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学ぶ意志さえあれば年齢は関係ない――15歳のエンジニアがディープラーニング、そしてWatsonにたどり着くまで

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2019年08月05日 07:12  @IT

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写真Tanmay Bakshi(タンメイ・バクシ)氏 IBM Champions for Cloud & Honorary Cloud Advisor他、多くの肩書を持つ
Tanmay Bakshi(タンメイ・バクシ)氏 IBM Champions for Cloud & Honorary Cloud Advisor他、多くの肩書を持つ

 世界で活躍するエンジニアの先輩たちにお話を伺う「GoGlobal!」シリーズ。今回は「Sansan Innovation Project 2019」に登壇した若きエンジニアであるTanmay Bakshi(タンメイ・バクシ)氏にご登場いただく。IBM Champions for Cloud & Honorary Cloud Advisor(IBM 主任クラウド研究員兼名誉クラウドアドバイザー)、AI Developer & Neural Network Architect(AI開発およびニューラルネットワークアーキテクト)、Algorithm-ist @Darwin Ecosystem(ダーウィンエコシステム社アルゴリズム研究家)、IBMのFB-Liveのホスト、そしてTanmay Teaches(YouTubeのチャンネル)の管理人。15歳の若さでこれら8つの肩書を持つ彼を形作るのは「好奇心」? それとも「使命感」?



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●エンジニアの父が持っていた「誰でも分かるプログラム」の本が始まり



阿部川“Go”久広(以降、阿部川) まずは誕生日を確認させてください。2003年10月16日生まれの15歳ですね。



バクシ氏 はい。改めて聞かれると変な感じですが(笑)。



阿部川 ご両親がインドのご出身で、ご家族でカナダに移られたのですよね。ではタンメイくんはカナダの幼稚園や学校に通っていたのですか?



バクシ氏 はい。カナダの教育制度は、K-12といった幼稚園の年長から高校卒業までの13年間がひとかたまりになっています。僕は12歳まで学校に通いました。その後は、ホームスクール(家庭で学校のカリキュラムを実施する方式)です。



 父はエンジニアですが、プログラミング以外にもチューターとしていろいろ教えてくれます。カリキュラムがあり、父はそれに沿ってさまざまなことを教えてくれます。母や姉も一緒に教えてくれます。家族みんなで一緒に学んでいるという感じです。



阿部川 5歳の誕生日にお撮りになった写真を見せていただきましたが、誕生日のプレゼントでしょうか、2冊の本を持っていらっしゃいますね。1冊は「Gingerbread Man」そしてもう1冊は、いわゆる「誰でも分かる」シリーズのコンピュータ関連本のようなのですが……。



バクシ氏 すみません、この本はそれほど覚えていないんです(笑)。インドにいたころからですが、家には本当にたくさんの本があって、それは技術や数学や、物理学や生物学などでした。大きな書架が2つ並んでいたのをよく覚えています。その中にあった本のうちの2冊ですね。



阿部川 ではこのすぐ後に「Swift」を学んだのですね。



バクシ氏 はい、有名なコンピュータ言語の中で最初に僕がはまって、学んだのがSwiftだと思います。もちろんその前にも幾つかのコンピュータ言語は学び始めていました。データベース(DB)のソーススクリプト言語や、Windowsのバッチ、「Visual Basic」「Objective-C」そしてSwiftといった感じでした。その後も本当にたくさんの言語を学んでいます。



 今は「Ruby」や「Python」「Julia」などが気に入っています。僕は膨大な言語を学んできましたが、学ぶこと自体は大変ではありません。



●最初のアプリケーション公開は9歳



阿部川 その後、タンメイくんが9歳のときですね、T-tableを開発なさった。



バクシ氏 はい。僕の最初のiOSアプリケーションでした。このためにObjective-Cを学びました。アプリケーション開発は、とても楽しかったです。このプログラムを作ったのは、7歳のときにあった掛け算の試験がきっかけでした。僕はVisual Basicでアプリケーションを書いて九九の練習をしました。おかげで試験はとても良い成績でした。



 それで思ったんです。自分にとってこんなに役に立ったのだから、きっと他の子どもも助けることができるはずだと。それともっと多くの人に使ってもらえるにはiOSで使えるアプリにした方がいいと思い、T-table開発に至ったわけです。



