「ワンピース スタンピード」は“一度離れてしまったファン”も楽しめるお祭り映画―大塚隆史監督【インタビュー】

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2019年08月09日 07:52  アニメ!アニメ!

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劇場版「ONE PIECE STAMPEDE」(C)尾田栄一郎/2019「ワンピース」製作委員会
国民的人気シリーズ『ワンピース』待望の映画最新作、劇場版『ONE PIECESTAMPEDE(ワンピース スタンピード)』が8月9日より全国の劇場で公開される。

今年は、本シリーズTVアニメの放送開始から20年という節目の年であり、本作もその節目を記念する作品として製作された。
海賊、海軍、さらに革命軍などあらゆる勢力が集結し、歴代キャラクターが一堂に会する「オールスター映画」となっている。

果たして、国民的人気を誇る作品の20周年にふさわしい物語とは何なのか、長い月日をともに駆け抜けてきたファンたちの期待にいかにして応えるのか。監督を務めた大塚隆史氏に話を聞いた。
[取材・構成=杉本穂高]

■20周年にふさわしいお祭り感ある物語
劇場版「ONE PIECE STAMPEDE」(C)尾田栄一郎/2019「ワンピース」製作委員会
――本作は、『ワンピース』のTVアニメ放送開始から20年という節目の記念の作品ですが、製作側も当初から相当気合が入っていたのではないでしょうか。

大塚:最初は20周年だからどうこうではなく、「『ワンピース』の映画をやるから監督を引き受けてくれないか?」という話だったんです。
もちろん20周年であることはわかっていたのですが、そのことを押していこうという機運は後から生まれて、どういったものを出せば20周年としてみなさんが楽しめるものに出来るかを考えていきました。

大塚隆史監督
――全勢力大集合のオールスターであることが話題になっていますが、これは20周年を意識してのことですか。

大塚:プロデューサーの小山弘起くんのアイデアなのですが、「海賊万博というのをつくって、そこに全勢力を集結させよう」と言い出したんです。面白そうだけど、「これは大変だぞ」と思いました。
TVシリーズですでに設定があるとは言え、キャラクターが多くなれば、それだけ作業も大変になりますから。それにスタッフを巻き込んでいくことになるわけだし、首を縦には振りにくかったですね。

ただ、企画自体はすごく魅力的だし、いつでもできる企画ではない。20周年記念作であることに立ち返ったとき、小山くんのアイデアがやはり良いなと思いました。


――ストーリーの中で、これまでのシリーズの名シーンのオマージュがたくさん出てきますが、これもやはり20周年を意識してのことですか。

大塚:これはかなり意識しました。『ワンピース』を好きな人にどうやって楽しんでもらえるか、オマージュシーンをどんな風に構成すればいいかは、脚本段階からこだわった点です。
そういうシーンがたくさんあったら楽しんでくれるだろうと思ったので、出来る限り入れたつもりです。

――名シーンを思い起こさせるオマージュの数々が、これまでのルフィたちの旅をなぞっているような感覚で懐かしさも覚えました。さらに大量のキャラクターを登場させて、それぞれに見せ場を用意していますけど、これは本当に構成が大変だったのではないですか?

大塚:そうですね、なかなか構成は決まらなかったです。
僕と小山くんと脚本家の冨岡淳広さんと3人で色々考え、上手くいったと思っても、僕らも知らない裏設定が存在することがある。なので尾田さんと集英社のチェックで、キャラクターの台詞などを修正していきました。

あと基本的なことですが、映画の尺の中でしっかり収めつつ、ドラマとしての盛り上がりもつくって構成しなければならないので本当に大変でした。

――尾田先生の監修は、具体的にどんな形で行われるのですか。

大塚:こちらの作った脚本を読んでもらい、具体的にどこを修正してほしいと指示をいただき、直してGOサインをもらう感じです。
あとは、各キャラクターのデザインをこちらで作って、お伺いを立てて、尾田さんからさらにブラッシュアップのアイデアを頂いたり、絵コンテも確認してもらい、キャラの台詞にアイデアを頂いたりしています。

尾田さんはかなり色にこだわる方なので、色だけで何度もアイデアを出して少しずつまとめていきました。
今回は、東映アニメーションの『ワンピース』放送20周年ですから、東映アニメーション側が主体性を持って作っているんですが、ポイントを抑えた上で、『ワンピース』として出して恥ずかしくないか、作品の質が担保され、お客さんがきちんと楽しめるものになっているかどうかを、尾田さんに総合的にチェックしてもらいました。


――今回の敵役のバレットは、歴代キャラクターが一致団結しないと対抗できないほどの強いキャラクターであるのがポイントだと思いますが、どんな存在として造形したのですか。

大塚:ルフィは今や15億ベリーの懸賞金がかかり、原作では「四皇と並ぶんじゃないか」なんて話が出ているぐらいで、そんなルフィが戦うに値する敵であるかがポイントでした。
とはいえ、原作の都合上、カイドウやビッグマムら四皇をここで出すわけにもいきません。


――確かにここで出てきたら、展開としておかしくなりますね。

大塚:今回の映画は、約100分ほどなのですが、それは単行本で言うと約1冊程度のボリュームです。その短い時間でルフィや共闘メンバーたちが相対する敵であることを格付けして、結末まで持っていかないといけません。
それに原作の強敵、ドフラミンゴやビッグマムなど巨大な組織を抱えてルフィの仲間たちが幹部メンバーと戦うという王道パターンがありますが、これも時間の制約上難しいです。

