山口智子、朝ドラは「人生の始まり」 『なつぞら』で果たした年長者としての務め

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2019年08月22日 06:11  リアルサウンド

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山口智子『なつぞら』(写真提供=NHK)

 歴代の朝ドラヒロインが多数登場という、100作目ならではのサプライズなキャスティングでも視聴者を楽しませている『なつぞら』(NHK総合)。今回、広瀬すず演じるヒロインの母親代わりとなる富士子役の松嶋菜々子(松嶋菜々子が語る、約20年ぶりの朝ドラ)に続き、東京の“お母ちゃん”・亜矢美を演じる山口智子にインタビューを行い、30年ぶりに戻ってきた朝ドラへの思い、そして咲太郎(岡田将生)たちの元を去った亜矢美の心境を聞いた。


【写真】亜矢美と咲太郎の出会い


■「何ものにも変えがたい素晴らしい体験」


ーー今回、『純ちゃんの応援歌』から約30年ぶりの朝ドラカムバックです。


山口智子(以下、山口):30年ねぇ、びっくりしちゃいますよね(笑)。周りから言われて初めて実感しています。NHKに帰ってくるとお母さんのお腹の中に帰ってきたような安心感があって。でもほっとする気持ちと同時に、やはり何よりもビシッとしないと、という背筋がシャキッと伸びるような緊張感もおぼえます。今、毎日の撮影の現場では、若さとエネルギーにあふれた、キラキラ輝く才能溢れる若者たちに囲まれていますが、彼らは様々なシーンで本気で根性を見せてぶつかってくる気迫が素晴らしいです。私も初心に帰って気合いを入れ直さなくてはと、若者たちから大きな刺激をいただいています。


ーー周りから「観ているよ」という、声かけはあったりするのでしょうか?


山口:はい。疎遠にしていた友達や遠い親戚から連絡があったり、また絆を深めるのに役立たせていただいております(笑)。「亜矢美のカスタネットがよかったよ」というお声をいただいたり、場面の細かい部分までよく見てくださっているんだなと嬉しくなります。


ーー朝ドラに戻ってきたなと感じるところはありますか?


山口: 朝ドラに突入すると、本当に家族のように出演者やスタッフと長い時間を一緒に過ごすので、日々みんなの絆が深まっていきます。今回も新たな家族や友と出会うことができて、毎日たくさんの刺激をいただきとても幸せです。それに……朝ドラの魅力はやはり、ヒロインの方をみんなで応援する一体感を共にすることかもしれません。ヒロインが様々な人生経験を演じることで成長していく、その過程を毎日見守り応援することで、私たちも作品に関わらせていただきながら、一緒に成長させていただくような感覚です。シーン一つ一つを、さらに面白くするためにみんなで力を合わせることで、少しずつ一緒に階段を上がっていくような手応えがあります。それは、何ものにも変えがたい素晴らしい体験です。


ーー松嶋さんは朝ドラで人生が変わったとおっしゃっていましたが、山口さんにとって朝ドラ、特に『純ちゃんの応援歌』はどういう存在ですか?


山口:人生の始まりですね。『純ちゃんの応援歌』に出会っていなかったら、普通にお見合いをして結婚して旅館を継いで女将になる人生だったと思います。おかげさまで、朝ドラで出会った唐沢(寿明)さんとも結婚させていただき、人生のすべてのきっかけをいただきました。本当に素人で何も知らないところから飛び込ませていただいて、受け止めてくださった朝ドラに感謝してもしてもしきれません。


■「歳をとることが今本当に楽しくてたまらない!」


ーー亜矢美の一番演じ甲斐があるところはどこでしょうか。


山口:元踊り子ということで、「生きる喜び」を身体で表現できる役をいただいたことが本当にうれしいです。「ムーラン・ルージュ」というエンターテインメントの殿堂で、亜矢美は毎日身体を張って踊ることで、戦争での辛い別れや苦労の中でも、強く生きる力を生み出してきました。おでん屋のカウンターも亜矢美にとっては舞台と同じで、毎日元気に生きていく力を生み出す場です。おでん屋に集まる人々に、笑いや夢を届けたいという気持ちで演じさせていただいています。


 だから、カウンターの中でも、暖簾をしまう時でも、店の前を掃除している時でも、常にどんな時でも、亜矢美は歌と踊りと共にあることを心がけています。カウンターのセットの中に、美術さんが置いてくれたカスタネットを使ってみたり、小道具や衣装、様々な要素を面白がって生かしてみようと思っています。踊りというものは本来、食べ物を食べてエネルギーを得ることと同じように、苦難を乗り越える原動力となり、生きる力を生み出すものだと思います。命ある喜びを踊りで表すことで、みんなを元気に幸せに巻き込んでいけたらいいなと思います。


ーー咲太郎役の岡田将生さんが取材の際に、山口さんが自由にお芝居をされるのですごく刺激を受けているという話をしていました。


山口:フラメンコも演技も、“今、この一瞬”をみんなでどう素晴らしいものにするか、という即興芸術です。ギターや歌や踊り手、集う人々が心を一つにして、今を最高に輝かせるために力を合わせて感動を創り出す。まさに芝居と同じです。それに、直球で勝負する若い時代に比べて、年を重ねると色々な変化球を面白がれる心のゆとりが生まれてきます。年長者としてできることは、「力を抜いて、その状況に飛び込んで、もっと自由に、楽しくのびのび、もっともっと色々な個性ある表現をしていいんだ」ということを、身を以て実践しながら、心を解き放てるような空気をつくって、若者たちを応援することかもしれません。


ーーおでん屋のカウンターの中で歌う曲は、山口さんがご自分でいろいろ調査していると聞きました。


山口:はい。亜矢美は歌と踊りと共に生きている人なので、おでん屋の場面では、そのシーンの心情に合わせた当時の流行歌を調べて、歌詞もそのシーンに適した部分を選んで歌っています。でも9割はオンエアではカットされてますよ(笑)。カットされたシーンをまとめたら、その時代を表す面白い“歌謡ヒットメドレー”になると思うのですが(笑)。


ーーよくハマったなと思うチョイスはありましたか?


