『だから私は推しました』をアイドルオタクが見ると? 「現場あるある」の数々とそのリアリティ

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2019年08月24日 12:31  リアルサウンド

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『だから私は推しました』(写真提供=NHK)

 「なぜアイドルが好きなの?」という問いに、一言で答えることは難しい。パフォーマンスから元気をもらえるから。推しとコミュニケーションを取るのが楽しいから。メンバー同士のわちゃわちゃを見てると幸せな気持ちになるから。誰かが夢を叶えていく姿を応援したいからーー。


 言い出せばキリがないけれど、全てに共通しているのは「自分の人生が豊かになる」ということだろうか。アイドルオタクに限った話じゃないけれど、やっぱり趣味があると人生は何倍も濃く、楽しくなる。仕事や人間関係で辛いことがあって、アイドルに救われた経験は、筆者にも何度もある。


 現在NHKで放送中のドラマ『だから私は推しました』は、ひょんなきっかけで地下アイドルにハマったアラサーOL・愛(桜井ユキ)の物語。婚約者に振られ、会社の同僚との関係にもモヤモヤしていた愛は、たまたま訪れたライブハウスで、地下アイドルグループ「サニーサイドアップ」(通称・サニサイ)のメンバー・ハナ(白石聖)と出会う。


 ハナはグループの中でも一番の落ちこぼれ。ステージ上でオドオドとパフォーマンスするハナの姿に、人目ばかり気にしている情けない自分を重ねた愛は、人生で初めてアイドルオタクになり、ハナを“推す”ことに決める。


 ライブ会場で初めてレスをもらったり、一緒にチェキを撮ったり。現場に行きたいから仕事を頑張って片付けたり、オタ活で身につけた「合いの手」スキルを活かして営業のカラオケで大活躍したり……。初めてのドルオタライフを満喫する愛は、婚約者に振られて落ち込んでいた頃の何倍もイキイキしていて楽しそうだ。


 ここから愛とハナ、二人三脚で武道館公演を目指す……というサクセスストーリーなのかと思いきや、事態は一転。なんと一年後、愛は警察で取り調べを受けているのだ。刑事とのやりとりから推測するに、どうやら誰かをどこかから突き落として、その罪に問われている様子。一体誰を、何のためにーー? 一年前の愛の「オタ活」シーンと、一年後の「取り調べ」シーン。この二つの高低差にハラハラしていると、あっという間に30分が過ぎてしまう。


 少しずつ明かされる事件の顛末も気になるところだが、ドラマ内に登場する「アイドルオタク現場あるある」の再現度も見事で面白い。例えば第3話、愛のアイドルオタク仲間たちが、推しからサインをもらったTシャツの撮影ポーズをどうするかと話し合うシーン。


「こんなのどうです?『Teacher Teacher』」
「あっ、『What is Love?』は?」
「違う違う、世代考えろよ。『UFO』ですよね?」
「『ブレインストーミング』だよ! モーニング娘。の」


 「Teacher Teacher」はAKB48、「What is Love?」はTWICE、「UFO」は言わずもがなピンク・レディーの名曲だ。地下アイドル現場に通うオタクならば知っていて当然の、“地上の”アイドルたちの有名楽曲をテンポよく発言していく姿に、クスリと来てしまう。


 また、第4話でサニサイが出場を目指す「アイドルサマーフェスティバル」(通称アイサマ)というイベントは、毎年夏に開催されている国内最大のアイドルフェス「TOKYO IDOL FESTIVAL」(通称・TIF)のオマージュであることがわかる。


 余談だが筆者も、今年の夏に知人に誘われ、TIFへの出場をかけたアイドルのライブイベントに行ったばかりだった。それゆえに、第4話のリアリティはすごかった(ちなみにその時応援したアイドル「メガメガミ」は、無事にTIFへの出場が決まっていた)。


 それ以外にも、アイドルオタク同士の飲み会や、チェキ会でのサインの内容、ライブハウスに来る客の所作など……とにかく、いたるところのディティールがリアルで面白い。さらに、サニサイの新曲が劇中で発表されるタイミングで、YouTubeにも新曲のMVがアップされるなど、ストーリー以外にも楽しめる要素が満載だ。


 一方で、一年後の事件についても、まだ謎が多く気になるところ。これまでの愛の証言から、愛が突き落としたのは「瓜田」という男性であることが分かっている。瓜田は、愛がサニサイ現場に来るまで、ハナのTO(トップオタ。一番有名なファンのこと)だった人物。しかし、過剰な接触を求める瓜田にハナは辟易していた。愛はハナのために瓜田を突き落としたのか。


 第3話で、ハナにどんどんのめり込んでいく愛を見て、同僚が冷たく言う。


「共依存っていうんじゃないの、そういうの? カウンセリングとか行った方がいいと思うよ、マジで」


 ハナのために月に15万円もつぎ込み、給料が足りなくなったらチャットレディのアルバイトまでしてお金を稼ぐ愛。確かに、その関係は健全ではないのかもしれない。だけど、愛の頑張りによってアイサマのステージに立ったハナを見て、号泣するほど感動する愛の気持ちも、痛いほどよくわかる。自分の好きな人が、夢を叶える姿を見るのは嬉しい。しかも、その夢への一歩に、自分も少しでも貢献できていたならば、こんなに嬉しいことはない。


 人を好きになる気持ちには、終わりがない。自分でブレーキをかけるすべを知らないと、どんどん加速して、気がついたら取り返しのつかないところまで来てしまう。だけど、そこまでたどり着いた本人が不幸なのか幸せなのかは、本人にしかわからないのだ。


 愛とハナ、二人の関係は今後どうなっていくのか。事件の真相はなんなのか。今後の展開からも、目が離せない。(文=みずさき)


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