ホーム > mixiニュース > IT・インターネット > IT総合 > 他の人が言ったからではなく、自分がやりたいことを――15歳のAI開発有識エンジニアを支える好奇心と情熱

他の人が言ったからではなく、自分がやりたいことを――15歳のAI開発有識エンジニアを支える好奇心と情熱

0

2019年08月05日 07:12  @IT

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

@IT

写真

 世界で活躍するエンジニアの先輩たちにお話を伺う「GoGlobal!」シリーズ。前回に引き続きTanmay Bakshi(タンメイ・バクシ)氏にお話を伺う。「現在僕たちが理解できる範囲では人間を超えるような完全な人工知能は作れない」とシビアな現実を語る同氏はどんな夢を持っているのか。



【その他の画像】



●「シンギュラリティは訪れない」と考える2つの理由



阿部川 シンギュラリティ(技術的特異点)が2045年ごろやってくるといわれています。人間の脳が処理する能力をコンピュータが超えるという、人類が今まで体験したことのない時代が来ると。



バクシ氏 多くの方が「コンピュータが人間の脳を超える」といったお話をなさっていますが、コンピューティングに関して、重要な課題が幾つかあります。それが解決しない限り現実的に難しいというのが私の考えです。



 重要な課題とはコンピュータの「性能問題」と「処理時間」です。1つ例を出しますと、2009年当時IBMで最速だったスーパーコンピュータを用いて、特定の条件下における分子の振る舞いをシミュレーションしました。処理が終わるまで約1週間もかかりました。しかも2019年現在、その時間はほとんど縮まっていません。



阿部川 それはなぜでしょうか。



バクシ氏 そのためにはまず私たちの身の回りにある世界についてお話しなければなりません。私たちがいるこの世界は素晴らしいのです。例えば私が「髪をかきあげる」といった動作をしたとき、実はさまざまな微粒子が相互に接触しています。その数は膨大で、何百億という微粒子が何億種類という動きをします。しかも何か特別にコストがかかるわけでもなければ、とんでもない時間がかかるわけでもない。単にそのようなことが瞬間的に「起こる」のが私たちのいる世界です。



 私たち人間は、この現象を説明したいと考えます。自然言語や映像、音では説明が難しいので数学を発明しました。数学も完全に「物理的な世界」を説明できるわけではありませんが、今のところこの世界の物理的な事象を説明するとなると、数学を使わざるを得ません。



阿部川 私たちがする「ふとした振る舞い」を説明するために数学が必要だということですね。



バクシ氏 そうです。ですがここで問題になるのが人間の脳のデータ量です。人間の脳には、860億個以上のニューロン(神経細胞)があるといわれていますが、一つ一つのニューロンが数億の分子を持っています。その分子は億単位の原子を持っています。さらにニューロンは数億のプロテイン(タンパク質)を持っていて……、といったように恐ろしく膨大なデータが人間の脳に存在するわけです。



 たった1つのプロテインの動きをシミュレーションするだけでも、現在のコンピュータの能力では数年かかる状況ですから「人間の振る舞い」について全てシミュレーションするとしたら、どれだけ時間がかかるか分かりません。100年、いや1000年といった年月が必要になるでしょう。



●シンギュラリティを現実にする「とても処理能力が高いコンピュータ」は作れない



阿部川 なるほど。数学で「振る舞い」を表したとしても、そのデータは膨大なため処理に時間がかかるということですね。そう考えると処理能力がとんでもなく高いコンピュータを使えばいいと思うのですが、それでは駄目なのでしょうか。



バクシ氏 良いご質問です。コンピュータの処理能力を向上させる方法について、現在2つの問題があります。1つは「トランジスタのゲート数」という限界です。理論上、小さなチップにトランジスタを詰め込めば詰め込むほど能力の高いチップを開発できるといえますが、現実には無限にトランジスタを小さくはできません。



 もう1つは規模の限界です。複数のコンピュータを並列につなげることで処理能力をあげることはできますが、ある一定の台数を接続するとその台数以上はつなげても意味がなくなる限界があります。互いの機能や能力が逓減(ていげん)してしまうのです。



 これらの規模の限界とトランジスタの物理的な限界。この2つが同時に解決できないといけません。



阿部川 「人間の振る舞い」を示す膨大なデータをシミュレーションするには、膨大な数式とそれを計算する膨大な時間が必要となり、コンピュータの処理能力もやがて限界がきてしまう。このため「コンピュータが人間の脳を超えることは難しい」という理解でよろしいでしょうか。



バクシ氏 はい。ですが、そこで諦めているわけではありません。



●量子コンピュータがシンギュラリティの突破口となる?



