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父殺そうと机にナイフ忍ばせて…ひきこもり当事者の焦燥と絶望

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2019年08月23日 07:00  AERA dot.

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写真ひきこもり状態にある人を、「甘えている」「怠け者」とラベリングすることはたやすい。周囲が持つ偏見が当事者をさらに生きづらくさせている(撮影/今村拓馬)
ひきこもり状態にある人を、「甘えている」「怠け者」とラベリングすることはたやすい。周囲が持つ偏見が当事者をさらに生きづらくさせている(撮影/今村拓馬)
 多くの人が先入観を持っているように、ひきこもりは「甘え」で「怠け者」なのか。取材を進めて 見えてきたのは、絶望感や焦燥感、孤独感に苛まれる当事者の姿だ。彼らの心の声を聞いた。

【焦燥と絶望に苛まれる当事者の声】

*  *  *
 この先の私の未来は明るいのだろうか。

 都内の湊うさみんさん(30代)は、葛藤を胸に抱え一日を送る。8年近く自宅にひきこもっている。専門学校卒業後、小説家を目指したがうまくいかず、就職活動を始めたが100社以上落ちた。向精神薬を200錠以上飲み自殺を図ったが、未遂に終わった。自分は何をやってもダメだ──。自信をなくし、ひきこもり状態になった。

 寝るのは深夜2時か3時、目を覚ますのは午後1時ごろ。起きていると嫌なことを考えてしまいがちなので、目が覚めてもしばらくは布団の中でごろごろすることが多い。昼食を取ると19時ごろまでパソコンでゲームをして過ごし、夕食後、再びゲームをする。疲れてきたらベッドに寝転び、図書館で借りてきた本を読む。週に2日ほどは、 精神科や図書館に足を運び、スーパーやコンビニに食料を買い出しに行く。

 多くの人から見れば、楽をしているように見えるかもしれない。だが、湊さんの心の中で繰り返されるのは、自問自答だ。

「こんなことをしていていいのか」「もっと有意義なことをしなくては」「でも何をすればいいのか」。考えても答えは出ない。

 自分を「怠けている」と思っている60代の両親とは冷戦状態にある。特に父親とは6年近くまともに口をきいていない。仕事も家族ともうまくいかず、この人生をすべて無にできる魔法があるとすれば、「自殺」しかない。死を選ぶか選ばないか──。葛藤し、毎日こう思う。

「生きていてつらいだけなら、未来なんていらない」

 ひきこもりは、国の定義では「仕事などの社会参加を避けて家にいる状態が半年以上続くこと」をいう。従来、ひきこもりは若者の問題とされてきたが、全世代の問題とわかってきた。内閣府が今年3月に発表した調査結果で、40〜64歳のひきこもりは推計61万3千人。ひきこもり当事者たちもまた8050問題の困難に直面している。

 都内在住の50代の男性は、仕事がうまくいかず25歳の頃から本格的にひきこもっている。同居する母親(87)が亡くなった後が心配だ。母親が残してくれる財産があり経済面の心配はないが、生活面の懸念が大きい。

 男性は学習面での発達障害も抱えていて、その特性から身の回りのことがほとんどできない。食事、洗濯、掃除。申し訳ないと思いながら、生活のほぼすべてを母親に頼っている。

「母はまだ何とか健康ですけど、いつ認知症などでガクッとくるかわからない。自分は入院の手続きもわからない。食事から身の回りの片づけまで、どう生活していけばいいかわかりません」

 AERAが行ったひきこもり当事者と経験者へ向けてのアンケートでは、ひきこもり状態になった事情も現在の状態もさまざまな声が寄せられた(下)。ひきこもる状態と社会参画を繰り返す人もいて、「怠け者」「甘え」といった、社会が持ちがちな先入観とは種類の違う背景や苦しみを多くの当事者が抱えていることがわかる。

 5月、川崎市で児童ら20人が、長年ひきこもっていたという男(当時51)に殺傷される事件が起きた。ワイドショーや週刊誌の一部報道などで、ひきこもりを「犯罪者予備軍」と紐づけかねない動きがあった。筑波大学教授で精神科医として30年近く当事者の問題に取り組んできた斎藤環さんは、「犯罪者予備軍という言葉はヘイトスピーチ」と断じた上でこう語る。

「ひきこもりという言葉が使われ始めて20年経っているが、明らかにひきこもりの人が関わった犯罪は数件しかない。ひきこもりの人もそうでない人も罪を犯すが、前者の犯罪は後者の犯罪に比べ、圧倒的に少ない。統計的にひきこもりと犯罪は関係ないといえます」