阿部川 たくさん売り上げたのでしょうね(笑)。



バクシ氏 いえいえ、このアプリは無料です。私は自分で開発したソフトウェアからお金を取ったことはありません。全て無料か、オープンソースです。



阿部川 いいですね。It's for everyone(全ての人のためのソフトウェア)ですね。



バクシ氏 おっしゃる通りです。



●Watsonとの出会い



阿部川 5歳のころからコンピュータに関わり、11歳のころに「ディープラーニング」に出会い、虜(とりこ)になったと聞いています。最初はどんな風にこの技術に出会ったのですか。



バクシ氏 きっかけは「IBM Watson」(以下、Watson)でした。YouTubeで確か「世界で一番頭の良いコンピュータ」というようなタイトルが推奨チャンネルとして表示されました。面白そうだと思い、クリックしたその40分後にはWatsonに魅了されていました(笑)。それがディープラーニングとの出会いです。



阿部川 偶然の出会い、ということですね。



バクシ氏 その番組はディープラーニング以外にも、機械翻訳や、AI(人工知能)を活用したリテールビジネスなど多くの内容が紹介されていました。そこからWatsonのことを深く知るようになり「ソフトウェア開発のためのAPIツール」としてWatsonを使うことを思い付きました。



 僕は自分のYouTubeチャンネルを持っていた(注)ので、そこでWatsonの質疑応答(Retrieve and Rank)や文字変換(Document Conversion)のサービスに関するチュートリアルを公開しました。当初は、継続的にコンテンツ化していく想定でしたが、広がり過ぎてしまい、Twitterなどでそのことを発信しました。するとそれがIBMの方の目にとまって、IBM主催のイベントである「Interconnect 2016」に招待されました。そこで初めて、僕の開発した「マシンラーニング」によるアプリケーションを紹介できました。それがきっかけとなって、現在まで、IBMと一緒に仕事をしています。



※注:「Tanmay Teaches」というチャンネルを開設しており、2019年4月現在その登録者数は28万8000人を超える。



●Appleが興味を持ったヘルスケア技術



阿部川 現在手掛けていらっしゃる、ヘルスケアに関するプロジェクトや、目や虹彩などで個人を見分ける技術、もしくはその情報を守るための技術「Biometrics Security」(生体認証セキュリティ)に関するプロジェクトにとても感銘を受けました。中でも「Heart ID」(心臓をIDと見なす考え)には驚きました。「心電図」(ECG)は、先般Appleが「Apple Watch」に採用していますが、その技術に関するプロジェクトに参画されていますね。



バクシ氏 はい。現在使える技術をよりうまく使うだけでも、いろいろなことが便利になります。Apple Watchで例えれば、「竜頭(りゅうず)に触れるだけで、心臓のIDを認知して個人を認証する」といったことができると思います。



 このアイデアは「モバイルデバイスで不整脈を検出する」プロジェクトを進めているときに思い付きました。ノイズが多いデータから特定の情報(この場合は不整脈)を検知する必要があり、過去の文献を調べたところ、2005年にロシアの研究者が「ECGのデータで個人を特定する」実験をしていました。当時の実験では完璧とはいかないまでもかなり良い成果が得られたようです。当時の実験データが公開されていたので、私が独自に研究した仕組みと組み合わせ、データ特定の精度を上げることに成功しました。



 これによってiPhoneなどのデバイスを使い、指紋と心臓IDのデータの組み合わせで本人認証することも可能でしょう。ディープラーニングのアルゴリズム技術を用いれば、この例のような複雑な手続きを、非常に簡素化できます。ハードウェアもシンプルにできます。



阿部川 ディープラーニングの得意分野ですね。現代は多くの人が「ビッグデータだ」「IoTだ」「AIだ」と話題にしますが、一番重要なことは、そこにあるデータをどのように管理し、そして分析することだと思います。



バクシ氏 データが語る意味を探り当てることですね。



●ディープラーニングの悪用はどうすれば止められる?



阿部川 次の質問はセキュリティについてです。あなたはヘルスケアに関する「チップ」のご研究をされていますね。非常に簡単に例えるなら「脚に障害のある方にチップを装着すれば歩けるようになる」といった内容です。大変素晴らしいと思う反面、もし悪意のある人がそのチップのデータを盗んで悪用したとしたらどうなるのか、という心配があります。この場合、ディープラーニングが悪い方面に使われることになりますが、この点についてどうお考えでしょうか?



