『仮面ライダーゼロワン』から“令和”が始まる! 時代が抱える恐怖と戦ってきた仮面ライダーたち

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2019年08月10日 10:01  リアルサウンド

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(c)2019 石森プロ・テレビ朝日・ADK EM・東映

 「この作品を 故 石ノ森章太郎先生に捧ぐ」というテロップから幕を開けた、2000年の『仮面ライダークウガ』。仮面ライダーという異形の戦士の魂を受け継ぎつつ、平成の新しいヒーロー像を模索する。その挑戦は、2019年現在『仮面ライダージオウ』という形で生き続けている。いつからか定着した「平成ライダー」という称号を総括し、築いたバトンを新時代へ。それを受け取るのは、「令和ライダー」第1号、『仮面ライダーゼロワン』である。


 舞台は、AIロボ・ヒューマギアが実用化された世界。本作は、人工知能(AI)との共存を描いていくという。主人公・飛電或人(ひでん・あると)は、人工知能のリーディング・カンパニー「飛電インテリジェンス」を創立した祖父の死去を受け、同社の二代目社長に指名される。会社経営には興味がない或人だったが、「滅亡迅雷.net」によるハッキングで暴走するヒューマギアを前に、社長のみが手にできる「ゼロワンドライバー」を受け取る。人間の「夢」と「情熱」を訴えるゼロワンは、新時代をいかに彩るのか!?


 仮面ライダーゼロワン、その最大の特徴は、デザインそのものにある。二本のアンテナが特徴的な「バッタ」の意匠は、言うまでもなく、初代の昭和ライダー・仮面ライダー1号に用いられたモチーフだ。そして、ひたすらに目を引く黄色の蛍光色は、約20年の平成ライダーが模索してきた「奇抜なビジュアル」の系譜にあたる。


 つまりゼロワンは、モチーフで昭和を、アプローチで平成を継承した、正統なる「仮面ライダー」と言えるのである。まさに、令和の第1号を名乗るに相応しいデザインだ。ただカッコいいだけでなく、「ぎょっとする」、二足歩行の異形。黄色と黒、全身で警告色を放つその立ち姿は、多くの人の印象に強く残ることだろう。


 また、人工知能(AI)を採用したストーリーも大変興味深い。昨今、「AIに仕事を奪われるかもしれない」というセンセーショナルな見出しが世間を騒がせることが多いが、『ゼロワン』は、まさにその近未来を描いていく。


 「飛電インテリジェンス」が運用する人工知能搭載人型ロボ・ヒューマギアは、様々な仕事の現場に派遣され、人間社会に溶け込んでいる。しかし、それがハッキングされ暴走した際に、そのリスクはどこが引き受けるのか。コンピュータの判断を、我々はどこまで信頼し、身を委ねるべきなのか。そんな現代社会こそが抱える問題を、仮面ライダーという一年間のロングスパンで扱うというのだから、期待が高まる。


 加えて、本作のトピックとして挙げられるのが、シリーズ初の「番組開始時からの女性ライダー参戦」である。


 平成ライダーでいえば、『仮面ライダー龍騎』のファム、『仮面ライダー鎧武』のマリカや『仮面ライダーエグゼイド』のポッピーなど、数々の女性ライダーが活躍してきた。しかし、そのいずれも、劇場版でのゲストの立ち位置であったり、番組の中盤から現れるのが恒例であった。


 『ゼロワン』では、番組開始早々に、対人工知能特務機関「A.I.M.S.」の刃唯阿(やいば・ゆあ)が変身する仮面ライダーバルキリーが登場。変身ベルトは同機関に所属する仮面ライダーバルカンと共通ではあるが、これは間違いなく、歴史的快挙と言えるだろう。そして玩具の面でも、仮面ライダーバルキリーのソフビやアクションフィギュアが続々とラインナップされている。AIだけに留まらない、すこぶる現代的な価値観だ。


