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ライドシェアサービスの世界競争に取り残された日本は、何を逃したのか?

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2019年08月23日 09:02  MarkeZine

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MarkeZine

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 Uberをはじめ、徐々に一般的になりつつある「ライドシェアサービス」。世界各国では既に、非常に大きなビジネスとなっています。自動車は所有から利用へ、あらゆるモビリティを1つのサービスとして捉える「MaaS」というキーワードとともにこの領域のビジネスが広がっていますが、ファクトベースで世界中のライドシェアサービスを俯瞰してみると、単純な「自家用車を使ったライドシェア」に留まらないビジネスが広がっています。今回はApp Annieのデータをもとに、MaaSビジネスによるライフスタイルの変化を分析します。


■ライフスタイルを激変させるライドシェアサービス


 ライドシェア、というのは簡単に言うと個人の所有する自家用車を用いて、乗客を乗せ、目的地で降ろし、タクシーのようにその移動運賃を得るというものです。そしてその仕組み(プラットフォーム)を提供している企業が世界中に存在しています。


 代表的なサービスはUber(ウーバー)です。日本では法律(道路運送法)で自家用車による個人の送迎サービスは禁止されていることもあり、2019年7月現在、日本においてはタクシーやハイヤーを呼ぶという機能に限定して展開されています。日本においてはこのような状況ですが、Uberのプラットフォームは世界中で利用されています。


 グローバルでは既に、様々な企業がUber同様のサービスを提供しており、国別にマーケットシェアの獲得競争が起きています。ライドシェアサービスは、生活者のライフスタイルにどの程度浸透し、またどれくらいのビジネス規模になっているのでしょうか。そして関連するマーケットはどう広がっていくのでしょうか。


■米国では既に頭打ち 各国で異なるライドシェアサービス市場の様相


 日本では「若年層の車離れ」と言われていますが、その理由の一つにシェアリングエコノミーへのシフトチェンジが起きていることが挙げられます。そして、その動きは数字からも明らかに読み取れます。


 以下の表は、グローバルで自動車販売台数の多い国の2016年と2017年の自動車販売台数と成長率、および各国の主要なライドシェアサービスアプリの月間平均利用人数と成長率です(日本を除く)。



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 中国、米国、インド、イギリス、ブラジル、ロシア、インドネシアといった7ヵ国の自動車販売台数の平均成長率は0.6%ですが、インド、ロシア、ブラジルにおいては未だに自動車の販売台数は10%前後の増加傾向が読み取れます(図表上部)。


 一方、App Annieのデータによると、各国で利用人数の多い主要なライドシェアサービスアプリの1ヵ月あたりの平均的な利用人数(MAU = Monthly Active User)やその成長率にも大きくバラつきがあることがわかります(図表下部)。


 たとえば中国は自動車販売の成長は低いものの、配車アプリ「DiDi(ディディ)」の急速な普及により成長率は70%と高くなっています。自動車の所有における法規制やコストの面もあり、明らかにライドシェアサービスへのシフトチェンジが起きています。


 米国は自動車販売、ライドシェアサービス共に頭打ちの様相です。ブラジルとロシアにおいては、上述したとおり自動車販売台数は依然増加しており、加えてライドシェアサービスの利用人数も急増しているという「成長国」と定義できるでしょう。


 このように自動車のライドシェアサービスも、国によってビジネスの成長環境や競争環境は様々です。一様にライドシェアのビジネスが拡大していると思い込むことは、経営資源を投下する意思決定をする上で非常にリスキーです。各国のビジネス規模や成長度合い、競争環境を定量的に把握したうえで、事業戦略を考えることが第一歩であることは言うまでもありません。


■ライドシェアの世界競争に取り残された日本は、何を逃したのか?


