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“経歴リセット”で楽しく 「年金ちょい足しワーク」広がる

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2019年08月05日 08:00  AERA dot.

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写真ハローワークの高齢者向けの相談窓口 (c)朝日新聞社
ハローワークの高齢者向けの相談窓口 (c)朝日新聞社
 老後2000万円問題など、不安の募る定年後の生活。人生100年時代、シニアの働き方を実践者や専門家に聞いた。

 神奈川県に住むA男さん(69)は週4日、都内の百貨店の駐車場で働く。ショッピングや食事など来店目的を聞いて、いくつかあるパーキングの最適場所へ案内したり、それぞれのパーキングで車を誘導したりする。1日の実働は7時間半、朝8時から始まる早番と、夜10時に終わる遅番がある。

「仕事をしていると、おなかがすいてよく眠れる。実に健康にいいんです」

 この駐車場の仕事のほかに、毎週水曜日は介護の専門学校などで、ベトナムやフィリピンから来た外国人留学生に日本語を教えている。

「この仕事では、やりがいを感じさせていただいています」

 A男さんは従業員3千人規模のIT企業の出身。コンピューター技術者から社員教育の分野へ進み、マネジャーや本部長など管理職もこなした。

 認知症の父親の介護のため58歳でIT企業を退職するも、父は半年後に亡くなってしまう。現役時代にアジアの技術者養成に関わったため、日本語教師になる道を志した。教師になれる見通しが立ったころ、縁あってベトナムで教える話がまとまり、1年余ベトナムへ。帰国後、いずれは再びベトナムへ行こうと思いつつ、出身会社のOBが関わる会社の顧問をしたりして過ごしていた。

「そんな折、偶然『シルバーワーク中央』のチラシを見つけたんです」

 このシルバーワーク中央は、東京都と中央区が共同でシニアの再就職を支援する組織。都内に12カ所あるアクティブシニア就業支援センターの一つだ。

「3年前の春でした。行くと、今の駐車場の仕事を紹介してくれたんです。全く知らない世界でしたが、やれるのならやってみようかと思いました」

 時給に直すと約1千円。東京都の最低賃金(2018年度は985円)に近いが、月十数万円になる。日本語教師の報酬は月10万円。A男さん夫婦はともに公的年金を受けており、家計の収支はプラスを続けているという。69歳にして貯金を取り崩す生活ではないのだ。

 百貨店に車で来た来店客が最初に接するのが駐車場の案内係。15年以上働く70歳代の人が何人もいるといい、A男さんはやる気満々だ。

「私なんか、まだまだ駆け出しです。ベトナムへ行く道も捨ててはいませんが、駐車場で80歳まで働くのも一つの人生だと思っています」

 人生100年時代が現実になるにつれて浮上するのがお金の問題だ。「老後資金2千万円」問題では思わぬ誤解が生まれてしまったが、寿命が延びるとお金が余計にかかるのは厳然とした事実である。2千万円どころか、生活水準によっては3千万円でも足りなくなるケースもある。働いて収入が得られれば、その分貯金を取り崩さなくてすむ。

 シニアもできるだけ働く時代になってきているのだ。ただ、男性の場合は仕事を選びたがる傾向がある。大企業出身で管理職を務めた経験があったりすればなおさらだ。ところが、現役時代のキャリアを生かせる仕事に就こうとすると、他人と差別化できるスキルが求められる。ハードルは一気に高くなり、決して誰でもできるわけではない。

 シニアの働き方事情に詳しい日下部理絵さんが言う。

「大多数の人たちは、これまでと違う世界で働くことになります。そうすると、どうしても、これまでのキャリアを一度リセットする必要があります」

 日下部さんは元々はマンション管理の専門家。「マンション管理員」がシニアの仕事として人気化したことで、この世界に足を踏み入れた。シニアの就職支援をする各種講座の講師を重ねるうちに「教え子」たちがいろいろな業界に散らばり、事情に精通するようになった。今後は「シニア再就職アドバイザー」としても活動するつもりだ。

 それはともかく、キャリアをリセットして意識を変えるという意味では、A男さんのケースは理想的と言っていい。新しい仕事に取り組むことにちゅうちょがないし、働く姿勢にかつての管理職だったころの姿もない。

「どんな職種が希望かと聞くと、『管理職』と答える人がいまだにいます。駐車場の仕事と聞いた時点で怒って帰っちゃう人もけっこういます」(シルバーワーク中央の相談員)

 A男さんは並行して社会貢献につながる仕事にも取り組んでいる。しかも、仕事も社会貢献も「お金」に結びついている。

 日下部さんによると、キャリアさえリセットできてしまえば、シニアの目の前には広大な世界が開けてくるという。65歳までの雇用は法律で企業に義務づけられているから、ここでいうシニアは「65歳超」の人たちだ。

「その年代の仕事の種類がひところに比べるとずいぶん増えているんです。以前はシニアがハローワークに行くと、男性ならマンション管理員や警備員、女性なら介護職などの求人がほとんどでした。今は人手不足の影響もあって、仕事の種類自体が増えているのです」

 具体的にはどんな仕事があるのか。日下部さんによると、スキ間的な「おすすめ」仕事があるという。

「マンション管理員でも、コンシェルジュになると一つ格が上がります。しかも英語ができると給料が高くなる。大学や公共施設の受付もいいですよ。自治体から運営を民間企業が受託している案件だと、70歳すぎても働けることが多い。お客さんらと接しなくてもすむという点では、スーパーのカゴ整理や電気・ガス・水道の検針員も私はいいと思います。仕事の中身で言うと、コンビニよりスーパーのほうが働きやすい。コンビニは仕事の種類がとにかく多いですから」

 冒頭のA男さんのように、「いきがい」を求めてフルタイムで働くのも一つの道だが、公的年金をある程度もらえていれば、生活費のためにガツガツ働く必要はない。月5万円、10万円でも稼げれば貯金の取り崩しを防ぐ効果は十分ある。

 いわば「年金ちょい足し」のお仕事。実際、年金ちょい足しワークのシニアたちは、仕事や趣味を楽しんでいる人が目立つ。(本誌・首藤由之)

※週刊朝日  2019年8月9日号より抜粋

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