バクシ氏 おっしゃることはよく分かります。幾つかの側面がありますが、どんなシステムでもセキュリティが100%保証されたシステムは存在しません。システムやネットワークがあるところには必ず「セキュリティの穴」のようなものがあるものです。ないと考えるのは、ただ単にその脅威をまだ見つけることができていないだけだと思います。システムはたくさんのパーツやコンポーネントが複雑に絡んで機能していますから、その連結部分の安全性がうっかり見落とされるようなことは起こり得るからです。



 ただ、ディープラーニングは悪用もできますが、もちろん良い方向に使うこともできます。



 モントリオールに「ライヤーバード」(Lyrebird)という会社があります。この企業が扱うのは「声」に関するディープラーニングの技術です。録音した声をディープラーニング技術で解析し、音声合成でどんな会話も作り出すことができます。例えば本人が話していない内容を本人の声でスピーチさせることが可能です。一方で、音やビデオの微妙なパターンをディープラーニングで解析し、その真偽を判定できるプログラムを提供している企業があります。



阿部川 ディープラーニングの技術そのものが「良い」「悪い」ということではなく、用途や目的といったものに依存するということですね。



バクシ氏 その通りです。



●ディープラーニングの問題はディープラーニングで解決できる



バクシ氏 ディープラーニングをセキュリティに利用することも可能です。Watsonが良い例です。Darktraceという企業は、マシンラーニングの技術を用いた「セキュリティ脅威の特定サービス」を提供しています。こんな例があります。ある大手通信企業がインターンを雇いました。このインターンが仮想通貨「ビットコイン」の採掘プログラムをこの企業のサーバにインストールしてしまったのです。



阿部川 それは人間のエラーで、しかもほとんど犯罪ですね(笑)。



バクシ氏 はい(笑)。しかし重大なことは「もし発覚しなければ、その採掘プログラムはずっとサーバの一角を占拠していた」ということです。Darktraceのプログラムであれば「なぜ特定のCPUのオペレーションだけが繰り返されているのか」を検出します。通常のウイルス対策ソフトやセキュリティソフトウェアは「変かもしれないけど、攻撃ではない」とこの事象を見逃してしまうでしょう。マシンラーニングであれば、データのパターンを解析して「異常が潜んでいる」と検出できるわけです。



阿部川 「攻撃か否か」ではなく「いつもの状態か」を覚えて(学習して)検知するということですね。



バクシ氏 もう一つあります。従来のソフトウェア開発では、セキュリティを考慮するのは「プログラムが完成した後」であることが普通でした。まずプログラムがあって、それからセキュリティのことを考える、という流れです。今思えば根本的に間違ったやり方だと思います。多くの企業もようやくこのことに気付き始めたのではないでしょうか。



阿部川 最近までコンピュータを使うのはエンジニアが中心でしたから「セキュリティを意識しなくても特に問題なかった」ということはありますね。



バクシ氏 その通りです。ソフトウェアを開発するときには、最初からセキュリティのことを考えたデザインにすることが大切です。そしてディープラーニングを活用してリスクを検知し、システムを守る。この2つのコンビネーションによって、私たちが現在まだ知らない脅威が起こる前に、より能動的にシステムを守ることができると思います。



阿部川 コンピュータのおかげで、何十年前かに比較すれば私たち人間の学習曲線はずっと高いカーブを描いていますが、その進化のスピードに人間がついていっていないように思います。ですからコンピュータを使うときに、まだたくさんの、埋められていない技術の「穴」のようなものが多くあるのでしょう。セキュリティに対する脅威もその一つだと思います。あなた方のような若い方々がこの世界をどんどん変えていってほしいですね。



バクシ氏 ありがとうございます。光栄です。



 ほんの少しのきっかけと持ち前の好奇心から、あっという間にディープラーニングの有識者となったバクシ氏。ディープラーニングに造詣が深いだけでなく、過去を知り、市場の状況も見極めようとする同氏は、AI研究で常に話題となる「シンギュラリティ」(技術的特異点)についてどう考えているのか。後編に続く。


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