入部希望殺到の少年野球チームが「電車移動」にこだわる理由

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2019年08月06日 12:14  ベースボールキング

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野球人口の減少が叫ばれて久しい少年野球。しかし、横浜にある創設3年目の横浜金沢V・ルークスというチームには入部希望者が後を絶たないという。一体、他の少年野球チームと何が違うのか? そこには個性的な方針があった。



■個性的な方針1:練習は「腹八分目」
ルークスには従来の少年野球チームとは異なる点が多い。その一つが練習時間だ。練習は土日だけでそのどちらかは半日で終了という決まりがある。チーム創設時から指導している酒井コーチに聞いた。
「みっちり練習をしたとしても、週2日で上手くなるには限度があります。それよりも、土日の練習では物足りず、平日の学校が終わった後に自宅で素振りをしたり、野球のことを考えることの方が大切だと思っています。ですので、土日の練習は腹八分目で抑えるくらいが丁度いいのです。その方が親の負担も少なく、半日練習の後は家族と過ごせますしね」
チームの子供たちからは時に「もっとやりたい!」という声が上がる。そんな子供たちは午前練習が終わるとユニフォーム姿のまま近所の運動公園で「野球遊び」に繰り出すことも多いという。


■個性的な方針2:チーム移動は公共交通機関を利用
大会、練習試合の時など保護者が車を出し合って子供達を球場まで送迎する。どこの少年野球チームでも見かける光景だが、これに酒井コーチは異を唱える。
「野球以外のスポーツでは子供達は試合会場まで電車、バスで移動していることが多いですよね。それが少年野球だと保護者が車を出し合って会場まで送迎することがが当たり前になっています(笑)。ちょっと過保護すぎるのではないかと思うのと、我が子だけならともかく、他人の子どもを車に5人も6人も乗せることの意味を大人はもっと考えて欲しいと思っています。もし、事故にあったらどう責任を取るつもりでしょうか? 他人の子どもの命を預かる覚悟をお持ちでしょうかと。確かに、車移動は便利です。でも、そこに甘えてはいけないというのがうちのチームの考えです。事故のリスクを考えたら、例え2倍の時間がかかったとしても電車やバスなどの公共交通機関を利用すべきだと思います」
また、公共機関を使うことにはこのような狙いもあるという。
「電車やバスを使い、自分の足で歩くことで住んでいる場所から目的地までの距離を肌で感じることができます。また、土地を知ることで自分が生まれ育った街を思い出深い『ふるさと』にしてもらいたいなという思いもあります。車移動よりも苦労をすることが多いと思いますが、そういったことを含めて大人へと成長する足掛かりにもなりますから。チームメイトと一緒になって電車に乗ることで、団体行動の大切さや社会のマナーも自ずと身につきますし、上級生は下級生の手を引き、面倒をみてあげるなどグラウンドの外でも子どもたちが成長できる良い機会ではないでしょうか」

■個性的な方針3:指導者も選手も保護者も同じ高さであり続けること
取材当日、グラウンドの脇にはブルーシートの上に野球の道具が並べられていた。これは、お母さんたちからの意見で始めた「お譲り会」と言われるもので、成長し着られなくなったスポーツウエアや、使用できなくなった野球用品を持ち寄り、下級生の家庭に無償で譲る目的で始めたもの。
「何かを持って行か“ねばならない”いうような強制ではありません。何も提供できなくても気兼ねなくもらいに来てくれたらいいんです。うちは当番制がないので、保護者の上下関係もありません。だから『お譲り会』のように、いつでも誰でも自由に『やってみたいこと』も『困っていること』も気の向くままに声を出せます」



声を出しやすい環境づくりに一役買っているのが「コンシェルジュ」という存在だ。
「子どものパーソナリティを保護者はチームの指導者に知ってもらいたいと思っています。反対に指導者は指導者側の意図を子どもにも保護者にも知ってほしいと思っています。親同士も指導者同士も同じです。毎日いろんな意見が届きます。難解なこともあれば、子どもたちの眩しい表情も届きます。どれも子どもたちのことを真ん中に考えたメッセージです。日々寄せられるメッセージは尽きないですが、それほどルークスには心から子どもたちの成長を考えられる大人が揃っています」とコンシェルジュの明美さん。

寄せられたメッセージはコンシェルジュを通じて話し合われ、解決策や思いの共有に役立っている。
「指導者、選手、保護者が同じ高さであり続けること」
そのためにはチーム内コミュニケーションが気の向くままにできることが大切だ。(取材:細川良介/写真:編集部)

次回へ続きます。

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