バクシ氏 「本当に脳に匹敵するようなコンピュータ」を作るアプローチはあります。その1つが量子コンピュータです。「物理的な世界」を数学を使って解析することがどんなに大変かはお話しましたが、量子コンピュータは数式から答えを導くのではなく「微粒子を実際に相互作業させる動作」ができます。それを使えば究極的には人間の脳をシミュレーションできるかもしれません。



 ただ、結局は同じ問題に頭を抱えることになります。量子コンピュータが微粒子を実際に動作させられても、私たちはまず「1個の量子」から考え始めなければなりません。1個の量子は何億という微粒子と相互作用を起こし、それら一つ一つが何億という相互作用を伴います。それがさらに微粒子、原子、プロテイン、ニューロンというそれぞれのレベルで発生します。全体でどれほどの数の量子が相互作用するか見当もつきません。



 別の視点ではそのような膨大な処理をする量子コンピュータのスペース(置き場所)と、処理で発生するエネルギー(熱)をどう冷却するのか、という問題もあります。計算の正確さも重要です。例えばIBMは、正確性の非常に高い50量子ビットのコンピュータを開発しています。バンクーバーのある企業は、1000量子ビットのコンピュータを開発していますが、現時点では正確性がいまいちです。



 このように恐ろしく膨大で、しかも細部にわたるような複雑な問題がまだまだあります。ですから現在私たちが理解できる範囲では「人間を超えるような完全な人工知能」を作ることはできません。しかし、ずっとずっと遠い未来には「不可能なことなどない」と思います。



阿部川 (ぼうぜんとして相づちを打ちつつ)よーく分かりました。一体これほど多くのことを、今までどうやって学んできたのですか。



バクシ氏 (ちょっと、苦笑しながら)えーと……、(お父さまが助け舟を出して)それは秘密なんですよ(笑)。



阿部川 数字を駆使して、さまざまな人に会って話して、お父さまと相談して、などでしょうか?



バクシ氏 それらのコンビネーションでしょうね。私は各企業のメンターから学んでいますし、父はプログラミングについて教えてくれます。IBMではチームとして量子について学べますし、それら全てがミックスされて、僕の学びになっているのだと思います。



 加えて、私の好奇心でしょうか。なぜ人間がこのようなものを発明したり開発したりするのかに、とても興味がありますし、創造性の裏にある人間の心理ってどんなものか、どうやったらこの現実の世界をよりよく数学的に理解できるか、などにいつも興味を持っていますから、それに関連することであれば、何でも学びたいと思います。



●夢は「もっとテクノロジーに触れてもらうための基盤作り」



阿部川 そろそろ最後の質問ですが、タンメイくんの夢は何ですか。



バクシ氏 3つあります。



 1つ目は、マシンラーニングやAIなどの次世代のテクノロジーについて今後も勉強や研究を継続して、人類がより良い生活や環境で生きていくことに貢献したいです。そしてヘルスケアや教育、セキュリティの現場で実際に使えるものを作りたいです。



 2つ目は、より多くの人々がテクノロジーの世界に携わって活躍してほしいと思います。もっと多くの人がテクノロジーのことを学べるような環境や方法を作りたいです。



 3つ目は、2つ目でテクノロジーの世界に入ってくれた人たちに「次世代のテクノロジー」について研究してほしいです。次世代の技術を学ぶことはとても重要で必要なことなのですが、現実的には、未来の技術について研究している人はとても少ないからです。



