が店を出してくれる、彼女はそう信じていた。

「朝も昼も夜も、毎日優香のことばかり考えてる。早く会いたいな」
「この青い空の下に優香がいるんだね。昼も夜も優香のことを考えてるよ。もう気が狂いそうだ。早く繋がりたいね」

 こんなメールを優香にいつも送っていたという。だが、この頃、優香が金を得るには、デリヘルで稼ぐか、愛人に会う必要があった。鈴木さんが店を辞めてしまったことで生活費が入らなくなってしまったが、一緒に暮らしている今、定期的に出勤することは難しい。「友人に会う」と嘘をつき、愛人の元へ通っては肉体関係と引き換えに金を得ていた。だが事件が起きる。鈴木さんに性病がうつってしまったのだ。

「おれ、お前以外の女とはセックスしてないんだから、お前にうつされたに決まってんだよ。どこからもらってきたこんな病気。こっそり男とやってたのか」

 こう詰め寄った鈴木さんは、もともと束縛体質だったが、さらに優香を束縛するようになる。愛人に会うことがかなわなくなった優香は、たちまち窮し、今度は鈴木さんの預金をこっそり引き出すようになった。だが、これも鈴木さんにバレてしまう。不信感を持たれながらも、金を得るあてもない優香は、鈴木さんの預金を引き出し続け、事件の直前、とうとう鈴木さんの預金が底をつく。

 そして2005年3月1日、事件は起こった。

 この日の夜、優香の身支度が整う前に、鈴木さんがタクシーを呼んだことで口論が始まる。優香は尋ねた。

「私と付き合ったこと、後悔してるの?」

 鈴木さんはこれを受けて、返した。

「お前と一緒だよ。お前、偉そうなんだよ。何様のつもりだよ」

「このxxxxが!」

 鈴木さんは、このとき「直接的な『男好き』というニュアンスの言葉」を投げかけたという。具体的な言葉の内容を優香は明かさなかったが、これにカッとなった優香は殺害を決意。夜中の2時45分。台所にある包丁を手に取り、玄関先にいる鈴木さんに向かって突進しながら包丁を突き立てたのだった。

 自分を愛してくれた鈴木さんを殺害した動機を問われ、優香は小さな弱々しい声で、たどたどしくこうつぶやいた。

「いまだにわからない……。黙らせたかったのか……無意識なのか……」

怠惰で消極的、ぼんやりとした真意

 鈴木さん殺害後、彼女のクレジットカードを奪って逃走していた優香は、彼女のカードで帽子など35万円の買い物をしたのち、男性に依存しながら、かつての「大原志麻」そして「鈴木友子」「前田由子」など11の偽名を使い逃亡を続けていたが、2年後の3月に、東京北区・赤羽の健康ランドで逮捕されたのだった。

「通報で警察が駆けつけると、前田容疑者は60代の男性客3人と飲食しており、酔っていた。『前田優香だな』と聞くと、『はい』と素直に認めたので任意同行を求め逮捕した。持っていた健康ランドの会員証の名前は『たかだみゆき』となっていた」(捜査関係者)

 この時の彼女の所持金はわずか900円。事件まで自分を嘘で飾り続けた女は、人生をこう振り返った。

「当時の私は自由気ままで……我慢、忍耐、努力とか、ありませんでした……」

 そして鈴木さんに謝るのだった。

「心の底から私のことを愛し、信じていた友幸さんを殺してしまった……私なんかと知り合わなければ、エネルギッシュな40代を過ごせたのに……友幸さんの命を私の手でこんな形に……友幸さん、本当にごめんなさい」

 公判の場でこそ、彼女はこう言ったがしかし、その真意はどこかぼんやりしている。優香は鈴木さんを何度も刺しているが、理由を問われ、黙り込んだ。

優香「黙らせるために包丁を手に取りました。必死でした……」
検察官「そんなに憎くない人を何度も刺したの?」
優香「………」

 そして逃亡についても、こんなふうに語るのだ。

検察官「いつまで逃げるつもりだったの?」
優香「捕まるまで……」

 公判で見た優香は、ゆっくりと小さな声で、どこか怠惰で消極的な発言を繰り返す、覇気のない女性だった。時効まで逃げ切るという確固たる意志のもとに逃亡を続けていたわけではなく、自首するという自発的な行動を取ることができなかったのではないか。

 逃亡中の優香はいくつもの偽名を使い、新宿や池袋、大宮などの繁華街を転々としていた。最終的にたどり着いたのは北区赤羽の健康ランド。逃亡中に知り合ったタクシー運転手の家に身を寄せ、生活していた。健康ランドで見知らぬ男性に声をかけ、酒や食事を奢ってもらう日々。ある男性は、優香にこう誘われたこともあった。

「おじさんセックスしてる? 私が手でしてあげようか? でも、私ナンバーワンだったから高いよ」

 男性が黙っていると「おじさん、ダメだね」と優香は高笑いとともにどこかに行ってしまったという。

 モノで満たされてはいるが愛のない家庭で育ち、日常を酒と薬でごまかしていた優香。新宿二丁目、とあるバーのオーナーはこう振り返る。

「彼女はバブルを引きずってた。金でレズと付き合ったの。だけど、この辺じゃ皆に好かれてたわよ。みんな、彼女がどうしてこんなことをしたのかわからない」

 彼女に必要だったのはおそらく、愛情だったのだろう。本人がそれに気付かなかったことで不幸は起きてしまった。判決は懲役15年。一時は控訴したものの、間もなく取り下げ、刑が確定している。
(高橋ユキ)

<参考文献>
「新潮45」(新潮社) 2008年1月号
「アサヒ芸能」(徳間書店) 2005年6月16日号
「女性セブン」(小学館) 2005年6月16日号
「フライデー」(講談社) 2007年4月13日号
「週刊朝日」 (朝日新聞出版)2007年4月13日号
「女性自身」 (光文社)2005年6月14日号
「週刊ポスト」 (小学館)2007年4月13日号
「週刊大衆臨時増刊」(双葉社) 2006年1月3日号

このニュースに関するつぶやき

  • 久しぶりにこの事件を聞いた。本当に怖い犯人だ。
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