 では、次にマーケットの広がりについて見ていきましょう。皆さんはライドシェアビジネスに付随するビジネスとして、何を思い浮かべるでしょうか? 日本においては、ここ3年ほどの間で、Uber Eats(ウーバーイーツ)が急速に普及してきました。特に東京都心部においては、Uber Eatsのデリバリーケースを背負った配達クルーを毎日にように目にします。


 Uber Eatsは、レストランやカフェを運営する企業にとっては、配達に必要な従業員や配送設備(自転車・バイク・保冷保温のデリバリーケース等)を自社で持つ必要がありません。注文が入る度にUber Eatsが契約した配達クルーがお店で商品をピックアップし、注文したお客さんの指定した場所まで届けてくれるため、今まで固定費としてかかってしまっていた設備投資費や人件費をかけずに出前をすることができるようになります。


 フードデリバリーのサービスは今や日本国内にも様々ありますが、Uber Eatsの成長は目をみはるものがあります。詳細の数字は伏せますが、App Annieによると2017年1月から2019年6月の2年半で、単月の新規DL数は17.4倍の規模で獲得しており、単月のMAUは17.3倍に成長しています。まだ一部の都市でのみサービス展開しているにも関わらず、です。



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 日本人が好んでUber Eatsを使うようになることで、Uberには大量の日本人の食に関するデータが集まります。どんな人が、いつ、何を検索し、どの場所を配達先として保存し、配送料や配送時間と購買のボーダーラインはどのあたりなのか、何がどうなると買わずに離れていくのか、日によってどんな食事を好むのか、配送エリアとの関連性を紐解くデータ、特に「オーダーが入る前の生活者の振る舞いや嗜好」に関するデータを手に入れることが可能になっています。


 フードデリバリーサービスはマッチングサービスです。そしてマッチング精度を上げるために何よりも重要なのはデータです。生活者に対し、適切なタイミングで適切なメニューを適切な配送時間で、さらに適切な価格で提案をして購買を促すことができるようになります。


 Uberはライドシェアサービスのプラットフォーマーですが、生活の中で多くの時間を占める「移動」と、人が生きる以上必ず必要とする「食事」において、世界中の生活者のデータを手にしているのです。2019年7月18日に開催されたSoftbank World 2019の基調講演において、ソフトバンクの孫社長がしきりに「データ」というキーワードを話していましたが、その基調講演においてもUber、DiDi、Grab(グラブ)といった出資先のライドシェア企業のことを「AIとビッグデータの企業」と表現していたことが印象的でした。


■データを持つ企業こそが評価される


 先日、Uberは第1四半期の決算で約10億ドルの赤字を出したことが、多くのメディアで報じられました。現在のUberの収益構造を見ると、売上原価を構成する主な費用は、ドライバーへの支払とインセンティブ報酬です。さらに販売費および一般管理費の対売上高比率が非常に多く、特にセールス・マーケティング費用に多くを費やしてプロモーションに多くのお金を投じていることがわかります。


 一部メディアでもアナリストが述べていますが、過去5年間黒字を出したことのないUberが、100年の歴史を誇るGMよりも高い時価総額となっています。その理由として多く挙げられているのが「完全自動運転の実現」です。有人ドライバーが不要になれば、売上原価は激減すると見込まれます。そうするとドライバーへの報酬の代わりに自動運転システムの運営費用が売上原価に加算されますが、その金額は現在のドライバー報酬に比べれば格段に小さくなり、さらにドライバーへの報酬は変動費ですが、ITシステムは固定費であるため、規模の経済によって単位当たりのコストが下がっていくというメリットが見込まれます。





Uberに限らず、モバイルを中心に据えたビジネスは、市場からの評価を得て資金を集めやすい。2018年にニューヨーク証券取引所とNASDAQの市場に上場したIT企業は48社あったが、これらの合計評価額のうち、モバイルを中心に据えた企業の評価額が95%を占めた。


 完全自動運転の時代が来た時に、いかに生活者に対して最大限効率化された顧客体験を提供できるか。膨大なデータから導き出された精度の高いレコメンドや移動ルート、一人ひとりに最適化された食事の時間や内容の提案等、これらを高い精度で実現していくためにも、生活者のあらゆるデータを取得することが最重要課題だとわかるでしょう。


 ちなみに、App Annieのデータによると、AndroidのUber Eatsアプリには22個のSDKが入っています。SDKというのはソフトウェア開発キットのことで、アプリをアプリたらしめるために必要な「部品」です。アプリにSDKを入れることで、たとえば広告の効果を測定することができるようになったり、画像表示をスムーズにできるようになったり、決済ができるようになったりします。AppleやGoogleといったメジャーな企業が提供しているSDKが多く入っていますが、広告系だとTune、決済だとPaypal、パフォーマンス管理ではFabrtic、レイアウトエンジンはFacebook Yogaといった具合です。


