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ひきこもりの娘から「お父さん変わったね」 「働かざる者食うべからず」から変わる父たち

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2019年08月22日 08:00  AERA dot.

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写真ひきこもる子のいる父親たちの集まり「おやじの会」は、毎月第1日曜日に楽の会リーラの事務所内にあるコミュニティーカフェ「葵鳥」で開催されている(撮影/古川雅子)
ひきこもる子のいる父親たちの集まり「おやじの会」は、毎月第1日曜日に楽の会リーラの事務所内にあるコミュニティーカフェ「葵鳥」で開催されている(撮影/古川雅子)
 高齢の親とひきこもり状態の子が孤立する――。親と子の年齢から「8050問題」と呼ばれている。彼らに何が起きているのか。当事者たちの奮闘をノンフィクションライター・古川雅子氏が追った。

【家族がひきこもったら相談できる所は…?各種情報はこちら】

*  *  *
 東京・巣鴨のとげぬき地蔵尊のほど近く、古いビルの一角で毎月開かれる、「楽(らく)の会リーラ」主催の“おやじの会”。

 カフェタイムに訪れると、60〜70代の5人の父親たちが三々五々集まってきた。話題はもっぱら、長くひきこもる子どもとの関わりについてだ。

 ある父親(72)は、氷河期に派遣会社に就職した息子(44)が、何年勤務しても正社員になる機会がつかめずに苦しみ、統合失調症になったと打ち明けた。

「息子は近所とのトラブルで警察沙汰になり、6年前に家に戻ってきた。初めは『ゴロゴロしないで勤めろ』と、私の価値観を押し付けていたけれど、子どもの心理を学んだら、私のやり方は真逆だったと気づきまして」

 頷きながら話を聞く父親たちの表情から、それぞれが抱える課題の大きさが透けて見えた。

 参加者にコーヒーを淹れ、場を和ませる市川乙允(おとちか)さん(72)は、ひきこもり当事者と家族の支援活動を続けて18年。現在は「楽の会リーラ」事務局長だ。“おやじ”に特化した集まりを開く理由をこう語る。

「家族からの声で圧倒的に多いのが、『父親が息子、娘のことをわかってくれない』ということ。父親たちは総じて会社人間で、極端に言うと、『働かざる者食うべからず』という視点で子どもを見てしまう。昔からの一般的な規範にとらわれている。そこが少しでも変われば」

 市川さん自身の反省もある。中学校時代に不登校を経験している娘は、結婚、出産を経て30代後半になり、地域の人間関係に悩み、断続的にひきこもり状態に陥った。娘は実家近くに家を借り、夫、子どもの3人家族で住み、親と近居して切り抜けた。

「娘の言動は、当初は『ネガティブで被害妄想的』だと感じていました。つい、『そうじゃないだろう』と口を挟んだりして。でも、それは娘の心の内側を見ようとしていなかったんですね」

「お父さん、変わったね」

 市川さんは、考えを改めた。娘の言うことを否定しないで、徹底して悩みを聞くところから始めてみよう──と。

「そうしたら、娘は『お父さんは、変わったね』と言ったんです。この時の娘の言葉は、忘れられないぐらい印象的でした」

 ほどなくして、娘から手紙をもらった。「私は私なりに自分の目標を決めて、一段ごとに進んでいくから、お父さんもう、心配しないでいいよ」と。

「ひきこもり状態から回復する上で、娘と僕の関係性が変わったのが一番大きい。その土台になるのが親と子の信頼関係。娘に変化を求めるんじゃなく、僕が変化することで信頼関係の再構築ができたんじゃないかと」

 参加者の一人、都内で会社を経営する父親(62)の息子(32)は、回避性パーソナリティー障害と診断されている。大学を中退し20代前半からひきこもってきた。父親は「今、息子から“反撃”を食らっている」と告白した。

「会社経営は『1位を取るか死ぬか』という競争でしたから、家庭でも上から目線で発言し、息子のことは妻任せで向き合ってこなかった。去年あたりから、息子から『お前は毒親だから、態度を改めるべき』と指導が入るようになりまして。家庭の雰囲気はだいぶ変わりましたね」

 父親は60歳を過ぎて仕事量を減らし、親子の対話のスタートラインとして、まずは息子の言うことを受容することから始めている。「自分の腹わたを見せて、いい意味でぶつかりながらでも話ができるようになろう」と、試行錯誤の日々だ。

「最初はどう会話したらいいかわからず、息子がふだんいる居間に入るまでに脳内で会話のシミュレーションしていました」

 息子からの“反撃”というと激しく聞こえるが、それを機に親子の対話が始まり、家族の風通しは、むしろよくなったという。そんな家族関係の変化を知りたくなり、後日、母親(61)を含む親子3人と都内のファミレスで対面し、話を聞いた。

 耳栓をしても周囲の音が気になるという息子は、最初の15分ほどは私と視線を合わせないまま、話し始めた。母親によれば、「これでも去年までとは全然違う。人前に出るとうずくまって、話なんてできませんでした」。

 慣れた頃、息子は「いかに(自分が)きめ細かな教育的指導をして、親子関係の環境を改善させたか」を滔々と語り始めた。

「今でこそ親と話しているけれど、数年前まではずっと沈黙のまま。だってこいつ(父親)が家庭内で独裁的な振る舞いをして、こっちは主体性を奪われて育っているから。父親の脅しに対するレジスタンスとして“反撃”に出たっていう感じ」

 彼の言葉はある種辛辣だが、印象的だったのは、両親が頷きながら話を聞いていたことだ。息子自身、「家庭内の環境は変えられたと実感している」という。

「僕がやりたかったのは闘争ではない。もちろん、最初は確実にブチ切れていたけれど、ある程度は気が済んだ感みたいなのが得られたから、マシになった」

 父親が「息子が起点をつくって、親子が一緒に構築していくという、共同作業的な気がします」と語ると、「『共同作業』とか、いちいち物々しく表現したのが気に入らない」。息子の絶妙なダメ出しに、父親も母親も噴き出しながら「ああ、そうなの?」。思わず表情が緩んだ。

 母親はしみじみと言う。

「息子のおかげで、うちの空気の流れがよくなったと感じます」

 だが、社会に対しては「絶望しか感じない」と息子は言う。

「みんな社会に出て働いて、税金がどうのとか言いたがるけれど、僕みたいに、自己効力感も自己肯定感も低い人間が出ていけるようなフレームワークがあるようには感じられない。こんな社会じゃ、僕は野垂れ死ぬか、変死で片付けられるか、どちらかでしょ」

 ひきこもりの回復のために家族にできることもあるが、「対社会」の問題に関しては限界がある。今回、7月に実施したアエラのアンケートでも、8050問題は「社会全体で対応すべき」「親にできることは限られている」といった意見が多数寄せられた。

 家族が最も困るのは、「育て方を間違えた」「甘やかしているんじゃないか」と言われること、とリーラの市川さんは指摘する。

「親自身が孤立すれば、縮こまってしまい、親子関係の環境をよくすることさえできなくなる。『ひきこもり? 誰でもあり得るし、少し休んでいるんだね』と、地域の人が家族のよき理解者になることが何より大事です」

(ノンフィクションライター・古川雅子)

※AERA 2019年8月26日号

このニュースに関するつぶやき

  • 「育て方間違えた、お前にかけた金は無駄金だった生まれてきたお前が悪い」そう言われ続けてきたので、お金返すまでフラフラになるまで働きました。羨ましいよ。あんた達。
    • イイネ!1
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  • 自分の子にさえ 歩み寄れない者は 『親』の資格など無い
    • イイネ!75
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