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「夏休みに二重にしたい」と娘から告げられた 美容整形を止めるのは親のエゴか?

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2019年08月23日 11:30  AERA dot.

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写真親の勧めで、中学生のときに二重手術を受けた会社員の女性。「やったのにその程度かと思われるんじゃないかという恐怖も出てくる」とも語った(撮影/金城珠代)
親の勧めで、中学生のときに二重手術を受けた会社員の女性。「やったのにその程度かと思われるんじゃないかという恐怖も出てくる」とも語った(撮影/金城珠代)
 高校1年の夏休み、娘の目標は美容整形だった。

【画像】美容整形を公表した女性タレント ビフォーアフターはこちら

「整形します」と宣言されたとき、母親のAさん(51)は驚きと同時に、ついに来たかとも感じていた。娘が義母譲りの涼しげな一重を毎朝、アイテープで二重にするようになったのは中学生のころ。チャームポイントだと伝えてきたつもりだったが、本人は「パパとママはきれいな二重なのに……」「整形したい」と寝言のように繰り返すようになった。

 高校に入ってからアルバイトを始め、それまでのお年玉や小遣いを合わせると娘の貯金はすぐに50万円を超えた。手術方法や金額、病院の選び方、リスクについて自らインターネットで調べ上げ、夫の知り合いの美容外科医のクリニックでカウンセリングを受けて、保護者のサインが必要な承諾書を持ってきた。口出しされないよう、手術費用の10万円は「自分で払うから」と言う。術後の経過を考えて、手術日を夏休み直前の3連休にするという抜け目のなさも娘らしかった。

「二重手術なんて、みんなやっていますよ」

と知人の美容外科医は言い、夫も

「毎日、テープで二重にしているぐらいなら」

と受け入れた。

 Aさんはすぐに同意できなかったものの、考えれば考えるほど止める理由もわからなくなったという。親子と言えど、あの子の人生はあの子のものだし、「一重は悪いものじゃない」といくら言っても、娘の心には響かないだろう。「親からもらった体にメスを入れるなんて親不孝だ」という、よくある批判も薄っぺらく感じた。サインするまでに悩んだ期間は2日間。しかしそれは、受け入れるための時間だったのかもしれないとAさんは話す。

「あの子が笑って、前を向いていられることが大事。それなら立ち止まっているよりも、一緒に前に進もうと決めました。手術が失敗したり依存してしまったり、良くないことが起きたら全力でフォローする。でも今後、目以外のパーツを変えたら許さないということは伝えています」

 アメリカ、ブラジルに次いで世界3位の美容整形施術数を誇る日本。整形ユーチューバーが人気になり、整形を告白した芸能人が共感されるなど、一昔前とは整形に対する意識が変わってきていると言えるだろう。

 16年前から美容整形に関する調査を始め、『美容整形というコミュニケーション』などの著書がある関西大学の谷本奈穂教授(人間科学)はこう指摘する。

「私の調査では、女性の5人に1人は美容整形を受けたいと思ったことがあり、述べ約8%の人たちが実際に受けている。これは決して少なくない数字です。そして整形を望む人とそうではない人の間には年齢や既婚・未婚の差が無く、学歴や収入の影響もわずか。むしろ、母親に勧められたり逆に娘に勧められたり、同性の家族や友人との日常的な会話や噂話、美容経験に大きく影響を受けています。そして10代前半〜20代の若い世代では、インターネットで情報を得ていることが多く、約半数が自ら美容整形に関する情報にアクセスしたことがあると答えています。整形はより身近な選択肢になってきていると言えるでしょう」

 普通の中高生が、OLが、主婦が、普通に整形を考える時代の到来――ということだ。

 東京都内に住む会社員の女性、Bさん(25)は母親の勧めで美容整形を受けた1人だ。中学3年で二重の埋没手術を受け、その後も二重の再手術や目頭切開、小鼻の縮小、脂肪溶解注射などを受けている。怖がりでピアスホールも空けられないのに、メスを使った手術を受けてきたのは「この顔で生きていく方がよっぽど怖いから」だと話す。