 参考までに、日本のフードデリバリーサービスの雄である出前館アプリにも20個超のSDKが入っていますが、すべて外資企業が提供しています。これはすなわち、日本のサービスであっても、外資企業にデータが流れているということです。日本のIT企業は、データの重要性をより強く認識し、SDKをモバイル事業者に提供するというビジネスを検討してもよいのではないでしょうか。


■ライフスタイルを制覇する「スーパーアプリ」の台頭


 東南アジアにおけるライドシェア企業といえば、Grabの名前が真っ先に挙がると思いますが、今やGrabはライドシェアのみならず、食事やeコマース、個人間送金等、生活者のライフスタイルに幅広く浸透するビジネスを展開しています。


 これはGrabのプロモーション動画です。日本語字幕ではありませんが、Grabによるライフスタイルサービスの変化がよくわかると思います。


 Grabはリリース当初は自動車のライドシェアだけを提供していましたが、現在は様相を変え、ライフスタイルサービスを1つのアプリで提供するようになっています。複数の機能をシームレスに提供する形式を「スーパーアプリ」と呼び、中国のWeChatアプリもスーパーアプリの代表例です。



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 このGrabのビジネス規模はどの程度拡大してきているのでしょうか。App Annieのデータによると、毎月新規で300万人〜400万人がアプリをダウンロードし、今や6,000万人を超えるMAUをもっています。そしてその利用人数はいまだに増え続け、確実に東南アジアの生活者の生活インフラになりつつあることがデータからもわかると思います。 


■日本企業が存続・成長する鍵の所在


  ライドシェアサービスの動向は、「自動車産業のディスラプト」や「タクシー産業の衰退」といった直接的な影響が及ぶ企業や業界だけが把握しておけばいいものではありません。


 テクノロジーの進歩によって、ビジネスがデジタル化され、もしくはデジタルを活用してさらに高度化されていく現在では、国境を越えたビジネス展開は容易になっています。様々なビジネスの顧客接点の多くはアプリ化され、そのアプリは世界中にリリースすることができる環境が既に整っているのです。


 一方で日本の現状を振り返ると、厚生労働省の人口動態統計によると、2018年の合計特殊出生率は1.14 (3年連続減)で、2018年の出生数は過去最低の 91.8万人でした。さらに経済産業省が作成した資料(PDF)によると、僅か30年後の2050年の生産年齢人口比率は52%にまで下がると予測されています。この生産年齢人口は30年前は約70%だったことを見ると、いかに日本国内には生産力が残っていかないかが理解できるでしょう。


 加えて『OECD.Stat』を基に経済産業省作成した購買力平価ベース(2010年米国ドル基準)によると、2017年の時間当たり実質労働生産性の対米国比水準はG7中最下位。つまり、今後の日本は現在よりも生産活動を担う人口の絶対数がさらに減っていくばかりか、1人あたりの生産性も依然低いままという状況が容易に想像できるわけです。


 そうなると日本国内の生活者向けのビジネスをやっている企業はどうやって存続し、さらに成長をしていくことができるのでしょうか? その1つの解が、「グローバル展開」です。


 日本が先進的にマーケットをリードしてきた時代は過ぎ去りました。各国でデジタルビジネスを成功させている企業の強みを参考にするだけではなく、その国々の生活者が日々何に触れ、どのようなサービスに時間とお金を投下しているのか、データで把握することが重要です。そしてデータの中でも、モバイルデータの重要性は今後より高まります。


 まずはこのモバイルというビジネスプラットフォームを、どう取り込めば自社のビジネスが加速するのか、そして生活者がどのようなモバイルサービスに触れているのかを先入観を排除して定量的・客観的に把握して、自信をもった意思決定につなげていくことが求められるのです。

このニュースに関するつぶやき

  • 日本が何かを逃したのではなく、Uber等が日本では思うように利益を上げられてないという話じゃないか。市民を安くこき使って大企業が潤うビジネスなど普及しない方がよい。
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  • 横文字並べて胡散臭い、と思ったらガートナーさんですね。 https://markezine.jp/author/1167
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