 当事者や家族も、相次いで見解や声明を公表。NPO法人「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」(東京)も、ひきこもり状態にある人について「無関係な他者に危害を加えるような事態に至るケースは極めてまれだ」との声明を発表した。

 だが、苦しみゆえの「心の闇」を、多くの当事者が抱えているのも事実だ。

「父(66)を殺したいと、ずっとどこかで思っています」

 青森県に住む、ひきこもり当事者の下山洋雄(ひろお)さん(39)はこう打ち明けた。

 小学6年の時に教師から受けた体罰が原因で不登校になり、ひきこもるようになった。苦しい気持ちをわかってほしかったが、父親は理解しようとしなかった。強く登校を促し、外に出そうと毎日のように3時間近く説得を続け、寝させてもらえない時もあった。勉強ができないと責めてたたいた。高校までは、いつか父親を殺そうと机の中にナイフを忍ばせていたという。

 いま下山さんは、ひきこもりながらも、ひきこもり当事者や家族の相談を受けるボランティアを行っている。だが、そんな下山さんに対して父親は、部屋のドア越しにこう言う。

「金にならないボランティアをして、いつになったら働くんだ」

 父親を刺し殺し、自分も死のうとも考える。心の底で絶望や焦燥に苛まれているのに、価値観を押し付けられ追い詰められる、やり場のない怒りがある。だが、決して実行には移さない理由をこう答えた。

「父を『親』と思うのをやめたからだと思います。こわもての人がドア越しに何か叫んでいる、と思うようになりました」

 危機感をバネに、ひきこもり状態から抜け出した人もいる。

 30歳から3年間、実家のマンションにひきこもっていた石和(いさわ)実さん(42)は、大学を出て25歳でIT系の会社に就職した。だが、人間関係がうまくいかず、ひきこもりに。絶望の中感じていたのが、「きっかけがあれば、父親を殺してしまうかもしれない」という恐怖だった。

 当時は、まだ父親の年金や貯金で生活できていた。だが、いつか父から「家にはもう金がない、早く就職しろ」と責められたら、感情が爆発してコントロールできなくなるかもしれない。親を殺さないためには自分が死ぬしかない。しかし、自分が死んで家族を悲しませたくはない。

「じゃあどうするか。社会復帰してお金を稼がなければという結論に至ったのです」

 ネットで仕事を探し、50社以上落ちたが最後の1社に採用され、ひきこもり状態から脱出した。会社に勤めながら、ひきこもっている人の役に立ちたいと考えるようになり、ひきこもり相談カウンセラーとして活動している。相手から礼を言われると、生きている価値を感じる。(編集部・野村昌二)

■当事者・経験者の声
虐待、いじめ、パワハラ、性暴力が原因でひきこもるようになった。自室・自宅から出ることはほぼなく、役所や精神科で相談しようとしたけれど、話が通じず相談にならなかった。女性のひきこもりのつらさが伝わっていないと感じる(42歳、女性、当事者) 

幼少期における母親からの精神的虐待で今もひきこもっている。その気になれば遠方にも外出していけるが、外出するまでが大変で、その結果ふだんはめったに外出しない。どのように死を迎えるか、親とのコミュニケーション不全に困っている(57歳、男性、当事者) 

家族とは何げない会話や日常のやり取りの話はするものの、父親はこちらの話したいことを聞く気がない。金銭面での支援、精神的な支援、カウンセリングがほしい。ひきこもりの中には、セクシュアルマイノリティーもいるということも知ってほしい(40歳、経験者) 

就職や仕事のこと、経済的なことを、気楽に話せる知り合いや友人がいない。歯や眼、精神科など頼れるところがない。どこに行けばよいかカンが働かない。川崎の事件で「一人で死んでくれよ」のセリフは今も耳に残っていて消えることはない(48歳、女性、当事者) 

ひきこもりだからといって、頭ごなしに甘えと言わないでください。差別をしないでください。一人の人として、見てください。支援にしても、ひきこもり当事者の意見に沿った支援のありかたを考えてください(46歳、男性、当事者)

※AERA 2019年8月26日号

このニュースに関するつぶやき

  • 親に養ってもらって恵まれている環境なのは確かだけど、甘えだとか結構冷たい呟きが多いなぁという印象。自分は就活中とはいえ、半分片足突っ込んでいるようなものだから気持ちはすごく分かる
    • イイネ!0
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  • 甘えているとも怠けているとも決めつけるつもりはないけど、衣食住を提供してもらえる環境であるのは恵まれているとは思う。
    • イイネ!86
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