予想以上にギャンブル性高い2輪レースのタイヤ選択/ノブ青木の知って得するMotoGP

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2019年08月23日 06:11  AUTOSPORT web

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タイヤチョイスが決勝レースの明暗を分けたオーストリアGP
スズキで開発ライダーを務め、日本最大の二輪レースイベント、鈴鹿8時間耐久ロードレースにも参戦する青木宣篤が、世界最高峰のロードレースであるMotoGPをわかりやすくお届け。第23回は、オーストリアGPで明暗分けたタイヤ選択について。青木がレーシングライダー視点で2輪レースのタイヤ選択の難しさを解説する。

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 最終ラップに激しい攻防を見せた、アンドレア・ドビツィオーゾ(ドカティ・チーム)とマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)。ドビツィオーゾが意地を見せ、今季2勝目をもぎ獲った。2輪レースの世界最高峰にふさわしい素晴らしいバトルに、観ていて思わず声が出ましたねワタシは……。

 ああいう時のライダー心理としては、もう間違いなく「転んでもいいや!」と思っている。あんな飛び込み合戦をしていたら、転倒のリスクは絶対的に高いのだ。危険を承知で、でも最大限転ばないようなギリッギリの走り。もはやテクニックなんてもんじゃなく、意地の張り合いでしかない。感動しました。

 だがあの勝負、実はスタートした時点で決着していた。ふたりのタイヤチョイスだ。ドビはフロントにミディアム、リヤにソフト。一方のマルケスはフロントにミディアム、リヤもミディアムを選択していた。そしてレース終盤、ふたりのリヤタイヤが明暗を分けた。ソフトが保って、ミディアムが保たなかったのだ。

「ん?」と思いません? 一般的なイメージでは、ソフトはグリップが高いけどライフが短い、はず。なのにソフトの方が保ちがいいなんて……。

 マルケスもレース中、「ん? んんん?」と思っていたはずだ。中盤はトップに立ってドビの様子を見ながらペースメイクし、終盤はドビを先に行かせてミディアムタイヤを温存。最後の最後にスパートをかけ、ソフトタイヤでグリップが終わったドビを抜き去る……という予定だったに違いない。

 ところが終盤、トップに立ったドビのペースが予想以上に速い。「え?」と驚きつつも、自分のミディアムタイヤがおいしいグリップを発揮するのを待ったが、なかなか来ない。そしてついにグリップしないまま最終ラップを迎えてしまった。

■ギャンブル性が高い2輪レースのタイヤチョイス
 それでもあれだけの接近戦を見せるのだから、マルケスは本当に異星人じゃないかと思うが、タイヤに関する疑問は残る。なぜソフトが保って、ミディアムが保たないんだ……?

 MotoGPのタイヤは、非常にシビアなものだと思ってください。路面温度、路面そのもの、マシンセッティング、レースペースなどによって、その日のレースでどんなパフォーマンスを発揮するか、分からないのだ。

「分からないって!? そんなギャンブルみたいなものなの!?」。ハイ、ギャンブルなんです……。もちろん過去のデータや経験上、おおまかな傾向はある。でも、シビアであるがゆえに、フタを開けてみなければ分からない、やってみなけりゃ分からないことが実に多い。

 ちなみに、ソフト、ミディアムなどと申しておりますが、コンパウンドが違うだけじゃない。構造が違うこともあるから、本当に難しい。さらに、各レースにはたいていソフト、ミディアム、ハードの3種が持ち込まれるが、毎レース同じものじゃない。数種類あるタイヤのなかから、例えばオーストラリアやカタルーニャなど高い荷重がかかるサーキットには硬めのなかから3つ、といった具合に、その最適と思われるあたりのタイヤが用意されている。

 そういったいろいろがあるので、タイヤチョイスは本当にギャンブルなのだ。勝負をかけて当たれば面白いし、もちろん外れる場合も多々ある。オーストリアGPでマルケスが選んだミディアムタイヤは「大勝負」というほどのものではなかったが、目論見が外れたという意味では結果的にギャンブルになってしまったワケだ。

 それでも、それでもですよ! 相当に厳しい状況だったにも関わらず、しっかりと2位に入ってくるマルケス。そりゃ11戦終了時点でランキング2番手のドビに60点差もつけてしまうわけですよ……。

 最後になりましたが、以前このコラムで「ファビオ・クアルタラロ6月ピーク説」を述べさせていただきました。しかしオーストリアGPでは見事3位表彰台を獲得。6月ピークどころか、ヤマハのファクトリー勢を抑えての力走でした。つまり、ワタシの予想は大ハズレ……。

 お詫びかたがた、クアルタラロのライディングについて解説すると、彼の強みはマシンにストレスをかけないことだ。力まずに、マシンなりの旋回力を引き出しながら走らせられる。

「力まずに」と言っても、最高速は300km/hを超え、カーボンディスクブレーキが強烈な制動力を発揮するMotoGPマシンを走らせながら力まないのは至難の業。スゴイ新人さんもいたものです。

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■青木宣篤

1971年生まれ。群馬県出身。全日本ロードレース選手権を経て、1993〜2004年までロードレース世界選手権に参戦し活躍。現在は豊富な経験を生かしてスズキ・MotoGPマシンの開発ライダーを務めながら、日本最大の二輪レースイベント・鈴鹿8時間耐久で上位につけるなど、レーサーとしても「現役」。

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