 そんなゼロワンは、テレビでの放送開始に先駆けて、現在公開中の映画『劇場版 仮面ライダージオウ Over Quartzer』に先行登場を果たしている。


 『Over Quartzer』には、DA PUMPのメンバーが歴史の管理者・クォーツァーとして登場。そのリーダー格であるISSA演じる登場人物は、「平成ライダー20作記念」の看板を背負って戦ってきたジオウを前に、「お前たちの平成って醜くないか?」と、その歴史こそを否定しにかかる。いつしか、平成という元号と切っても切り離せない関係になった仮面ライダー。約20年をかけて膨らみ続けてきた特異なコンテンツの終着点として、ジオウは、そして平成ライダーは、「平成」という時代そのものを全力で肯定していく。その驚きのゴールについては、ぜひ劇場で目撃していただきたい。


 そして、新時代・令和の象徴として群衆の喝采を浴びるゼロワン。早くも、驚きの活躍を銀幕で披露している。


 リアル調のドラマから、海外ドラマを引用した群像劇、ファンタジーにSF、玩具展開との密接なコラボレーションなど、「その時その時」で懸命に発展してきた平成ライダー。その最大の特徴が、「元号」というパブリックな概念を私物化していく様にあった。取り込めるものは全て取り込み、その出来上がりに更に反証を重ねていく。そうして道なき道を切り拓いてきた同シリーズは、「元号」というバトンを、次の仮面ライダーに受け渡していくのだ。


 言うなれば、平成ライダーというシリーズのイズム(主義・流儀)こそが、『ゼロワン』の土台を形成している。同シリーズが「元号」を取り込むことがなければ、このタイミングでの原点回帰や新生は行われなかっただろう。令和の仮面ライダー第1号は、平成ライダー20作が築き上げた流儀の上に、立ち上がるのだ。


 『ゼロワン』のプロモーション映像のクライマックスでは、ナレーションを務める山寺宏一が、「ゼロワンから、令和元年が始まる!」と高らかに宣言する。いや、とっくに令和は始まっている。もう3ヶ月以上が経過している。しかし、仮面ライダーは、そんなことは物ともしない。彼らが積み上げた流儀こそが、「新元号はまさにここからだ!」と、その胆力を伴う宣言を可能にしているのだ。仮面ライダー以外のどのコンテンツが、こんなことをやってのけるだろうか。


 そんな仮面ライダーたちは、常にその時代が抱える恐怖と戦ってきた。本郷猛が変身する初代『仮面ライダー』が放送されたのは、1971年。その物語には、先の戦争や環境問題の影が見え隠れしていた。


 2000年の『仮面ライダークウガ』では、地下鉄サリン事件のような「どこに誰が潜んでいるか分からない恐怖」、2003年の『仮面ライダーファイズ』では、大企業ぐるみの新しいアプローチの「世界征服」が描写された。2013年の『仮面ライダー鎧武』は、人類には為す術がない大規模な自然災害を。2016年の『仮面ライダーエグゼイド』では、日進月歩で発展し続ける医療現場の最前線を。仮面ライダーは、「その時その時」の日本社会が抱える恐怖や課題と、懸命に取っ組み合ってきたのである。


 そして、2019年の今。人工知能が人間の知性を超え、我々の生活が一変するかもしれない、技術的特異点(シンギュラリティ)が近づいている。「2045年問題」とも言われているが、果たして本当に、コンピュータは人類を超えてしまうのだろうか。


 混沌とした平成を終え、新時代・令和へ。『仮面ライダーゼロワン』は、人工知能(AI)をメインテーマとして扱うことで、この時代こそが持つ課題を洗い出していく。今の我々の目前にある恐怖は、超人的な能力を持った怪人や、古代から蘇った未知の種族ではないのかもしれない。今まさに、この文章を読んでいる貴方の目の前にある、コンピュータ。『ゼロワン』は、そのリスクと可能性に真正面から切り込んでいく。


 現代的な問題に、新しい価値観で。「元号」すらも取り込んで発展してきた仮面ライダーは、その混沌とした流儀の上で、更なる跳躍を見せるだろう。ゼロワンから、令和元年が始まる!(結騎了)


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