山口:例えば、なつ(広瀬すず)が咲太郎を捜しに上京してきた時、行方知れずの咲太郎への気持ちを込めて、<どこにいるのか リル だれかリルを 知らないか> (「上海帰りのリル」)と人探しの歌を歌いました。あと、北海道から出てきた純朴ななつに向けて、<リンゴ可愛や 可愛やリンゴ>(「リンゴの唄」)と歌ってみたり、なつの結婚相手の坂場さん(中川大志)が店に来た時には、カウンターの常連客と一緒に<酒場の女の うす情け>(「カスバの女」)でカスバと酒場で坂場さんを責めまくってみたり(笑)。「歌う亜矢美」を自分で楽しませていただいています(笑)。


ーー自由に発想して演技をすることは、女優デビュー作である『純ちゃんの応援歌』の頃は難しかったのかなと思うんですが、今のようなお芝居ができるようになったのはなぜだと思いますか?


山口:歳をとることが今本当に楽しくてたまらない! その楽しさの現れでしょうか。自分の好きなことや大事なことに対するフォーカスが明確になってきて、余計な力も抜けて、心の中に風が吹くようなゆとりが生まれ、人生を味わう楽しさを日々実感できている手応えがあります。


 50年ちょっと生きてきて出会ったたくさんの感動という宝物を、お芝居にも生かしていけたらいいですね。人生への感謝とともに、もっともっと楽しんでチャレンジしていきたいです。


 ずっと学んできたフラメンコとお芝居に共通するものは、人生の「今」という瞬間を輝かせるために、みんなで心を一つにして生きる力を生み出し、人生を深く味わっていこうという精神です。だから、今回出会ったみんなと心を交わしあって、一期一会の面白い化学反応を巻き起こしてゆけたら素敵だなと思っています。


■「生きる力をくれたのが咲太郎」


ーー亜矢美さんは118話(8月15日放送)をもって新宿を去ってしまいました。咲太郎へはどんな気持ち抱いていたんでしょうか。


山口:亜矢美と咲太郎は、親子を「演じる」ことで、不思議な関係を築きながら人生の辛苦を共に乗り越えてきました。亜矢美にも結婚の約束をした人が戦争に行ったきり帰ってこなかったという悲しい過去があって……。愛する人を失いぽっかりあいた心の穴を埋めて、生きる力をくれたのが咲太郎でした。咲太郎は亜矢美にとって、最愛の息子であると同時に、人生のパートナーとしてなくてはならない存在です。だから亜矢美は、咲太郎の成長と巣立ちを祝福したい気持ちと同時に、ずっとこのまま心の恋人であり続けてほしい子離れできないジレンマに、自分自身戸惑います。最後にはそれを振り切って、自分の人生をもう一度生き直してみようと決意する亜矢美の心境は、現代の私たち女性みんなに通じるテーマでもあると思います。


ーー風車に留まらずに、一度旅立つのも亜矢美さんらしいですよね。


山口:そうですね。きっと咲太郎は、「絶対にお母ちゃんの面倒を見る」って言いだして、また余計な苦労を背負ってしまうような優しい子ですから。だからこそ、咲太郎の重荷になりたくない、対等の立場で互いに人生のパートナーであり続けたいという思いから、自分の人生というものをもう一回生き直してみようと決意し、新しい人生へのチャレンジへと一歩踏み出したのだと思います。


■「不思議な生命体を見るような気持ち」


ーー今回のヒロイン役、広瀬すずさんの印象はいかがですか。


山口:本当に頼もしくて、“どっからでも来い”という揺るぎない存在感と力に溢れていて……憧れますね。あんなに堂々と、かつナチュラルで力が抜けていて、風のように爽やかで、どうやったらあんな素敵な子が育つのか、つい親御さんと同世代の立場の目線で、ほのぼのと眺めてしまいます(笑)。


 今までテレビで見ていたすずちゃんは“現代の女の子”というイメージでしたが、一緒にお仕事してみると、北海道編では素朴な田舎の少女として違和感なく演じているし、時代を超越したすずちゃんの魅力に改めて驚いています。あんなにつりズボンが似合う現代の少女がいるんだなぁって(笑)。


ーー現場でヒロインとして過ごしている広瀬さんを、山口さんはどう見ていますか?


山口:すずちゃんの毎日は、膨大なエネルギーを要する大変な日々です。でもその苦難の道を、あえて楽しんでしまおうというチャレンジ精神に溢れていて、すずちゃんの人間力は驚異的です。でもたまに、夕見子ちゃん(福地桃子)と一緒に本当の姉妹のようにじゃれ合いながら、「ヘン顔」をして無邪気に笑っている姿をみると20歳らしいあどけなさが可愛くて、不思議な生命体を見るような気持ちで、感動しながら眺めています(笑)。


ーーご自身がヒロインだった時の気持ちを、広瀬さんの姿を通して蘇ってきたりすることはありますか?


山口:すずちゃんを見ていると、ヒロインという立場に、かつて自分もいたことが信じられないです(笑)。当時の私はただの素人。次から次にふりかかる難題をどう乗り切っていたのか不思議でなりません。それが若さの力というものだったのか、朝ドラが生み出す魔法なのか、そこに飛び込んでいくことで、確かに何か奇跡のようなものが起きていたのかもしれませんね。


(大和田茉椰)


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