横浜流星が獲得した“ふたつの芝居”のやり方 『あなたの番です』と『はじこい』の共通点は?

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2019年08月25日 06:11  リアルサウンド

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『あなたの番です』(c)日本テレビ

 まぎれもないキラキラネームの俳優・横浜流星。当然ながら悪い意味ではない。なにしろ「星」だから。むしろ、このように芸名のような名前(本名)を持った以上、スターにならずには済まされない。ブレイクするのは必然だったのだろう。しかも所属事務所がスターダストプロモーションとは徹底している。


 横浜流星はデビューが2009年。大ブレイクのきっかけになった『初めて恋をした日に読む話』(19年・TBS系)に出会うまでには10年かかった。もっともデビューはまだ少年のときで、ティーン誌のモデルだったのだが、その後、俳優として活動し、去年まではたくさんいる若手イケメンのひとりだった。現在22歳、そこからみごとに抜け、花開いた、そのわけとはなんだろう。


 若手イケメンはまずテレビドラマや映画の特撮ヒーローものや青春群像ものなどに出演して、そこで同年代の俳優たちと切磋琢磨しながらそれぞれの道に進んでいく。そのなかであるときブレイクポイントに出会ったり、出会わなかったり、そこが運命の分かれ目だ。横浜流星の分岐点は、今年の頭に放送された『初めて恋をした日に読む話』のゆりゆりこと由利匡平だった。


 ピンクに髪を染めた不良高校生が、深田恭子演じる年上の教師に恋したことによって勉強に精を出し、東大に受かるという役どころがハマり、一気に注目された。こういう役割は簡単なようで難しいもので、勉強のできる役というリアリティーがなかなか出ない。俳優はたいていクレバーだが、それと勉強ができる、教養や知識量が多いこととは別で、その差が難しいところなのだ。


 横浜流星は高学歴を売りにしているタイプの俳優ではないが勉強のできる役に説得力が出たわけとは、思うに、子供の頃から極真空手をやって心身を鍛えてきたからこその凛々しさが頭の良さとリンクしたのではないだろうか。スポーツばかりやっていると勉強には縁がなくなるという意味合いで「脳みそ筋肉」という言葉があるが、横浜流星にはなぜかそれがない。むしろ、彼が鍛えあげた腹筋背筋の、ムキムキというよりも繊細に育まれた強さが脳にも影響しているような印象を受ける。大きな筋肉で大きな打撃を加えるのではなく、細かい筋肉がまるで弓矢が的を射るような鋭い一撃を生み出すような、それが頭の良い印象に繋がっているように思うのだ。


 しなやかな弓から放たれると矢の鋭さをもった横浜流星は、現在放送中の『あなたの番です−反撃編—』(日本テレビ系・日曜よる10時30分〜)で、正真正銘頭の良い、工学部大学院生役でAIを研究開発している二階堂忍役を演じていて、これもまた当たり役となった。横浜流星の成功は、ゆりゆりといい二階堂といい、うまいこと外しを入れてくるところにある。ゆりゆりは勉強のできない不良がじょじょに賢くなっていく意外性があり、二階堂も頭が良すぎて日常生活がヘンという落差があり、そこが魅力だ。


 “頭が良すぎて変人”という属性は、女子的に大好物で、過去にそういう役でブレイクした俳優は少なくない。代表的なところでいうと、『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』(14年・フジテレビ系)の斎藤工。昆虫が好き過ぎて生き方は不器用な教師役でブレイクした。再放送中の朝ドラ『ゲゲゲの女房』(10年・NHK総合)の向井理は、漫画一筋のやっぱり不器用な人物で大ブレイク。ほかに、『トリック』(2000年〜・テレビ朝日系)の阿部寛。天才的な頭脳を持ちながら、どこかいじまじいところが人気に。朝ドラ「梅ちゃん先生」(12年)の高橋光臣も勉強はできるが理屈っぽい変人で、脇役ながら人気が出てスピンオフも作られた。いまの朝ドラ『なつぞら』の中川大志が演じている役も東大出身の、なんでも根拠を求める理論派だ。このように、何かを極めるあまりほかのことには気が回らない人物が時々見せる隙がたまらなく魅力的に思える。『あなたの番です』の二階堂も、他者のニオイが嫌いで消臭スプレーを欠かさないとか、ひとの作ったものを食べられないとか、潔癖過ぎるところがかわいい。なにより、ジャージにトップスをインしているところがたまらない。お世話したくなってしまう。


 横浜流星が、突出した才能がありながら取り付く島のある役、その振り幅のある役を演じることができるようになったのは、様式性の高いヒーローものをやった後に、廣木隆一監督の青春恋愛映画でナチュラルな演技をたたきこまれ、ふたつの芝居のやり方を獲得したからだろう。ヒーロー過ぎても、ナチュラルな等身大の青年過ぎても物足りない、自分なりのハイブリッドの塩梅を見つけた者に道は拓かれる。


 8月23日に『あさイチ』(NHK総合)に出演し、自身は二階堂とは違い、他者と鍋をつつけないようなことはないと言っていたし、共演者の田中圭が、「まっすぐ」「クール」「根暗」(家で壁を見ている)などと証言しているなかで「クソガキの部分もある」と言っていて、そこにも、こう見えて意外にも……というくすぐりがあった。


 なかでも私が推したいのは、端正で涼しげな顔ながら、眉間に水疱瘡の跡みたいなものがあるところ。そこに横浜流星というスター然とした存在にふと日常性が垣間見えるようで、ホッとするのだ。(文=木俣冬)


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