 元モデルで目鼻立ちのハッキリした母親ではなく、父親似。女性が小学生のころから、母に

「一重だからアイテープしなきゃね。いまは整形も安いから」

と言われるようになった。テレビを見ていても、家族は女性芸能人の外見に「この子、可愛くない」「太ったんじゃない?」などと辛辣。Bさんは中学生になると何時間も鏡の前から離れられなくなり、常にメイク直しをしながら、どこを整形すれば効率的に変われるかを考え続けるようになった。醜形恐怖症だった。

 子役やモデルとして活動するようになっていたBさんに、母は酒に酔うと

「あんたぐらいの子はどこにでもいるんだから」

と暴言を吐いた。中学生で二重にするときも母が医者に聞いたのは、失明の危険があるかどうかだけだった。

 ファンに「かわいい」と褒められても「ブス専なんだな」としか思えず、異性に告白されても「自分なんかを好きになってダサい」と思ってしまう。高校時代は家にいられずに友だちの家を転々としたこともあったが、国公立大学に合格し、授業料を自分のアルバイト代でまかなって卒業。この春、就職した。

「会社で怒られても、具合が悪いときに電車で席を譲ってもらえなくても『ブスだからかな』ってすぐに顔のせいにしてしまう。わかっているんです、問題は私の中にある。ずば抜けた才能とか何も無くて、顔に執着するしか無かったのかな……。整形してからは『やったのにその程度か』って思われるんじゃないかという恐怖も出てくるし、今もツイッターで美容垢を400ぐらいフォローしていて、時間があれば(顔を)いじりたい。けど、(整形を)何度かやって昔よりは可愛くなったはずっていう自信もあるし、年をとって諦めというか、もう受け入れなきゃいけないなと思うようになりました」

 日本人の美容の関心が、極端に顔に偏っている――。日本美容外科学会もそう指摘する。世界では豊胸など体型に関するものが過半数を占め、顔の施術は4割なのに、日本では顔の手術が9割に達する。中でも二重まぶたにする重瞼術が最も多く、全体の4割を占めているのが現状だ(同学会による2017年中の手術数の調査)

 冒頭のAさんは、娘が幼いころ「いつか二重になるよ」と周囲に励まされたという。

「赤ちゃんでも二重と一重は全然印象が違うんです。でも、かわいそうと思ったのは一瞬。どんな目でも我が子は可愛いというのが親の本音ですよ」

 それでも娘の意志を尊重したのは、3つ上の長女の経験があったからだ。成績優秀で中高一貫の進学校に進んだが、人間関係の悩みから一時リストカットをするようになった。傷を隠す長女を羽交い締めにして、カッターを取り上げたこともあった。

「もったいないよ、きれいな手なのに」

 そう言いながら、親と言えど、子どもの心の内をすべてを知ることはできないと痛感した。それなら前向きでいられるようにサポートしよう。それが自傷行為が続いた半年間の教訓だった。二重になった次女が、手術室から出てきたときの満足そうな顔を見て、間違っていなかったと確信したという。

 それから3年後、次女は別の病院でさらに10万円かけて二重の再手術をした。メンテナンスがずっと続くとしても、毎月数千円のネイル代や美容室、脱毛、習い事をするのと同じようなものだと親子は納得している。

 Bさんも言う。

「私の親は賛成でしたが、もし親に止められたとしても、髪を染めたり、化粧はどうなの?としか思わない。自分の顔を決めるのは自分。誰にも言われたくない。ただ、整形に依存してしまう危険もあるし、限度は親がわかっていたほうが良いと思う。それに子どもには、大切な存在だよと伝えてほしい」

 整形した女性たちは、その理由について「自己満足のため」と口を揃えると谷本教授は言う。その言葉の裏に何が隠れているのか。

「美容整形は『若々しく』『あるがまま』など、知らず知らずのうちに社会から強制された考え方だけではなく、外見を加工することで内面を変えようとした結果でもある。髪型を変えたり、ダイエットやトレーニングで引き締まった体になったりすることと同じく、自分のアイデンティティーを形成するための選択です。近代以降、身体は自分の所有物になり、『親からもらった体に傷をつけるな』という否定は、本人には響きにくいかもしれません。ただ、親にも親の思いがあり、その選択に意見するのは真っ当なことだと思います」

 我が子が整形を希望したら、どんな言葉をかけるのか。止めるのは親のエゴなのか。その問題をすぐ隣にある現実として考えなければいけない時代になっている。(AERA dot.編集部・金城珠代)

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