宇多田ヒカル、崎山蒼志、Rude-α……作品や活動から感じる“キュレーター”としてのセンス

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2019年08月25日 08:01  リアルサウンド

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宇多田ヒカル『初恋』

 近年はバンド形態よりも単身で活動するアーティストが多い印象だ。だがレコーディングやライブになると、必ずそれをサポートする人材が必要になる。そこで誰をチームに誘うのかは、その人の美学や思想、人間関係が反映される大切な要素だ。今やソロアーティストやシンガーソングライターはコンセプトに沿った作品を選定し、企画を作り上げるキュレーターだと言えるだろう。そこから読み取れる情報に注目して音楽を聴いてみたい。


(関連:リズムから考えるJ-POP史 第9回:宇多田ヒカル『初恋』に見る「J」以後の「POP」


 人選と言えば、一般的な形式として客演(feat/featuring/ft.など)がある。これに関しては『Fantôme』以降の宇多田ヒカルが特に意識的で、小袋成彬やKOHH、JEVON、Suboi、Skrillexといった新進アーティストと共演を重ねてきた。最近は日本語を大切にした繊細なサウンドを追求している彼女だが、人選から時代の音楽にアンテナを張っていることがわかる。アジアの音楽シーンが注目されていること、ヒップホップから派生した音楽が世界を席巻していることは間違いなく理解しているはずだ。だが流行には流されない。自分のスタイルを堅持しながら、いいものだけを取り入れるというマイペースさを感じる。


 椎名林檎もシングル曲でトータス松本や宮本浩次を客演に起用するなど、昨今におけるJ-POPで客演に意識的な音楽家のひとり。宇多田の人選が新しい才能や時代への嗅覚を感じさせるのと対照的に、椎名の近作における人選は日本の音楽的レガシーを現代に再プレゼンテーションするかのようだ。これは“J-POP職人”を自称する彼女の作風や、東京五輪への情熱とも関係するかもしれない。日本を代表するシンガーで、個人的にも付き合いがあり、客演に積極的なふたり。しかし客演キュレーターとしてのベクトルは<ベテラン/若手>と逆を向いているのだ。


 さらにバンドセット時の人選も見逃せない。興味深かったのは6月29日、恵比寿 LIQUIDROOMで行なわれたAwichと唾奇のライブ。AwichバンドはSOIL&”PIMP”SESSIONS(以下、SOIL)のメンバーとパーカッション・小林うてな、コーラスにMeg、綿引京子。クラブジャズを出自としながらも個々のスキルが高いSOILの起用は納得だし「カリソメ乙女」を始めとした椎名林檎との共演を想起させてワクワクした。そしてBlack Boboiなど、刺激的な活動が目立つ小林の起用。こういうチームを作るにも審美眼が試される。


 対する唾奇バンドは、WONKのドラムス・荒田洸とベース・井上幹、MELRAWのサックス・安藤康平、MOP of HEADの鍵盤・George、ギター・小川翔、MPCとして、Disk Nagatakiとhokuto。WONK人脈が強い顔ぶれとなっている。現代ジャズのひとつの大きな柱はジャズとヒップホップの結束だったが、日本でもそういう動向がようやく定着してきた様な印象を受けた。両者のバンド的キュレーションを比べると「クラブジャズvsヒップホップに影響を受けた現代ジャズ」となる。これは少し乱暴ではあるが「ロンドン経由のジャズvsアメリカ経由のジャズ」と言い替えることも可能で、それを日本人が東京でやったのがおもしろい。


 またカバー曲にもアーティストの感覚は表れる。崎山蒼志が選曲したのは、ネットで確認できるだけでもクリープハイプ「手と手」、KANA-BOON「結晶星」、坂本九「上を向いて歩こう」、ゆらゆら帝国「空洞です」、ザ・スパイダース「バンバンバン」、薬師丸ひろ子「Woman “Wの悲劇”より」など。統一性がないと言えばないが、これがYouTubeネイティブ世代の思考なのかもしれない。リアルタイムだろうが、オールディーズだろうが関係なく「良い曲だから歌いたい」というスタンスが読み取れた。それにしても16歳でこのような振れ幅の楽曲がインストールされていることにおどろく。


 若手ラッパーのRude-αもSuchmos「STAY TUNE」、久保田利伸「LA・LA・LA LOVE SONG」、FUNKY MONKEY BABYS「告白」、あいみょん「マリーゴールド」、THE HIGH-LOWS「日曜日よりの使者」、ORIGINAL LOVE「接吻」など、独特なカバーセンスを持つ。崎山と比べるとポップな曲が並んでおり、Rude-αを形成しているのはヒップホップというよりJ-POPなのかもしれない、と深読みできそうだ。こういう点からも彼の越境的な活動を理解できるだろう。


 ほかに自主企画に呼ぶ対バンやDJ、アートワークに誰を起用するか、といったこともキュレーションとして捉えられるだろう。そう考えると今や活動のすべてが展示企画のようなものだ。アーティストはテクノロジーの発達やSNSで自由度が広がり、自分の価値観を多角的に表現するようになった。情報が氾濫する現代において「何を選択するのか」が重要な今だからこそ、アーティストの審美眼に注目してほしい。(小池直也)


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