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体験型ショー『Tamara』がワクワクする理由/鴻上尚史

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2019年08月24日 16:22  日刊SPA!

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日刊SPA!

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― 連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―

◆体験型ショー『Tamara』がワクワクする理由

 あっと言う間にニューヨークから日本に戻ってきました。

 さて、前回の続き、好きな登場人物の後について回りながら、物語を体験する『Tamara(タマラ)』の話です。

 廊下で、女中についている観客だけが切ない顔になり、バカ息子とファシスト党の青年の後ろについている観客はニヤニヤしているという、衝撃の体験をした後、女中さんは、いろいろと働きます。僕達も、その後ろについて回ります。

 一時間ぐらいした所で、女中さんが最初の大広間に入ってきます。そこには、他の登場人物も全員集まっていて、なんとテーブルの上には、サラダとパン、お肉とスープがバイキング形式で用意されています。

 突然、執事が、「さあ、みなさん、食事の時間です。知らない者同士、『あの後、どうなったのか?』を話しながら、お食事をお楽しみ下さい」と言って、10人の登場人物は静かに去るのです。

 僕は、見るからに英語ネイティブじゃない人に向かって(ネイティブだとペラペラッと言われて、お手上げですからね)、「Who do you follow?」なんて質問し、相手がタマラをフォローしていると答えると、「メイドがコーヒーをサーブした後、主人がタマラに近づいたでしょう。何が起こったの?」なんて、とつとつと拙い英語で聞き、相手が「タマラは拒否した」なんて答えると、「オウ」なんて、肉を食いながら反応しました。

 で、食事の時間が終わると、また10人の登場人物が集まってきて物語は再開されます。

 もちろん、ここで後をつける人を変えるのも自由です。いろいろと、人の話を聞いて、「どうも、○○が面白そうだ」と思った人は、別の人物に変えていました。

 で、いろいろとあって、最後に、突然、銃声が鳴り響きます。

 その時、女中は地下の厨房にいましたから、音を聞いて全力で走り始めます。当然、後ろについている僕達も必死で走ります。

 銃声のした玄関までぜえぜえ言いながらたどりつくと、主人が倒れていて、女主人が銃を持ったまま呆然とした顔で立ち尽くしていて、タマラが驚愕の表情でそれを見つめています。三人の後ろの観客達は、それぞれに驚いています。

◆巧妙な進行とぶ厚い台本

 すべての登場人物と観客が集まった瞬間に、執事が「さあ、これで、『タマラ』はおしまいです。みなさまの後ろにコーヒーを用意しました。どうぞ、見知らぬ観客同士、コーヒーを飲みながら、いったい、何があったのか、お話し下さい」と宣言して去るのです。

 観客達は、わあわあ言いながら、コーヒーを飲み、興味津々で、物語の事情を話し合いました。

 今から、30年ほど前の体験です。

 僕は、ものすごく気に入って、5回ぐらい見ました。何度も見ていると、スタッフが階段の陰や窓の向こうに、見えないように配置されていて、全員がトランシーバーを持ち、俳優に対して「もっとゆっくり歩け」とか「急げ」とかのサインを無言で出していることにも気付きました。じつに巧妙にバレないように、全体の時間合わせをしているのです。

 あんまり気に入ったので、ちょうどバブル真っ最中だった日本でも上演してみたくなり、「面白い」と言い続けていると、興味を持った電通さんが台本を取り寄せてくれました。

 登場人物一人用が1cmぐらいの厚みで、10人全員の台本を積み上げると10‌cmになりました。

 かなり前向きだったのですが、結局、上演できそうな大きな屋敷が見つからずに、断念しました。

 どうも、ニューヨークは、まず「大きなお屋敷が売りに出された。こんな大きな屋敷、どうしよう?」という所から、「屋敷全体を劇場にして、登場人物が生活している風景を見せたらどうだろう」という流れになったみたいでした。

 西洋では、中世の時代、教会でキリストの受難劇が行われ、教会の中をいろいろと移動しながら上演するスタイルのものもあったのです。

 今、ニューヨークで話題の『Sleep No More』は、古いホテルがあったからできたのです。

 なんか、日本でもこういう芝居、やってみたいなあとずっと思っています。物語に参加して、歩き回るってワクワクすると思いませんか?

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