『ノーサイド・ゲーム』ラグビー経験者・福澤克雄の手腕が光る スポーツの試合のような緊迫感

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2019年08月12日 06:11  リアルサウンド

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『ノーサイド・ゲーム』(c)TBS

 『ノーサイド・ゲーム』(TBS系)第5話が8月11日に放送された。


 優勝を賭けた王者サイクロンズとの最終戦を前に、絶対的な戦力差という現実が立ちはだかる。「1強15弱」と監督の柴門(大谷亮平)が言うように、日本代表クラスをそろえたサイクロンズのレギュラー陣に対して、アストロズの付け入る隙はないように思われた。一方、社内では、ラグビー部の廃部を主張する常務の滝川(上川隆也)が、カザマ商事買収によって影響力を強めていた。優勝しなければ廃部もある状況で、君嶋(大泉洋)はサイクロンズ戦に向けて先手を打つ。


 柴門とサイクロンズ監督・津田三郎(渡辺裕之)の確執が報じられる中、君嶋は合同記者会見を持ちかける。その狙いはサイクロンズ有利という世間の声を打ち消し、柴門の思いを選手たちに伝えることにあった。自身を城南大ラグビー部から追い出した張本人である津田の前で、柴門は「大先輩である津田さんに失礼のないよう、徹底的に叩きつぶします」と言い放つ。その言葉が、浜畑(廣瀬俊朗)たち選手の闘争心にも火をつける。


 ドラマ前半のクライマックスとなった第5話で描かれたのは、「柔よく剛を制する」戦術の機微だった。徹底的に相手チームを分析する中で、プレー中断から再開までのわずかな時間(リロード)に勝機を見出すアストロズ。日本代表SH(スクラムハーフ)の里村(佳久創)がマークされることを予想して、控えSHの佐々(林家たま平)を中心にパス戦術を構築する。第2話でチームのポテンシャルを引き出す「1×15=100」という公式が登場したが、ライバルの一歩先を行くアイデアと秘密兵器といえる新戦力が、アストロズ本来の武器であるスクラムを生かす結果になる。絶対王者を相手にしたアストロズは、サイクロンズを相手に一歩も引くことなく互角の勝負に持ち込んだ。


 手に汗握る展開の『ノーサイド・ゲーム』だが、試合の緊迫感はドラマの領域を軽く凌駕しており、スポーツの試合を見ている感覚に近い。これは、ラグビー経験者である福澤克雄監督の演出とラグビー経験者をそろえたキャスティングによるものだろう。ボールを前方にパスすることができないラグビーでは、得点を挙げる方法はキックまたはランが基本だが、選手と並走しながら選手の視線で楕円球の行方を追うカメラワークには、ラグビーを知り尽くした監督のこだわりが凝縮されているように感じた。


 また第5話では、元レスリング世界女王の吉田沙保里が大泉洋とレスリング共演を果たしたほか、米津玄師プロデュースの「パプリカ」で知られる子どもユニット「Foorin(フーリン)」も登場。第3話でも現役の力士が出演したが、熱量の高いドラマの雰囲気を中和する貴重な役割を担っている。こうした遊び心のある演出が可能なのも、主線がはっきりした原作に加えて、奇をてらわない、重厚かつ丁寧な演出によって構築された堅牢な物語世界があってこそだ。


 なかばスポーツそのもののような演出がラグビーの魅力をダイレクトに伝え、同時に視聴者はドラマを通して、実在するアストロズというチームを応援しているような感覚に陥る。現実とフィクションが融合したハイブリッドな世界観が今作の特徴と言えるが、仮決めされたルールの中で勝敗を争うスポーツの本質にも通じる。君嶋の知略の奥に隠された制作陣の構想に注目することで、ドラマの味わいが何重にも広がるのではないだろうか。


■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。


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