ならば、そういう制約を逆手に取って、たった1人の強大な力で戦う敵を出せば、映画ならではの面白いものが作れると思ったんです。


――バレットは、単純な武力の総量ではなく1人で最強、対してルフィたちは仲間たちと戦う。ここに考え方の違いも明確にあるわけですね。

大塚:そうですね。ルフィは「自由」を大事にしており、それに相対するバレットの思想をぶつけることで、『ワンピース』自体が持っているテーマもはっきりと描けると思いました。
やはり作品の核を無視して話を作ってもスカスカな印象になりますから、いろんな条件があるけど、そこは大事にしようと脚本作りの段階から意識しました。

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■ゲスト声優は世界観にハマった芝居をしてくれた

――今回、ゲスト声優としてユースケ・サンタマリアさん、指原莉乃さん、山里亮太さん(南海キャンディーズ)の3名が参加しています。アフレコ前に3名に細かい指示書をお渡ししたと聞きましたが、どんな内容だったのですか。

大塚:アニメの芝居のディレクションをしてきた立場から、どうやったらアフレコが上手くいくか、僕なりの考えをメモにしてお三方にお渡ししました。
みなさん、他の分野で素晴らしい実績を持っておられる方々ですが、いきなりプロの声優と同じことを要求されるのは、どれだけすごい人でも難しいと思うんです。
みなさん、こちらの要求にしっかり答えた芝居をしてくれて、キャラクターにも作品の世界観にもはまった芝居になったと思います。

やはりアニメの芝居は普通の芝居に比べて過剰なんです。
そもそも絵が過剰ですよね。伸びたり、縮んだりするわけですから、声もそれに合わせて過剰なものが要求されます。『ワンピース』は特にそういう傾向の強い作品です。

そういう世界にすぐに合わせるのは、どんな実績ある人でも難しく、芝居が浮いてしまいやすい。すると、観客もがっかりしますし、なによりご本人たちががっかりすると思うんです。

彼らの個性を良い意味で「異物」として扱い、長所とポテンシャルを作品にプラスになるように活用する。それが監督の仕事だと思っていますし、今回も意識したところです。

■『ワンピース』から一度離れた人でも絶対に楽しめる

――映像面でとりわけ意識したことはありますか。

大塚:やはり20周年のお祭り感が大事ですから、とにかく賑やかにすることを意識しました。
作業が増えるから大変なのですが、物語に関わらないところにもたくさんキャラクターを配置しているので、そういうのを見つけるのも楽しいと思います。

原作は90巻を超えていますが、例えばどこかの10巻だけ読んだことがあるという人でも知っているキャラクターが絶対出てきますので、原作を全て追いかけていなかったとしても楽しめると思います。
もちろん、お馴染みの「麦わらの一味」に共闘メンバー、最悪の世代などが所せましと暴れまわるストーリーですので、すごく興奮できるはずです。


――長期シリーズですが、全て追いかけていなかったとしても楽しめるわけですね。

大塚:ええ。「海賊の話で悪魔の実という不思議な力があるんだな」という最低限の知識があれば楽しめるように作っているつもりです。
もちろん、『ワンピース』を深く知っていればさらに深く楽しめるようにもしています。なので、気軽に友達を誘って観に行っていただけるとありがたいですね。

――今回監督として作品に深く関わられて、『ワンピース』の魅力の核は何だと思いましたか?


大塚:やはり大事なのはキャラクターですね。ルフィが何を芯にして戦っているのかを抜きにしてはやはり何も語れない。
そこは尾田さんも大切にしているところだと思いますので、今回の映画でもお祭り感を大事にしつつ、ルフィらキャラクターたちの価値観や行動原理をしっかり描こうと思いました。

他のキャラクターに関しても、ストーリーの中で明確に役割があるかが重要で、そこがきちんとしていれば多少出番が少なくても納得してもらえると思うんです。
数多くのキャラクターが登場する映画になりましたが、お客さんに「このキャラをもっと観たい!」と思わせることはできたかなと思います。

そう思わせるのには、ちょっと足りないぐらいがちょうどいいんです。

――「もっと観たい!」という気持ちを持たせるわけですね。


大塚:そうですね。2時間30分くらいやればもっと見せられるわけですが、そうするとお腹いっぱいになって「もうこれ以上はいいや」ってなってしまうと思うんです。
脚本、演出、絵コンテを作る際、与えられた条件、制約の中で”"もっと見たい!"と思わせられる絶妙なバランスに仕上げるのが監督のスキルなんです。
それを考えるのが、オールスター映画の醍醐味だし、自分の好きな分野でもあります。

――最後に、劇場版を楽しみにしているファンに向けてひと言お願いします。

大塚:尾田さん監修のもと、たくさんのキャラクターが活躍する、ファンの方々の期待に応えられる映画になっているはずです。
また、少し離れてしまったかつてのファンの人でも楽しめるものになっていますから、これをきっかけにもう一度『ワンピース』にハマっていただけたら嬉しいです。
ずっと観続けてきてくれた人にはさらに楽しめるものになっている自信があります。ぜひ友達を誘ってアニメ20周年のお祭りを楽しんで下さい!



劇場版『ONE PIECESTAMPEDE』は、2019年8月9日より全国公開。
(C)尾田栄一郎/2019「ワンピース」製作委員会

このニュースに関するつぶやき

  • 原作との兼ね合い、進学やら就職やらで一度は離れた人でも楽しめる内容にするため、かなり苦心してますね。
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