阿部川 素晴らしいと思います。AIなどのテクノロジーを学んでいる人はいますが、確かに絶対数は少ないと感じています。



バクシ氏 はい。ちなみにもっと近くて明確な夢は、10万人のエンジニアとコミュニケーションすることです。現在までに1万1500人のエンジニアと交流し、それを増やすためにも多くのメディアに出ています。テクノロジーについて、そして特に次世代の技術について、多くの知見をもった人々とコミュニケーションすることは非常に重要です。



 夢として全体をまとめると、次世代の技術を確実に推進して社会にインパクトを与えること、新しいアルゴリズムを開発すること、そしてより多くの人にテクノロジーや、未来のテクノロジーについて知ってもらい、参画してもらうことです。



阿部川 タンメイくんはYouTubeなどを通じて、多くの子どもたちにコードを教えていますが、もっと多くの人々にテクノロジーを知ってほしいという思いがあるからなのですね。



バクシ氏 現在、人間が何かをしようとするとテクノロジーを避けては通れません。テクノロジーなしでは何もできない、とは言いませんが、テクノロジーは現在僕たちのすぐそばにあって、僕たちは多くのことをテクノロジーに依存しています。



 この分野を大きく広げていくには、人の力が必要なのです。高度になればなるほど複雑さは増していきますから、たくさんの人の助けがより必要になるのです。できることが増えれば増えるほど、必要とされる技術も多様化していきます。



阿部川 ありがとうございます。読者に一言メッセージをいただけますか。



バクシ氏 恐らくこれはどんな方に対してものメッセージでもあると思いますが、どうぞご自身で情熱が持てることを、一所懸命やってください。数学でも科学でも芸術でも歴史でも言語でも、そしてテクノロジーでも、何でも構いません。その分野でトップクラスやリーダーになるつもりでとにかく一所懸命やってみてください。他の人がやれといったから、ではないですよ。自分自身が情熱を持ってやれることというのが一番大切です。



 エンジニアリングやテクノロジーはとても大切なものだと思います。ですが、単にテクノロジー自体が重要というばかりではありません。重要なのは、テクノロジーをしっかり押さえて、問題の解決方法を学び、コミュニケーションするということなのです。これはテクノロジーからしか学ぶことができないと思います。そしてこれは人生におけるどんな局面にも十分応用できるものだと思います。



阿部川 きっとお父さまも同じようなご意見でしょうね。本当にありがとうございます。



●Go's thinking aloud



 その目は若い輝きに満ちあふれていた。



 大人がしたり顔でたしなめるようなテクノロジーの障害など、その情熱は、いともたやすく飛び越えていた。プログラム学習を5歳から始め、9歳でアプリを開発、11歳でAIと出会い、15歳の今、8つ以上の肩書を持ってIBMなどの世界企業と共同でプロジェクトを進める。なんというデジタルキッドだろう。



 だから恐らく「技術は無限」だと、楽観的に、ある意味無邪気に、思っているのではないかと邪推していた。だが大間違いだった。シンギュラリティの話を向けると、一転、その論調はそれまでにも増して激しさを加え、現在のテクノロジーの限界を、たたみ込むように、そして教え諭すように語り出した。その知識量や、恐るべし。知りたい欲求のしなやかさ、貪欲なまでの知識欲の凄さを、15歳の少年に学んだ。



 それでも私たちは、ITをどんどん進化させたいのだ。私たちはITを、人をいじめるためやだますため、あるいは犯罪を助長させるために、進化させたいのではないはずだ。



 その未来を創り出すのが君たち若者の力だ。それを全力でサポートして、より早く実現できるよう手助けすること、それこそがおじさんたちの使命なのだ。



●阿部川久広(Hisahiro Go Abekawa)



アイティメディア グローバルビジネス担当シニアヴァイスプレジデント兼エグゼクティブプロデューサー、ライター、レポーター



コンサルタントを経て、アップル、ディズニーなどでマーケティングの要職を歴任。大学在学時より通訳、翻訳なども行い、CNNニュースキャスターを2年間務めた。現在は英語やコミュニケーション、プレゼンテーションのトレーナーとして講座、講演を行うほか、作家として執筆、翻訳も行っている。


    あなたにおすすめ

    ランキングIT・インターネット

    前日のランキングへ

    ニュース設定